ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「兄ちゃん…」
その名前が口からこぼれた瞬間、世界が止まったみたいに感じた。
セイントゴジュウウルフの刃を黒いウルフデカリバー50で受け止めた男は、俺の背中を庇うように立っていた。
クオン。
名前が脳裏に浮かんだ瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。鍵なんてかけてない。最初から扉は開いていた。ただ俺が目を背けていただけだ。
「おぉ、お兄ちゃんか。まさか来てくれたんだね。嬉しいよ」
セイントゴジュウウルフが口を開いた。青緑色の複眼が細められ、白いローブを翻してクオンに向き直る。その声には 喜びが滲んでいた。光の吠は、兄の存在を純粋に喜んでいるようだった。
「へぇ、吠がもう一人。これは凄いね」
クオンは笑みを浮かべた。状況を楽しんでいるような、それでいて全てを見透かしているような、そんな笑みだ。黒いウルフデカリバー50を片手に、もう片方の手で俺の方をちらりと見る。
「大丈夫か?吠」
「…大丈夫じゃねえよ」
俺は歯を食いしばりながら立ち上がった。肋骨が悲鳴を上げているが、今はそれどころじゃない。
「てめえなんでここにいんだよ」
「お兄ちゃんもさ」
セイントゴジュウウルフが一歩前に出た。白い装甲が朝日を受けて神々しく輝く。その姿は聖なる騎士そのものだが、口調は軽い。
「そこの不出来な弟よりも、僕の方が良いだろう? なんだって、僕は遠野吠の良い所しかないからね」
クオンはそれを聞いて、高笑いした。
「ははは! そうだね、確かにそっちの吠は良い所しかない」
笑い声が庭に響いた。セイントゴジュウウルフが満足そうに頷く。
「だろう? だからお兄ちゃんは僕を選ぶべき…」
「けれど」
クオンの笑みが変わった。笑っているのだが、その目は笑っていない。いや違う。笑っているが、そこにはもっと深い何かがある。俺にはわからねえ。だが、その目を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。
「欠点を含めて、全てを愛するのがお兄ちゃんだからね」
セイントゴジュウウルフの表情が凍りついた。青緑色の複眼が揺らぐ。
「だから」
クオンは黒いウルフデカリバー50を下ろし、空いた手を俺の方へ向けた。その掌に何かが光った。
センタイリングだ。
ガリュード。
その名前が脳裏に浮かんだ。なぜかわからない。だが俺の指がその名前を知っていた。リングがクオンの掌から滑り落ち、まるで意志を持ったように俺の手元へと飛んできた。
俺はそれを受け取った。指輪の冷たさが掌に吸い付く。だが冷たいだけじゃない。その奥から熱が滲み出している。俺の中の何かと共鳴する熱だ。
「出来の悪い弟を助けるのは当然だろ」
クオンは言った。その声は軽く、どこか楽しげで、でも何よりも温かかった。
俺は握りしめたリングを呆然と見つめていた。指先が震えている。リングのせいじゃない。兄の言葉が、俺の殻を内側から叩き割ろうとしているせいだ。
「…ふざけやがって」俺は呟いた。「出来が悪いとは何だ」
「はは、素直じゃないね相変わらず」
クオンは笑った。そして俺の頭を乱暴に撫でた。その手は温かく、大きく、確かに兄の手だった。
兄の言葉が、俺の中で弾けた。
手の中のガリュードのセンタイリングが熱い。俺の掌が、俺の血が、このリングを求めて脈打っている。
「チッ…借りだぞ、兄ちゃん!」
俺はテガソードの装填部へガリュードのリングを叩き込んだ。
『センタイリング!』
電子音声が響き、リングが激しく輝く。
「エンゲージ!」
俺は叫んだ。右手のテガソードと左手のテガジューンを、胸の前で「✕」の字に交差させる。
二つの武器の接触点から、爆発的な光が噴き出した。金色と銀色の光が混ざり合い、渦となって俺の全身を包み込む。
視界が白に染まる。骨が軋み、筋肉が膨れ上がる。獣の本能が体の内側から溢れ出し、荒々しい気迫が肺を満たす。
『クラップユアハンズ! 』
変身音声と共に、光が収束していく。銀と赤の装甲が全身を覆い、狼の意匠を持つマスクが形成される。いつものゴジュウウルフだ。だが変身はこれで終わりじゃない。
交差させたテガソードとテガジューンの中心、その交点に赤い光が集まっていく。凝縮され極限まで高められたエネルギーが、灼熱の「✕」の字となって空中に浮かび上がった。
赤い「✕」は、俺の胸元へと飛び込んだ。
ドンッ!
衝撃が胸を突き抜ける。黒鉄色の装甲が、その「✕」を核として急速に形成されていく。赤い十字の紋章が刻まれた重厚な胸部装甲が定着し、そこを起点にガリュードを思わせる追加アーマーが全身へと展開される。肩、腕、腰、脚。黒と赤の装甲がゴジュウウルフのボディを覆い、その力を鎧い上げていく。
『ガリュード!』
重厚な音声が響いた。それは追加装甲の完成を告げる合図だった。
その瞬間、背後から黒い布が噴き出した。まるで夜そのものを切り取ったような漆黒の布が、強風を受けて大きく広がる。ボロボロに裂けた裾が風に舞い、両肩へと固定される。
マスクは変わらない。狼の複眼はそのままに、ただ黒と赤の鎧とボロボロのマントを纏った姿。
ゴジュウウルフがガリュードの力を纏った姿。
俺は交差させていた武器を解き、テガソードを構えた。黒いマントが風に煽られ、獣の尾のように揺れる。
「見せてやるよ…借りを返す一撃を!」