ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
上空に浮かぶ巨大な金色の右手が、彷霊界の空を覆うように影を落としていた。
怨霊の怪物が唸る。地面が軋む。だが、俺の意識はもう、目の前の化け物よりも頭上のテガソードへ引き寄せられていた。
『アウェイキング!』
重い音声と共に、テガソードがまばゆい光を放つ。
金色の輪郭が唸るように震え、巨腕の内側で巨大な機構が目を覚ましていくのが分かった。呼ばれている。そう直感した瞬間、リングの熱が一気に膨れ上がる。
「リングイン! 人神一体!」
叫んだ瞬間、俺の身体が光に呑まれた。
浮かび上がる。落ちるんじゃない。引き上げられる。意識ごと巨大な力の中へ噛み合わされるみたいに、俺はテガソードの内側へ引き込まれていった。
熱い。だが焼ける熱さじゃない。もっと深い。心臓の鼓動が、そのまま巨神の駆動音と重なっていく。腕の感覚が広がる。脚の感覚が伸びる。視界が一気に高くなる。俺の意識と、テガソードの巨体がひとつへ結びついていく。
『掴め!切り裂け!レッド! 掴め!切り裂け!レッド!』
音声が轟く。
それに応えるように、巨大な右手だったテガソードが変形を始めた。金色の外殻が展開し、内部のフレームが組み換わり、巨神の輪郭が一気に立ち上がる。細かな仕組みまで目で追えるはずがない。ただ分かるのは、あの巨腕そのものが、今この瞬間、戦うための姿へ生まれ変わっているということだけだった。
「テガソードレッド!」
『テガソードレッド!!』
完成と同時に、巨体が大地へ降る。
轟音。
着地した瞬間、地面が爆ぜた。土がめくれ上がり、噴煙が柱みたいに噴き上がる。砕けた岩が周囲へ弾け飛び、衝撃が円を描いて彷霊界の地表を走った。片膝をついた巨神の拳が大地へ食い込み、遅れて巻き上がった土煙が左右へ吹き散る。
その中心で、俺はゆっくりと立ち上がる。
赤と金の巨体が噴煙の向こうで輪郭を現す。握った拳だけで空気が軋む。目の前の巨大怨霊が、初めて怯んだのが分かった。
巨大怨霊が、腹の底から濁った咆哮を吐いた。
その声だけで彷霊界の空気が震える。無数の顔が胴の表面で浮かんでは沈み、裂けた口という口から黒い靄を噴き出す。さっきまではただ膨れ上がっているだけに見えた化け物が、今は明確な悪意を持って俺を睨みつけていた。
上等だ。
こっちも、もう見上げる側じゃない。
テガソードレッドの巨体を一歩踏み出させる。地面が沈み、砕けた岩が足元で跳ねる。視界の高さも、力の重さも、何もかもが人の時とは違う。けれど不思議と戸惑いはなかった。テガソードの鼓動と俺の意識がひとつに噛み合っている。握った拳の先まで、自分の身体みたいに分かる。
その時だった。
怪物の胴体がぶくりと脈打つ。
「来る!」
叫んだ瞬間、無数の黒いものがそこから噴き出した。腕じゃない。鞭でもない。怨霊が寄り固まってできた、巨大な蛇だ。一本でも鬱陶しいってのに、それが何十、何百と、唸りながらこちらへ殺到してくる。口を裂き、牙の代わりに無数の手を覗かせながら、空を覆うみたいに降り注いだ。
でかい図体のくせに、嫌になるほど速い。
「ちっ……!」
テガソードレッドの右腕を振るう。
右腕と一体化した短剣が、金と赤の光を引いて閃いた。人の手に持つ刃とは違う。腕そのものの延長だ。振るうというより、巨大な身体の一部がそのまま斬撃へ変わる感覚に近い。
一閃。
先頭の蛇が胴から両断され、黒い霧になって弾けた。
だが一体斬ったくらいで終わる数じゃない。左右から二本、頭上から三本、足元を這うようにさらに何本も絡みつこうとしてくる。一本の首を断てば、別の首がその死角を埋める。鬱陶しいどころじゃない。まるで怨みそのものが牙を持って押し寄せてくるみたいだった。
「掴まるかよ!」
右腕の短剣で斬り払う。返す勢いのまま肘を振り上げ、頭上から来た蛇の口を切り裂く。真横から飛び込んできた一本を肩で受け、その勢いごと体を捻って胴を断つ。斬った端から黒い靄が散り、彷霊界の風に流れていく。だが、流れるより早く次が来る。
一本が左腕へ巻きついた。
「っ!」
重い。霊の寄せ集めのくせに、まるで鉄鎖みたいな締めつけだ。続けて二本、三本。脚にも胴にも絡みつこうとする。数で押さえ込み、そのまま呑み込むつもりか。
冗談じゃねえ。
俺は地面を踏み砕く勢いで力を込めた。テガソードレッドの巨体が唸り、まとわりついた蛇をまとめて引き千切る。千切れた端が泣き喚くように波打つ。その隙へ右腕の短剣を突き込み、縦一文字に切り上げた。刃は蛇だけじゃなく、その向こうの空気ごと裂くみたいに走り、まとめて何本もの首を吹き飛ばす。
手応えはある。
けれど、決定打にはならない。
巨大怨霊の本体が、奥でずっと笑っていた。無数の蛇はあくまで外殻だ。削っても削っても、本体そのものは傷一つ負っていない。むしろ、蛇を失うたびに胴の表面の顔が増え、怨念が濃くなっていく。
「面倒な野郎だな……!」
吐き捨てると、背中のマントが重く揺れた。
テガソードの力が、そこにあると告げてくる。背に翻る赤いマント。それは飾りじゃない。刃だ。切り札だ。
なら――ここで決める。
巨大怨霊がまた腹を脈打たせる。今度は一斉だった。空が黒く染まるほどの数の蛇が、束になって牙を剥く。避ける気はない。斬る。正面から、まとめて食い破る。
俺は右腕の短剣を構え、もう一度前へ出た。
地を蹴る。巨体が唸る。飛びかかってきた蛇の群れへ、真正面から突っ込んだ。右腕の刃が光る。斬る。裂く。押し切る。一本、二本、十本、数えきれない黒い蛇が、次々に霧へ変わって吹き飛んだ。けれどその向こう、本体の中心にある歪んだ核だけはまだ残っている。
見えた。
あそこだ。
俺は吠えるように息を吸い込み、背中のマントへ意識を叩きつけた。瞬間、背の赤い外套が硬質な輝きを放つ。布みたいに見えていたそれが、一気に輪郭を変え、巨大な刃へと戻っていく。
刃が背中で組み上がる。
熱い。
力が、全部そこへ集まる。
「終わりだぁっ!!」
テガソードレッドの全身をひねる。巨体が錐もみ回転へ入った。右腕の短剣を先端に、背中から戻った刃をまとい、全身そのものが巨大な穿孔機みたいに回る。空気が悲鳴を上げ、周囲の蛇が触れる前に吹き飛ぶ。
「テガソード・合斗狼ブレイカー!」
回転しながら一気に加速する。彷霊界の景色が螺旋を描いて流れ、巨大怨霊の核だけが真っ直ぐ視界の中心へ固定される。無数の蛇が遮ろうとするが遅い。触れた端から砕け、散り、闇になって消えていく。
貫く。
迷いなく。
怨みの塊だろうが何だろうが、まとめて粉砕する。
「うおおおおおおおおっ!!」
絶叫と共に、俺はそのまま怨霊の中心へ突き刺さった。
衝撃。
次の瞬間、巨大怨霊の胴体が内側から裂けた。無数の顔が一斉に絶叫し、蛇たちが空中でのたうつ。だが止まらない。回転の勢いそのままに核を穿ち、ぶち抜き、霊の寄せ集めだった巨体を真っ二つどころか粉々に砕いていく。
轟音が彷霊界を揺らした。
黒い霧が爆発したみたいに四方へ吹き飛び、砕けた怨念の塊が流星雨みたいに降り注ぐ。その中心を突き抜け、俺は大地へと着地した。巨体が土を抉り、噴煙が荒れ狂うように噴き上がる。遅れて舞い上がった岩の破片が、ばらばらと地面へ落ちた。
背後で、巨大怨霊の残骸が崩れていく。
無数の呻きが、次第に薄れ、最後にはただの風みたいに消えた。
俺は立ち上がる。
まだ拳の中に、撃ち抜いた感触が残っていた。
「……ざまあみろ」
噴煙の向こうに、もう化け物の影はなかった。