ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
白い刀身が光った、と言ったところだ。
あの瞬間から、展開が速かった。
ゴジュウレオンが動いた。テガソードを一閃させようとしたその隙を、ライブが突いた。ツーサイドウェポンの剣形態から放たれる斬撃。白い刀身が空気を裂く音が、白黒の世界に乾いた響きとして刻まれる。
だがゴジュウレオンは、もう右手だけで戦ってはいなかった。
左腰のホルスターから、銃を引き抜いた。
レオンバスター50。
ライオンをモチーフにしたガトリング銃型の専用武器だ。タテガミ部分がガトリング機構になっていて、銃口はライオンの口を思わせる造形。ゴジュウレオンの青と金の装甲と同じ色合いの銃身が、白黒の世界の中で異彩を放つ。
「僕の流儀はねえ、客を飽きさせないことなんだよ!」
陸王の声が響いた。ゴジュウレオンがテガソードの斬撃をライブに向けつつ、左のレオンバスター50をライブに向けて構える。ガトリングのタテガミ部分が回転を始めた。
ダダダダダダダ!
弾幕だ。
レオンバスター50の連射が白黒の空間に黄色い光弾の奔流を生み出す。ライブのツーサイドウェポンからの斬撃と、レオンバスター50の弾幕が同時に放たれた。
ライブは横に跳んだ。
白い装甲が白黒の空気を切り裂きながら、弾幕を回避する。速い。だがレオンバスター50の連射は止まらない。タテガミ部分のガトリングが唸りを上げ、弾丸が追尾するみたいにライブの軌道を予測して射線を敷いていく。
「制圧射撃! これが王者の射撃戦だよ!」
ゴジュウレオンが叫んだ。レオンバスター50を固定せず、流れるような動きでライブの逃げ道を塞ぐ。陸王の戦い方だ。相手の視線と意識を操作し、華麗な動きで引きつけ、その隙に射撃で制圧する。
ライブはツーサイドウェポンを銃形態に戻した。
白い銃身が展開し、ライブガンとして構えられる。弾幕に対抗して、光弾を撃ち返す。パンパンパン! 正確な三点バースト。弾丸一発一発が狙い澄ましたようにレオンバスター50の弾道と衝突する。
光弾と光弾がぶつかり合い、白黒の空間に白い火花が散る。
「ほう…」
白玖の声が漏れた。平坦な声。だが微かに、ほんの微かに、何かが混じっている。感心じゃない。確認だ。弾幕の密度と精度を確認している。作業的な音だ。
「射撃戦も上手いね。さすがは元アイドル。視線を操るのが得意なんだ」
「アイドル時代の経験が武器になるなんて、人生わからないもんだねえ!」
ゴジュウレオンが笑った。余裕のある笑み。だが目は笑っていない。レオンバスター50のタテガミが唸りを上げ、さらに連射速度を上げる。
ライブは弾幕の中を滑るみたいに動いている。被弾していない。だが距離も詰められていない。ゴジュウレオンの射線がライブの動きを制限し、ライブの射撃がゴジュウレオンの接近を阻む。互いに譲らない、銃撃の組み手みたいな状況だった。
(すげえ……)
俺は縁側で息を止めて見ていた。白玖の戦い方が変わった。さっきまで接近戦だったのが、ゴジュウレオンがレオンバスター50を取り出してからは射撃戦に移行した。白玖はそれに合わせてツーサイドウェポンを銃形態に戻し、射撃で応じている。
臨機応変だ。感情のない平坦な戦い方だが、状況判断だけは鋭い。無駄がない。苦しむことがない。まるで歯車が噛み合うみたいに、次の手が次の手を呼んでいる。
だが。
(何かがおかしい)
俺の背筋がぞっとした。白玖が、焦っているように見えない。余裕があるようにも見えない。ただ……淡々と作業している。戦闘を。命のやり取りを。まるで書類仕事をこなすみたいに。
それが怖かった。
「レオンガトリングバースト!」
ゴジュウレオンが叫んだ。レオンバスター50のタテガミが最高速度で回転し、黄金の弾幕が形成される。 usually の連射を遥かに超える密度の弾の壁が、ライブに向けて殺到する。
避けきれない。
俺でもそう思った。だが白玖は、思わなかったらしい。
ライブはツーサイドウェポンを構えたまま動かなかった。弾幕が迫る。あとコンマ数秒で命中する。だが白玖の左手が動いた。
ジクウドライバーの右側。
装填されたライブのライドウォッチ。その上部にあるボタンに、白玖の指が添えられた。
カチリ。
ボタンが押された。
音は小さかった。だが響きがデカい。その音は、今までの戦闘音の全てが一瞬で停止するくらいの存在感を持っていた。
俺は息を止めた。
文字盤が反転した。
ジクウドライバーの回転機構に浮かぶ文字盤の、白と黒が、反転した。白だった部分が黒になり、黒だった部分が白になる。パラパラと硬貨が裏返るみたいに、瞬時に色が入れ替わる。
同時に、周囲に浮かぶ巨大な時計盤も逆方向へ回り始めた。さっきまで時計回りだったのが、反時計回りになる。世界が逆巻くみたいな、目が眩むような感覚。
そして。
黒い影が現れた。
コウモリだ。
さっきの変身時に現れた白いコウモリとは正反対の、漆黒のコウモリの影。翼を広げ、ライブの全身を覆いかぶさる。黒い翼の膜が白い装甲に被さり、色が滲むみたいに白から黒へ染め替えられていく。
「え……?」
ゴジュウレオンが弾幕を止めた。陸王の驚きが声に乗った。
白い装甲が、消えていく。
いや消えているんじゃない。染まっている。白だった部分が黒に、銀色だったラインが濃紺に、胸の模様が鋭く変形しながら色を変えていく。手足のプロテクターが鋭角な形状に組み替わり、棘みたいな突起が現れる。
頭部装甲が組み替わった。
コウモリを模した頭部のフォルムが変わる。ライブの柔らかな曲線から、より鋭角的な形状へ。マスクの意匠が変化し、複眼の形も変わる。青かった複眼が、赤紫へと色を変える。
黒いコウモリの翼が、左右へ開いた。
パサリ。
布を翻すみたいな音と共に、翼が展開する。その隙間から姿を現したのは。
仮面ライダーエビル。
黒と濃紺の装甲。鋭いライン。赤紫の複眼。ライブとは正反対の姿。だが纏っている人間は同じだ。同じ少年が、同じ顔で、同じ姿勢で立っている。
変身解除もドライバーの再回転もなかった。ライブのライドウォッチのボタンを押しただけ。それだけで、白い蝙蝠から黒い蝙蝠へ。ライブからエビルへ。直接変化した。
「待て……今の、どういう……」
ゴジュウレオンがテガソードを構え直した。陸王の声が動揺している。無理もねえ。ライブは善のライダー、エビルは悪のライダーだ。本来なら別人格がそれぞれのフォームを担当する。だが白玖は、変身の瞬間も今も、表情を変えていない。声も変わっていない。平坦な、無感情な声のまま。
同時にツーサイドウェポンも変化した。
ライブガンの銃口が折り畳まれ、内部から黒い刃が展開する。銃形態から剣形態へのモードチェンジ。白玖がライドウォッチのボタンを押した時、その信号を受けたツーサイドウェポンの反転機構が自動で作動したらしい。ライブガンがエビルブレードへ。武器の色も白から黒へ反転している。
白玖は武器を持ち替えなかった。
手の中でモードが切り替わったその瞬間に、もう動いていた。
黒い刃を振り抜く。
速い。
銃撃戦のリズムが、いきなり接近戦のリズムに切り替わった。ゴジュウレオンの思考が追いつく前に、エビルブレードがテガソードと激突する。
ガキン!
金属音が響いた。黒い刃と金色の刃が噛み合い、赤紫と青の光が散る。
「くっ……!」
ゴジュウレオンが踏ん張る。だがエビルの力はライブと違った。より鋭く、より重い。フォームの性格が変わったのか。いや白玖の戦い方が変わったのか。銃撃中心だった戦い方が、一転して静かな接近戦になった。
エビルブレードがテガソードを弾いた。
ゴジュウレオンが半歩後退る。その隙にエビルが踏み込む。黒い装甲が白黒の空間に溶け込み、まるで影そのものみたいに見えなくなった。
(見えねえ……!)
俺は目を凝らした。白黒の世界の中で、黒い装甲が背景と同化する。だが白玖はそこにいる。刃だけが見える。黒い刃が金色の刃を弾き、弾かれ、また弾く。奇襲みたいな接近戦だった。
ゴジュウレオンがレオンバスター50を持ち上げた。近距離からの制圧射撃。だがエビルはそれを読んでいたみたいに体を沈め、レオンバスター50の銃口の下を潛り抜ける。
エビルブレードがゴジュウレオンの腹部を狙う。ゴジュウレオンはテガソードの柄で受ける。ガギン! 二つの武器が噛み合い、互いに押し合う。
「イビル……?」
ゴジュウレオンの声が震えた。
「ライブからエビルへ。善から悪へ。――人格が変わったのか?」
その問いに、白玖が答えた。
平坦な声で。
「どちらもボクだよ」
ゴジュウレオンが息を呑んだ。
「白が正しくて黒が悪い。そんな分け方は、色が見える者の都合だよ、百夜陸王」
白玖の声には、怒りも嘲笑もなかった。ただ事実を述べるだけの平坦な声。
「ライブもエビルも同じボク。善のボクも悪のボクもいない。ただフォームが変わっただけ。用途が変わっただけ。銃から剣に持ち替えるのと同じ」
エビルブレードを押し込む。黒い刃がテガソードの柄を圧し、ゴジュウレオンの足が石畳を削る。
「君たちは色で判断する。白は善、黒は悪。明るいは正、暗いは誤。でもボクには色が見えない。だからボクには、その判断基準がない。どちらも同じ。どちらもボク」
「……!」
ゴジュウレオンが押し返した。テガソードに力を込め、エビルブレードを弾き飛ばす。距離を取る。二つのライダーが再び對峙した。
ゴジュウレオンは息を整えながら、エビルを見つめていた。陸王の思考が見て取れる。善の人格と悪の人格が入れ替わったと思った。だが違う。白玖はどちらのフォームでも同じ人間だ。同じ平坦な感情、同じ無表情な顔、同じ冷静な判断。
(そういうことか……)
俺は縁側で膝を抱えていた。白玖にとって、ライブとエビルの区別は色の有無と同じだ。見えないから使える。どちらが善でどちらが悪かなんて関係ない。必要な時に必要なフォームを使う。それだけだ。
だがそれが、逆に恐ろしい。
善も悪もない。ただ用途があるだけ。白玖の世界には、倫理も道義もない。快と不快。それだけ。だからこそ、他人の感情を消すことに躊躇がない。罪悪感すらない。
ゴジュウレオンはテガソードとレオンバスター50を構え直した。二刀の構え。テガソードを右、レオンバスター50を左。青と金の獅子が、黒い蝙蝠を睨み据える。
「…わかったよ白玖」
陸王の声が、少し変わった。動揺が消えた。代わりに、覚悟みたいなものが乗っている。
「君にとって善も悪も同じ。色がないから判断基準もない。そういうことなんだろう?」
「そう」
白玖が答えた。エビルの赤紫の複眼が、静かにゴジュウレオンを見つめている。
「でもね」陸王が続けた。「僕たちは色があるからこそ、苦しみもするし喜びもする。泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑う。それが人間だ。君の普通と僕たちの普通は違う。でも違って当然なんだよ」
「……」
白玖は答えなかった。
エビルブレードを下段に構え、静かにゴジュウレオンを見据える。答えの代わりに、黒い刃が光った。
「来る」
ゴジュウレオンが構えを固めた。
エビルが地面を蹴った。
黒い影が白黒の空間を裂く。速い。ライブの時よりも速い。フォームが変わったことで機動力が上がっている。エビルブレードを下から上へ切り上げる軌道で、ゴジュウレオンの懐へ飛び込む。
ゴジュウレオンはテガソードを斜め下に構え、斬り上げを受け止めた。ガキン! 黒と金の火花が散る。だがエビルは止まらない。受けた刃を滑らせ、テガソードの腹を伝ってエビルブレードを押し滑らせる。刃がゴジュウレオンの胸甲を掠める。
「ぐっ……!」
ゴジュウレオンが後退った。胸甲に浅い傷が走る。青い装甲が一筋削られ、金色のラインが断ち切られた。
「浅い……! だが……!」
ゴジュウレオンはレオンバスター50を至近距離で構えた。タテガミが回転する。零距離射撃の気だ。
だがエビルはもう動いていた。
レオンバスター50の射線から横へ滑り込み、エビルブレードで銃身を弾き上げる。銃口が上を向き、放たれた弾丸が天井を突き抜ける。
「くそっ、速い……!」
ゴジュウレオンがテガソードを振り下ろす。だがエビルはそこにいなかった。横へ回り込み、背後を取る。
(背後を取られた……!)
俺は声を上げかけた。だがゴジュウレオンも反応していた。体を捻り、テガソードを横薙ぎに振るう。背後からの斬撃を blade で弾く。ガギン! 二つの刃が背中合わせで噛み合う。
「やるねえ!」
陸王の声には、焦りと興奮が混じっていた。
「さすがは王者。接近戦でも隙を見せない。でも……」
白玖の声が、背後から聞こえた。平坦な、感情のない声。
「ボクは君を倒さなくちゃいけない。君が持っているライドウォッチを、ボクに渡してほしい。それがボクの作業だから」
「作業、か。僕の歌を聞いても、まだそう言うかな」
「聞く耳は持ってるよ。でも答えは変わらない」
エビルブレードがテガソードを弾いた。二つのライダーが離れ、再度對峙する。
ゴジュウレオンの青い複眼と、エビルの赤紫の複眼。白黒の世界の中で、二つの色だけが互いを睨み据えていた。
「……まだ始まったばかりだよ、白玖」
ゴジュウレオンがテガソードを正眼に構え直した。
「僕は諦めない。君の色を、僕が見つけてみせる」
白玖は答えなかった。
エビルブレードを構え直し、静かにゴジュウレオンを見つめる。
風が吹いた。白黒の世界に、初めて動きが生まれた。苔が揺れ、石畳の上の砂が舞う。
二つの影が、同時に地面を蹴った。