ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
二つの影が交差した。
黒い刃と金色の刃が、白黒の空間で幾度もぶつかり合う。
ガキン! ガギン! ギン!
金属音が境内に反響し、まるで不協和音の楽譜みたいに連なっていく。俺は縁側で身を乗り出しながら、その応酬を見守っていた。
ゴジュウレオンはテガソードとレオンバスター50の二刀流で応戦する。青い獅子が唸りを上げ、黒い蝙蝠を追い詰めようとする。だがエビルは影みたいに捉えどころがない。白黒の空間に同化し、ゴジュウレオンの死角から鋭い一撃を繰り出してくる。
互角だ。
フォーム性能で言えばゴジュウレオンが上回っているかもしれない。だが白玖の状況判断と反応速度がそれを補って余りある。無駄のない動き。感情の揺らぎがないからこそできる、冷徹な戦闘演算だ。
「はあっ…!」
ゴジュウレオンが息を吐きつつ、テガソードを横薙ぎに振るう。エビルはバックステップでこれを回避した。距離が開く。
その瞬間だった。
エビルの赤紫の複眼が、ふと逸れた。
ゴジュウレオンから。
その背後へ。
本堂の奥、雪庭和尚の傍で控えている葉哲へ。
「……」
白玖が黙った。
エビルのマスクの下で、反転した瞳が葉哲を捉えている。
「あの人」
白玖が呟いた。平坦な声だ。だがその中に今までになかった響きがあった。疑問でも怒りでもない。「違和感」を発見した時のような音だ。
「不快だ」
唐突な言葉だった。
俺は思わず眉をひそめた。「はあ?」と声を出しかけたが、白玖は聞いちゃいねえ。
「百夜陸王も不快だけど、あの人はもっと不快だ」
エビルがエビルブレードを下ろした。構えを解いたわけじゃない。意識のベクトルが変わっただけだ。戦闘態勢のまま、体の向きだけを葉哲に向ける。
「顔が笑ってるのに、中が笑ってない。色が見えない僕でもわかる。あれは歪みだ。ノイズだ。耳障りな音だ」
白玖の言ってることは支離滅裂に聞こえるかもしれない。だが俺にはわかった。こいつは「色」が見えない代わりに「歪み」が見えるんだ。葉哲のあの人形みたいな笑顔。いつも張り付いて剥がれない営業用の仮面。それを白玖は「不快なノイズ」として感じ取っている。
「葉哲さん!」
ゴジュウレオンが叫んだ。白玖の意識が逸れた瞬間を突くつもりだったのかもしれない。だが白玖はもうゴジュウレオンを見ていなかった。
「消してあげる」
白玖が言った。
慈悲みたいに聞こえる言葉だ。だがその中身は傲慢だ。自分にとって不快なものを存在ごと消し去る。それを救済と呼ぶ。こいつの狂気はそこにある。
「君のその不快な仮面。無理して被らなくていいよ。僕が消してあげる。そうすれば君も静かになれる」
エビルの左手が動いた。
『ファム』
その音声と共にゆっくりと、色は黒く染まっていく。
腰のジクウドライバー。右側にはライブのライドウォッチが装填されている。だが左側にはまだ空きがある。
白玖の右手から黒い粒子が溢れ出した。
『黒白』。
白玖の特殊能力だ。ライドウォッチを白黒に染め上げる力。
粒子が凝縮し形を成す。
カチリ。
『ファタム』
名前なんてどうでもいい。こいつは白玖が作り出した「不快を消すための道具」だ。
「葉哲さん! 下がって!」
ゴジュウレオンが叫んだ。テガソードを構え直しエビルと葉哲の間に割って入ろうとする。
だがエビルは既に動いていた。
翼を広げ羽根を撒き散らしながら滑空する。
速い。
エビルの時よりも軽やかだ。羽根一枚一枚が鋭利な刃みたいに空気を切り裂く。そしてその羽根が目くらましになる。白黒の羽根が視界を埋め尽くしゴジュウレオンの視線を遮断する。
「くっ…見えない…!」
ゴジュウレオンがレオンバスター50を乱射する。だが弾丸は羽根を掻き分けるだけでエビルには当たらない。エビルは羽根の嵐の中を縫うように飛び葉哲へと急接近する。
「消えてしまえばいい」
エビルの手が伸びた。
白と黒で彩られた手刀が葉哲の顔面へと迫る。「不快な仮面」ごと顔を切り裂くつもりか。
「やめろぉっ!」
俺は縁側から飛び出した。間に合わねえかもしれない。だが見過ごすわけにはいかねえ。
その時だった。
「…結構です」
葉哲が動いた。
笑顔が消えていた。
初めて見る素の表情。冷徹な目付きだ。
葉哲は後退りもしなかった。前に出たのだ。エビルの手刀が頬を掠める。血が一筋走った。だが葉哲は眉一つ動かさずエビルの手首を掴んだ。
「僕の仮面を剥ぐのは僕です。君に勝手に消される筋合いはありません」
低い声だった。
管理官としての声じゃない。もっと剥き出しの人間としての拒絶だ。
「ほう…」
エビルの手首を掴まれたまま白玖が呟いた。
「まだ消したくないの? 不快なのに?」
「不快かもしれない。でもそれは僕が選んで被っているものです」
葉哲はエビルの手首を離させなかった。十二歳の少年相手に力勝負で押しているわけじゃない。気迫だ。絶対に譲らないという意思がそこにはあった。
「過去とか経緯とかそういう話をしているんじゃありません。君は他人の中身を勝手に決めつけて消そうとしている。それは救済じゃない。暴力です」
「暴力…」
白玖が首を傾げた。
本当にわかっていないみたいだ。自分の行動が暴力だと指摘されてもピンときていない。
「百夜陸王も同じことを言うね」
エビルが顔を上げた。ゴジュウレオンを見る。
「君たちも他人の客席まで消す権利はないって言うのかい?」
「言うよ!」
ゴジュウレオンが吼えた。
羽根の嵐の中から飛び出しテガソードを振り下ろす。エビルは葉哲から離れ刃を回避する。
「感情は危うい! 僕自身それを嫌というほど知ってる! 期待に押しつぶされそうになったこともある! だからこそ他人の感情まで勝手に消す権利はない! それはその人の人生そのものなんだから!」
ゴジュウレオンの剣撃がエビルを追う。
エビルは羽根を散らしながら後退する。だがその動きに焦りはない。
「わからないなあ」
白玖の声は平坦だった。
「危ういものを持っていると怪我をするよ? 君も知ってるんでしょ? 期待に押しつぶされそうになったって。それならなおさら消した方がいいのに」
「消えたら僕は僕じゃなくなる!」
ゴジュウレオンとエビルの剣と手刀が交差した。
ギイン!
火花が散る。いや羽根だ。白黒の羽根が舞い上がり二人の周囲を包み込む。
「僕はアイドルだった! 笑顔で歌って踊ってそれで食べてきた! でもそれは全部僕の一部だ! 辛かったことも苦しかったことも全部引っくるめて百夜陸王なんだ! 君にそれを否定される筋合いはない!」
ゴジュウレオンがテガソードを押し込む。
エビルは両手で受け止める。
白と黒と青と金。
色彩を持つ者と色彩を持たない者。
そのぶつかり合いはただの剣戟以上のものだった。存在そのものの衝突だ。
「…強情だね」
エビルが押し返した。
羽根が爆発的に増殖する。
ジクウドライバー左側に装填されたライドウォッチの力だ。ファム本来の能力である羽根による幻惑攻撃を物理的な弾幕として展開している。
「ボクには色がないからわからないんだろうねえ」
白玖は言った。
エビルの手刀が羽根の中から突き出される。
ゴジュウレオンはそれをテガソードで弾くが二撃三撃と連続で襲い来る。
「でもね色がないからこそ見えるものもあるんだよ」
エビルの手刀がゴジュウレオンの胸甲を掠めた。青い装甲片が飛ぶ。
「君たちのその感情ってやつはいつか自分を壊すよ。壊れる前にボクが直してあげるのに」
「余計なお世話だ!」
ゴジュウレオンがレオンバスター50をエビルに突きつけた。
零距離射撃。
ダダダダダダダ!
黄色い光弾がエビルの肩を掠め黒い装甲片を飛ばす。
「くっ…!」
初めてエビルから苦悶の声らしきものが漏れた。だがすぐに平坦に戻る。
「痛いのは不快だね」
エビルは後退った。羽根を盾にして距離を取る。