ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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翼折れて、なお空を思う

地面が、冷たい。

 

背中に石畳の硬さが突き刺さっている。粉塵と花弁が混ざった空気が、肺に流れ込んでくる。禽次郎は仰向けに倒れたまま、月を見ていた。

 

その月が、花弁の向こうで歪んでいる。

 

歌舞鬼が立っている。

 

音もなく着地した鬼が、月明かりを背にして静かに獲物を見下ろしている。音叉剣の切っ先が、禽次郎の喉元に向けられている。銀色の刃先が、花弁の一枚を切り裂いた。

 

(動け)

 

禽次郎は思った。翼が砕けている。片方の翼が完全に機能を失っている。もう片方も関節をやられて、満足に動かない。空はもう取れない。だが地上で終わるわけにはいかない。

 

歌舞鬼が動いた。

 

速い。地面すれすれを滑るように間合いを詰めてくる。音叉剣の切っ先が、一直線に禽次郎の喉へ向かう。

 

禽次郎は右手を叩きつけた。

 

地面に手を突いて、体を横に転がす。音叉剣が石畳を斬る。ガキィン。火花が散って、コンクリートの欠片が飛んだ。転がった先で、禽次郎は立ち上がる。膝が笑っている。だが立つ。

 

「テガソード」

 

禽次郎が左手で呼んだ。

 

空中から金色の剣が降ってくる。巨大な手を思わせる形状。手の甲にセンタイリングを装填する構造。禽次郎はそれを掴む。

 

歌舞鬼が二撃目を放った。

 

上段から振り下ろされる音叉剣。禽次郎はテガソードを横に構えて受けた。

 

ガギンッ。

 

火花が散った。金属と金属がぶつかる音が、夜の境内に響く。衝撃が腕を伝って体を揺らす。だが受け止めた。受け止めきった。

 

だが次の瞬間、禽次郎の足が地面を滑った。

 

ズザザッ。

 

押される。音叉剣の間合いが長い。テガソードより、明らかに長い。歌舞鬼は長い間合いを保ったまま、押し込んでくる。禽次郎は受け止めながら後ろへ後ろへと滑っていく。

 

(射程が違う)

 

禽次郎は歯を食いしばった。歌舞鬼の音叉剣は、テガソードより一尺以上長い。間合いの外から一方的に斬れる。こちらは届かない。届かないまま、押される。

 

歌舞鬼が三撃目を放った。

 

横薙ぎだ。禽次郎はテガソードを縦に立てて受ける。ガキィン。火花。だが横薙ぎの衝撃で、体が横に流れる。足がもつれる。バランスが崩れる。

 

そこへ四撃目。

 

今度は突きだ。音叉剣の切っ先が、禽次郎の胸部装甲を狙う。禽次郎は体を捻って避ける。ギリギリだ。刃先が装甲を掠めて、火花が散った。

 

「くそっ」

 

禽次郎が呟いた。押され続けている。防戦一方だ。翼を失ったゴジュウイーグルは、地上では歌舞鬼に敵わない。間合いも威力も、リズムも全部負けている。

 

歌舞鬼が止まった。

 

音叉剣を構えたまま禽次郎を見ている。緑色の複眼が、静かに光っている。だがその静けさの中に刃のような冷たさがある。

 

「なぜ止める」

 

歌舞鬼が言った。低い声だ。八十二年分の重みが乗っている。

 

「私を止める理由が、あなたにあるのか」

 

「あるよ」

 

禽次郎は答えた。膝を立て直しながら。息が荒い。だが声は明るい。へらりとはしていない。もっと静かな、正直な明るさだ。

 

「あんたが中継施設を壊したら、そこで繋がってる人たちが傷つく」

 

「傷つくのはMiucSだ」

 

「違う」

 

禽次郎は首を振った。

 

「MiucSだけじゃない。そこで音楽を聞いてる人たちも傷つく。あんたが取り戻したい音楽を、今まさに聞いてる人たちも」

 

「それは」

 

歌舞鬼の声が、微かに揺れた。

 

「一時的なものだ」

 

「一時的でも、傷ついた人は残る」

 

禽次郎はテガソードを構え直した。

 

「あんたさ、音楽を奪われたんだよな。痛みもわかるよ。俺も時音との歌を失いたくないって思ってるから」

 

「ならば」

 

「でもさ」

 

禽次郎が遮った。

 

「だからって、他の誰かの歌を奪っていい理由にはなんねえだろ」

 

歌舞鬼の音叉剣を握る力が、強くなった。

 

禽次郎はそれを見た。剣を持つ指に力がこもっている。八十二年分の怒りが、指先から滲んでいる。

 

「あんたは強い。俺よりずっと強い。音楽のことも、戦いのことも」

 

禽次郎は続けた。声を荒らげずに。

 

「でもよ、強さってさ、他人を踏みつけるために使うもんじゃねえだろ」

 

「踏みつけてなどいない」

 

「踏みつけてる」

 

禽次郎は言った。静かに。

 

「あんたが施設を壊せば、周りの人が傷つく。それを『一時的だ』って言って目を逸らすのは、踏みつけてることと同じだ」

 

歌舞鬼が沈黙した。

 

音叉剣を握る指が、微かに震えている。

 

花弁が舞っている。月明かりの中で、桜の花びらが静かに降り注いでいる。

 

「…私は」

 

歌舞鬼が口を開いた。声が掠れている。

 

「私は八十二年待った。待って待って、待ち続けた。それでも音楽は戻らなかった。待つだけでは何も変わらないと知った」

 

「知ったのはいいことだと思うよ」

 

「ならばなぜ止める」

 

「待つだけじゃ変わらないのは本当だ」

 

禽次郎は頷いた。

 

「でもさ、変える方法は一つじゃねえだろ」

 

「他に何がある」

 

「わかんねえよ」

 

禽次郎は正直に答えた。

 

「俺もまだ探してる途中だし。でもさ、わかんねえからって一番短い方法に飛びつくのは違うと思うんだよ」

 

歌舞鬼の音叉剣が動いた。

 

大振りだ。

 

上段から、全力で振り下ろされる。怒りに任せた一撃だ。冷静な攻めが崩れた瞬間。八十二年分の焦りが、剣に乗っている。

 

(来た!)

 

禽次郎は左手でライドウォッチを取り出した。

 

シザースのライドウォッチだ。金色と銀色の円形アイテム。以前入手したもの。まだ使っていなかった。テガソードの変換機能でライダーリングにできるはずだ。

 

禽次郎はライドウォッチをテガソードの手の甲に叩きつけた。

 

『ライダーリング!』

 

変換音声が響く。

 

『シザース!』

 

ライドウォッチが光を放つ。金色と銀色の表面が溶けて、リング状に変形する。シザースのライダーリング。仮面ライダーシザースの力が、輪の中に凝縮されていく。

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