ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
連絡が入ったのは夕方だった。
「隼人が動いた。最後の標的のところへ向かってる」
朱莉の声が携帯から飛び出した。切迫している。だが慌ててはいない。通信担当官としての訓練が滲む声だ。
「場所は?」
「北西区の集合住宅。標的は在宅。角乃さんと瑠花さんが先に向かってる」
「俺も行く」
「お願い。私は避難経路を確保する」
通話を切った。俺は屋根から跳び降りた。今日は一日中周囲を警戒していた。エターナルの気配を探りながら街を歩き回っていた。だが奴は動かなかった。じっとしていた。獲物を狙う猛禽みたいに。そして夕暮れになって、ようやく動いた。
(待たせたな、角乃)
俺は走った。街路を抜け路地を縫い、北西区へ向かう。靴音がアスファルトを叩く。風が耳を切る。夕日が背中を押す。
* * *
集合住宅の前は、もう戦場になっていた。
広い駐車場。誰もいない。夕方だからか車もまばらだ。その中央で、赤と黄色の装甲が夕日を反射していた。アギレラだ。角乃が変身している。
向かい合う影は一つ。白いコートを翻した男だ。エターナル。左隼人。顔を隠す仮面の下から、鋭い目が覗いている。
「退いてください」
隼人の声が響いた。低い。冷静だ。だがその奥に焔がある。俺にはわかる。この男、本気で怒っている。
「標的は犯罪者だ。裁きを受けるべき人間だ。なぜ庇う」
「犯罪者かどうかはあんたが決めることじゃない」
角乃が答えた。アギレラの声だ。だがその声は角乃自身のものだ。ゴジュウユニコーンの時とは違う。蜂の装甲に包まれていても、中身は角乃だ。
「あんたの告発だけで罪は確定しない。証拠も裁判もなしに襲うのは私怨よ」
「私怨で何が悪い」
隼人が一歩前に出た。白いコートが夕日に染まる。
「この男が何をしたか知っているのか。何人傷つけたか。何人泣かせたか。それを知ってなお、庇うと言うのか」
「知らないわ」
角乃は即答した。
「でも知らないからこそ、あんたの言葉だけで裁けない。私が調べて、証拠を集めてそれから判断する。それが私の仕事よ」
「ハイクラス名探偵の仕事か」
隼人が呟いた。嘲る響きだ。だが同時に、どこか納得している響きもあった。
「ならばお前も共犯だ。犯罪者を庇う者は、同じ罪を負う」
隼人の右手が光った。
T2ガイアメモリ。俺には見える。白と銀のメモリが二本、指の間に挟まれている。
『ヒート』
メモリが音声を発した。
隼人の右腕が燃え上がった。炎だ。赤い焔が腕を包み、拳に集中する。熱風が駐車場に広がる。俺は物陰から飛び出す準備をしながら様子を窺った。
「退かないなら、お前から消す」
隼人が拳を突き出した。
炎の拳が角乃へ迫る。角乃は横に跳んだ。蜂の装甲が夕日を反射し、炎が地面を焼く。アスファルトが焦げる匂いが漂う。
「朱莉さん! 今よ!」
角乃が叫んだ。
建物の裏手から朱莉の声がした。
「避難完了! 標的は瑠花さんと一緒に南口から!」
「よし!」
角乃は着地と同時にニードルクナイを構えた。蜂の針が夕日を反射する。
(避難は済んだか)
俺は安堵した。だが同時にわかった。角乃はもう守る相手がいない。なら追撃できるはずだ。だが角乃は動かなかった。
(なぜだ?)
いや、わかる。角乃はまだ守っているんだ。避難経路そのものを。朱莉と瑠花と標的が完全に離れるまで、隼人をここから動かすつもりだ。
「守る気か」
隼人が呟いた。炎の拳を下ろし、別のメモリを指に挟む。
『メタル』
銀色のメモリだ。隼人の身体が金属光沢を帯びる。装甲が硬質化する。防御力が跳ね上がった音だ。
「攻撃が通じない」
角乃が呟いた。分析している。メタルの防御力を見て、突破方法を探している。
ニードルクナイで突く。だが甲高い音がして刃が弾かれる。金属の身体には針は効かねえ。
「無駄だ」
隼人が手を振るった。金属の拳が角乃を襲う。角乃は後退って回避する。だが地面を削る衝撃波が蜂の装甲を揺らす。
「ぐっ…!」
角乃が呻く。だが倒れない。蜂の装甲は柔軟だ。衝撃を吸収する。ニードルクナイを手放し、ゲノムウェポンを構える。
(打撃武器に切り替えた…!)
金属の身体には鋭い刃より重い打撃だ。角乃は正しい判断をした。だが隼人も動く。
『トリガー』
メモリが切り替わる。今度は青いメモリだ。隼人の指先に銃口が現れる。指鉄砲だ。だがそこから放たれる弾丸は本物だ。
バン!
青い光弾が角乃を襲う。角乃は横に跳んで回避する。だが二発三発と続く。連射だ。角乃は駐車場を走り回って回避する。蜂の装甲が青い光を反射する。
(まずい、追い詰められてる)
俺は走り出した。物陰から飛び出す。テガソードを呼び出す。リングを装填する。
『ワイルドゴジュウウルフ!』
変身音声が響く。赤と金の装甲が俺の身体を包む。狼の耳が伸び、牙が光る。低い姿勢で駆け出す。
「吠!」
角乃の声がした。俺の姿を見て、驚きと安堵が混ざった声だ。
「来たのか!」
「遅れた!」
俺は叫んだ。エターナルと角乃の間に割って入る。
「大丈夫か」
「ああ、問題ない」
角乃は短く答えた。息が荒い。だが立っている。
「こいつ、メモリを切り替えながら戦う。ヒートは炎、メタルは防御トリガーは射撃」
「把握した」
俺はテガソードを構えた。エターナルを見据える。
隼人は動じなかった。白いコートを翻し、こちらを見ている。仮面の下の目が、俺を値踏みしている。
「遠野吠」
隼人が言った。
「お前もか。犯罪者を庇う側に回るのか」
「犯罪者かどうかは知らねえよ」
俺は言った。
「だがな、あんたがやってることは何だ? 証拠も裁判もなしに襲う。それが正義か?」
「正義だ」
隼人は即答した。
「私は被害者のために戦っている。法が裁けない罪を裁くために」
「法が裁けない?」
俺は鼻で笑った。
「それならなぜ法がある? 裁けない罪があるなら、法を変えればいい。あんた一人が暴れることじゃねえ」
「法を変えるには時間がかかる。その間にまた誰かが傷つく」
隼人の声に力がこもった。
「私は待てない」
「待てないからって、罪人を裁くために自分まで罪人になるのか」
俺は問いかけた。エターナルの動きが止まった。
俺は続ける。
「あんたは標的を裁こうとしてる。だがな、あんたが今やってることは何だ? 無実かもしれない人間を襲い、止めに入った人間まで攻撃する。それがあんたの言う正義か? それならあんたも罪人だ」
沈黙。
エターナルは動かなかった。白いコートが風に揺れる。夕日がその影を長く伸ばす。
「吠」
角乃が俺の隣に並んだ。蜂の装甲と狼の装甲が並ぶ。
「よく言ったわ」
「うるせえ」
「いいセリフだったわよ」
角乃は笑った気配があった。声だけでわかる。この女、こんな場面でも笑えるんだ。
「でもね吠、あんたの言う通りよ」
角乃は前を見据えたまま続ける。
「罪人を裁くために罪人になる。それじゃあ何も変わらない。堂々巡りよ」
「そういうことだ」
俺はテガソードを構え直した。
エターナルはまだ動かない。だがその手が、新しいメモリを握っているのが見えた。
『ルナ』
メモリが音声を発した。
隼人の身体が歪んだ。空間ごと歪むみたいに、その輪郭が伸び縮みする。
(なんだこれは…!)
歪みだ。ルナの力か。空間を捻じ曲げる能力だ。
「終わらせる」
隼人が言った。
白いコートの裾が伸びる。いやコートだけじゃねえ。その腕も足も歪んで伸びる。異形の姿だ。だが攻撃力は確かにある。
伸びた腕が俺と角乃を襲う。
「来るぞ!」
俺は叫んだ。テガソードを構えて迎え撃つ。
エターナルの歪んだ腕が唸りを上げて迫る。
夕日が沈みかけた駐車場で、三人の戦士の影が交差した。