ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
角乃が隼人の前に膝をついた。
救急キットを開き、包帯を取り出す。手慣れた手つきだ。凛空と同じじゃないかと思ったが、角乃の手には震えがない。代わりに迷いがない。やるべきことをやる。それだけの動きだ。
隼人は地面に横たわったまま、角乃の手を見上げている。
「…なぜだ。俺を倒したお前たちが、なぜ治療をする」
角乃は包帯を巻きながら答えた。顔を上げない。
「その傷じゃ、話を聞こうにも答えられないでしょ。それだけよ」
隼人は黙った。包帯が肩に巻かれる。白い布が泥に汚れたコートの上から見える。
朱莉が戻ってきた。標的の退避を終えたんだ。ヘッドセットを外しながら、倒れた隼人の前に立つ。
「避難は完了しました。標的も無事です」
朱莉は隼人を見下ろしている。その目に怒りはない。だが譲らない目だ。
隼人は朱莉を見た。唇を開く。
「また誰かが殺されてからじゃ、取り返しがつかない」
朱莉は沈黙した。一呼吸置いてから、静かに答える。
「それは分かる。でも、あなたが人を殺すのを見過ごせない」
隼人の目が揺れた。朱莉の言葉が刺さったんだ。見過ごせない。それは隼人自身が抱えている言葉と同じだからだ。隼人も見過ごせなかった。だから戦った。だから人を襲った。同じ言葉が、違う方向を向いている。
「俺を止めた以上あいつがまた人を殺したらどうする」
隼人の声が低くなる。問いかけだ。責める調子じゃない。本当の疑問だ。
朱莉は答えなかった。すぐには。
風が駐車場を抜けた。雑草が擦れる音が響く。夕日が沈みかけている。赤が濃くなる。
「今ここで、絶対に守れるなんて約束はできない」
朱莉は言った。声が少し細い。だが途切れなかった。
隼人は黙った。朱莉の顔を見ている。
角乃が包帯を結びながら口を開いた。
「あの人に何の疑いがあるのか、あなたの襲撃と併せて調べるわ」
角乃は手当てを続けている。包帯の端を切り、テープで留める。動作は丁寧だ。
「調べている間に、手遅れになるかもしれないんだ!」
隼人が声を荒らげた。
だがその瞬間、身体が折れた。傷が痛んだんだ。肋骨か何かが悲鳴を上げている。顔が歪む。息が詰まるみたいに短く切れる。
角乃は手当てを続けた。何も言わない。朱莉も返答を迫らなかった。隼人の痛みが収まるのを待っていた。
俺はそれを見ていた。
腹の底で何かが煮えている。隼人の言葉が俺の中で反響している。手遅れになるかもしれない。だったらどうする。俺ならどうする。
(俺なら……)
俺は一歩前に出た。
「じゃあ、お前が殺せば、それで全部終わるってのかよ」
声が出た。俺の口から。低い声だ。だが喉の奥から絞り出したみたいに熱かった。
隼人が顔を上げた。俺を見ている。
「少なくとも、あいつに次の犠牲者は出させずに済む」
隼人の声は掠れている。だが真っ直ぐだ。本気だ。こいつは本気でそう思っている。殺せば終わると。犠牲者が出なくなると思っている。
俺は拳を握った。
「俺は、お前が誰かを殺すところも見たくねえんだよ」
声が出た後、自分で驚いた。
何を言ってるんだ俺は。敵に向かってそんなことを言うのかよ。野良犬が。誰にも縋らない俺が。他人の殺したくないだなんて。
だら口はもう出ちまった。引っ込めねえ。
隼人は俺を見ていた。
長い沈黙だった。風が吹く。夕日が沈む。駐車場の影が伸びる。
隼人の視線が、俺から外れた。下を向いた。泥に汚れた地面を見つめている。
「そんなことを言われてもまだ納得したわけじゃない」
低い声だった。だか拒絶じゃない。保留だ。今の答えじゃ受け入れられないが、拒みきれない。そんな響きだった。
朱莉が一歩前に出た。
「分かった。今は立てそう? 肩なら貸せるけど」
朱莉は手を差し出した。小さな手だ。ヘッドセットを外した素の手。何の力もない手。だがその手は真っ直ぐ伸びていた。
隼人はその手を見た。
長い間見ていた。
やがて隼人の手が動いた。ゆっくりと。朱莉の手を掴んだ。朱莉が引く。隼人が立ち上がる。足がふらつく。だが朱莉が支える。小柄な体で大柄な男を支える。不安定だ。だち倒れない。
角乃は救急キットを閉じた。
「救護班に連絡するわ。搬送してもらう」
角乃は立ち上がり携帯を取り出す。いつもの仕事だ。淡々と。だがその声にはどこか柔らかい響きがあった。
俺はその場に立っていた。
隼人が朱莉に支えられながら歩いていく。背中が小さい。倒れる前よりもずっと小さく見える。白いコートが泥に汚れて、夕日の赤に染まっている。
俺は掌の中のリングを握りしめた。
エターナルのリング。白銀の紋章。重い。力の重さじゃない。意味の重さだ。
(まだ納得したわけじゃない、か)
俺もだ。
隼人の言いたいこともわかる。法が間に合わないなら自分で動く。そう思ったことは俺にもある。だが俺は選ばなかった。選ばなかった理由は……まだうまく言えない。
リングをポケットにしまった。
隼人の背中が遠くなる。朱莉の小さな肩が揺れている。
和解じゃない。解決でもない。ただ立ち上がって歩き出しただけだ。それが何に繋がるのか、まだ誰にもわからない。
俺は空を見上げた。夕日が沈んでいた。赤が藍に変わる。星が一つ二つ、光り始めている。
(まだ生きてる。だったら、ここからだろ)
俺は誰に言うでもなく呟いて、二人の後を追った。