ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
頭上を影が横切った。
一瞬だった。黒い影が視界の上を滑る。羽ばたきの音が遅れて聞こえた。バサッ。風を切る音だ。だが野良犬の勘は音より速く反応していた。
「上だ! 散らばれ!」
俺が叫ぶのと同時に、影が落ちてきた。
烏天狗だ。
天狗の面をつけた鳥の化け物。黒い翼。鋭い爪。数える間もなく降ってくる。三体、五体、――いや数えきれねえ。
「きゃっ!」
芹亜が後ろへよろけた。俺は芹亜の腕を掴んで引き寄せ、自分の背中へ隠す。
「芹亜は下がってろ!」
「で、でも!」
「下がってろ!」
俺は芹亜を凛空のところへ押し出した。凛空が素早く芹亜を引き寄せる。笑みの消えた顔で空を見上げている。
「十体以上。街の霊が逃げ遅れてる!」
凛空の声が鋭い。
こちらを襲う気配を感じて、すぐに俺達はセンタイリングを取り出す。同時にテガソードをリングを装填する。
「エンゲージ!」『ゴジュウウルフ!』
角乃も続く。ゴジュウユニコーンの黒い装甲が光る。
「来るぞ!」
烏天狗の一体が急降下してきた。爪が光る。俺の頭上を狙っている。
来るな。
俺は跳んだ。
真上への跳躍。テガソードを振り上げる。烏天狗の爪と金色の刃が空中で激突した。
ガギン!
衝撃が腕に走る。重い。だが俺の方が重い。腰を捻って体重を乗せ、爪を弾き返す。烏天狗が体勢を崩した。その腹へ回し蹴りを叩き込む。
ドガッ!
烏天狗が石畳へ叩きつけられた。だがすぐに翼で起き上がる。しぶとい。
「数が多い!」
角乃が叫んだ。ユニコーンドリル50で烏天狗の嘴を弾きながら。
「囲まれてるわ!」
見ると周囲の屋根の上に烏天狗が並んでいる。石造りの屋根に黒い翼がずらりと並んでいる。十五体か。二十体か。天狗の面が一斉にこちらを向いていた。
(囲まれてるってことは、逃げられてねえってことだ)
野良犬の理屈だが、悪くない。囲むなら囲ませておけ。その分個別に片付けられる。
「角乃! 右の三体は任せろ! 俺は左だ!」
「わかったわよ!」
俺は左へ走った。獣の姿勢。低く、速く。石畳を蹴って屋根の下へ。
上から烏天狗が二体襲ってくる。爪の雨だ。
構わねえ。突っ込む。
爪の一撃目をテガソードで弾く。二撃目を肩の装甲で受け流す。赤い装甲に爪が滑る音が響く。そのまま懐へ滑り込んだ。
「うらあっ!」
テガソードを横薙ぎに振るう。金色の刃が烏天狗の翼を捉えた。黒い羽が舞う。烏天狗が悲鳴みたいな声を上げて後退する。
追撃だ。さらに一歩詰めて突きを放つ。テガソードの切っ先が天狗の面を捉え、弾き飛ばす。
一体ダウンだ。
だが休む暇はねえ。背後から風圧を感じる。振り返りざまにテガソードを振ると、爪と刃がまたぶつかった。二体同時か。正面と右。
正面の爪を弾き、右の爪をかわす。かわして、その勢いのまま回転斬り。刃が右の烏天狗の脇腹を裂いた。
(まだ十以上残ってる)
俺は数を確認しながら、位置を意識した。芹亜たちから離れすぎねえ。凛空と瑠花が芹亜を守っている。瑠花の蜂蜜が地面に飛んで、烏天狗の着地地点を封じている。地味に効く戦い方だ。この子、上手い。
「住民の避難は完了!」
竜儀の声がした。見ると霊たちが建物の中へ消えていく最後の姿が見えた。竜儀はテガソードを抜いたまま、烏天狗の一群と対峙している。
「ここからは好きに暴れられる!」
竜儀がリングを装填した。ゴジュウティラノだ。金色の装甲が形成され、ティラノハンマー50が唸る。
「吠! 左翼の敵が動いた! 歌の方角へ行こうとしてる!」
角乃の叫び。
俺は左を見た。五体の烏天狗が編隊を組んで、街の奥――歌の聞こえる方角へ飛んでいこうとしている。
(逃げるんじゃない。増援を呼びに行く気か)
「逃がすかよ!」
俺は追おうとして、足を止めた。
いけねえ。追えば芹亜たちから離れる。角乃も戦ってる。ここを離れたら本隊の守りが薄くなる。
「角乃! 逃げる五体は任せられるか!」
「任せなさい!」
角乃はユニコーンドリル50を構え直した。ドリルが回転し始める。あの五体を追うには空を飛ぶ敵に地上から当てるしかねえ。だがこの女、出来ねえことは言わねえ。
角乃がドリルを振った。衝撃波が螺旋を描いて飛ぶ。飛んでいる烏天狗の一体に命中し、黒い羽を散らせた。
「当たる!」
「さすがだ!」
俺は感心しながら、目の前の敵に集中を戻した。
烏天狗たちの動きが変わった。個別だった襲撃が、連携になり始めている。一体が囮になって、二体が死角から襲う。囮の一撃を弾いた俺の背後に、風圧。
(読んでる)
俺はあえて背後を見ず、前へ跳んだ。囮ごと前方へ抜ける。背後の爪が空を切る音。
振り返りざま、オルカブースター5050を呼び出した。左手にシャチの銃が収まる。
「食らえ」
ドォン!
赤い砲撃が烏天狗の胸を直撃した。一体が吹き飛んで屋根を突き破る。
「吠! 上!」
芹亜の声だ。この子、霊視で敵の位置を見て教えてくれてる。
「右奥二体! 芹亜たちに向かってる!」
まずい。俺では間に合わねえ距離だ。
しかし間に合った奴がいた。
竜儀だ。ティラノハンマー50が空を裂いた。金色の槌が烏天狗の翼を砕き、二体まとめて地面へ叩き落とす。
「芹亜さんには指一本触れさせません!」
竜儀が吼える。信仰の熱じゃない。仲間を守る熱だ。この男のそういうところは、嫌いじゃない。
戦いが本格化していく。
角乃が逃げる烏天狗を追って街の奥へ走る。竜儀が地上の敵を槌で潰す。瑠花の蜂蜜が退路と着地地点を封じる。凛空が芹亜の傍で霊たちを制御し、時折鋭い指示を出す。
そして俺は、街の空と地上の間を行き来しながら、烏天狗を削ぎ落としていく。
「まだ来るか!」
屋根から飛び降りた烏天狗に、俺はテガソードを突き立てた。
穏やかな街は、もう戦場だった。石畳に黒い羽が散らばっている。だが住民は守った。芹亜たちは守った。
(これでいい)
俺は次の敵へ、獣のように低く構えた。
烏天狗の群れが、一斉に翼を広げて襲いかかってくる。
「来いよ。全員まとめて相手してやる」
俺は吼えた。遠吠えみたいに、喉の奥から絞り出す声で。
街の空に、赤い狼と黒い羽の舞い踊りが始まった。