ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
気づけば、白い空間が俺を溶かし始めた。
記憶が削れていく。音を立てて。まるで砂の城が波に舐られるみたいに、端から崩れていく。
最初に消えたのは昨日の記憶だ。角乃と隼人を倒した戦い。竜儀の槌。凛空の止まった笑顔。全部が白い霧の中に沈んでいく。
次はもっと前だ。芹亜と寺で飲んだ茶の味。クオンの鬱陶しい声。陸王の目が笑った笑顔。
消える。消える。全部消えていく。
(くそ)
俺は歯を噛んだ。止められねえ。白い空間が俺を白く塗り替えていく。記憶の端が溶けて、輪郭が曖昧になって、何が何だかわからなくなっていく。
次に消え始めたのはもっと深いところだ。
あいつの声だ。
「吠くん!」
あいつだ。幼馴染みの。
名前が――。
名前が、消えかけている。
(いや)
俺は胸元へ手を伸ばした。
無意識だった。考えるより先に手が動いた。心臓の上を押さえるみたいに。爪を立てるみたいに。そこに何かあると思って。
あった。
歌だ。
外から聞こえる音楽とは違う。あの白い空間を満たすMiucSの音楽じゃない。もっと小さくて、もっと近くて、もっと温かい音が胸の奥から届いた。
歌だ。
あいつの歌だ。
「」
旋律が浮かぶ。言葉までは聞こえない。だが旋律はわかる。何度も聞いた。何度も聞いた。あいつが隣で歌っていた。昔。俺たちがまだ小さかった頃。
名前が戻ってきた。
立花響。
(響)
胸の奥が熱くなった。熱くなって、痛くなった。痛い。くそ、痛い。忘れてた痛みだ。忘れてたほうが楽かった痛みだ。
あいつの声が戻ってくる。
それと共に、俺の手を誰かが握ってくれた。
見つめた先は、消えかけた何かが、伝わる。
(痛え)
息が詰まる。胸が押し潰されそうだ。白い空間がまだ俺を削ろうとしている。この痛みも削ろうとしている。この記憶も消そうとしている。楽になる。消えれば楽になる。痛みがなくなれば楽になる。
だが。
「勝手に持っていこうとしてんじゃねえ」
俺は言った。声が出た。白い空間に俺の声が響く。
「これも俺なんだよ」
痛みも。記憶も。あいつの歌も。全部俺だ。削るなら俺ごと削れ。だが部分だけを切り取ることは許さねえ。俺は俺の全部で生きてる。痛い部分も、苦しい部分も、消えちまえば楽な部分も。全部ひっくるめて俺だ。
白い空間が軋んだ。
聞こえる。空間が悲鳴を上げているみたいに。白い壁が歪む。俺の言葉が、あいつの歌が、白い空間の侵食を食い止めている。
(離すかよ)
俺は胸元の手に力を込めた。あいつの歌がまだ聞こえる。小さい。だが確かにそこにある。俺の中に。誰にも消せない場所に。
白い空間に亀裂が走った。
パキン。
細い線だ。白い壁に一本の亀裂が入った。まるでガラスに石が当たったみたいに。亀裂から光が漏れる。白じゃない光だ。色がある。俺の色だ。
(割る)
俺は両手を握りしめた。亀裂が広がっていく。パキパキパキ。白い壁が崩れ始める。
あいつの歌が、もう一段強くなった。
「っ!」
目を覚ませば、周囲に敵はいなかった。
「今のは、一体」