ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
白い壁が割れた。
砕け散った破片が光の粒子になって、空中に溶けていく。まるで雪が溶けるみたいに、ゆっくりと。
俺は立ち尽くしていた。
息が荒い。心臓がドンドン叩いている。胸元に手を当てたまま、しばらく動けなかった。
(何だったんだ、あれ)
白い空間。俺の記憶を削ろうとしたあの場所。響の歌がそれを止めた。いや、止めたんじゃない。俺が止めたんだ。あいつの歌が俺に止める力をくれたんだ。
だが、あの場所が何だったのかはわからねえ。MiucSの干渉か。彷霊界の仕組みか。それとも別の何かか。
(考えろ。今わかることを整理しろ)
俺は深呼吸をした。肺が熱い。彷霊界の空気は相変わらずふわりとしている。
周囲を見回す。
街だ。さっきまで烏天狗と戦っていたあの石畳の街だ。建物は無事だ。石畳に黒い羽が散らばっている。戦闘の痕跡だ。
だが。
(烏天狗がいない)
消えた。戦闘中だったはずだ。烏天狗の群れと戦っていた。角乃が五体を追って街の奥へ走った。竜儀が槌で潰していた。瑠花の蜂蜜が地面を固めていた。凛空が芹亜の傍で指示を出していた。
全部、白い空間に入る前の記憶だ。
(どれくらい時間が経った?)
わからねえ。白い空間の中では時間の感覚が消えていた。一分だったかもしれない。一時間だったかもしれない。
(まずは合流だ)
俺はテガソードを構えたまま歩き出した。警戒を解かない。何が起きてもおかしくない。
「おい! 誰かいるか!」
声を張り上げた。石畳の道に声が反響する。返事がない。建物の窓から霊がこちらを覗いている。だが動かない。ただ見ている。
「竜儀! 角乃! 凛空!」
名前を叫ぶ。三度。四度。
返事がない。
(まずいな)
胸の奥がざわつく。野良犬の勘だ。何かがおかしい。
歩を速めた。石畳の道を駐車場の方角へ戻る。角乃と別れたあたりだ。烏天狗の羽が地面に散らばっている。戦闘の痕跡はある。だが人がいない。
「吠!」
声がした。
振り返る。竜儀だ。ティラノハンマー50を構えたまま、建物の陰から出てきた。金色の装甲が薄暗い街に光を反射している。
「竜儀、無事か」
「無事です。だが、いつの間にか一人になっていた」
竜儀は眉をひそめている。いや、ゴジュウティラノのマスクの下で眉をひそめている気配がある。
「俺もだ。白い空間に引き込まれた」
「私もです。記憶を削られかけました」
竜儀の声が低い。
「テガソード様への信仰がそれを止めました。だが、危うかった」
(信仰で止めたか。俺は歌で止めた。手段は違うが、同じことだ)
「角乃たちは?」
「見ていません。合流地点に向かおうとしていたところです」
「じゃあ一緒に行く。芹亜たちもいない」
竜儀の複眼が微かに揺れた。芹亜。あいつが守ると言った少女だ。
「急ぎましょう」
二人で走った。石畳を蹴る。建物の間を抜ける。角乃と別れた地点へ。
いた。
角乃だ。ゴジュウユニコーンの装甲を纏ったまま、石畳に膝をついている。ユニコーンドリル50を地面に突いて、息を整えている。
「角乃!」
俺は叫んだ。角乃が顔を上げた。
「吠、竜儀。無事?」
「無事だ。お前こそ」
「何とかね。あの白い空間、何だったのよ」
角乃は立ち上がった。ふらりとするが、すぐに体勢を立て直す。
「記憶を削られる場所。私もやられた。推理の記憶を削られかけた。昔の事件のデータが一つ消えた。まあいい、今は関係ない」
(消えたか。俺は止めた。だが角乃は一部消えたのか)
「凛空と瑠花は?」
「見てない。芹亜も」
角乃の声が硬い。
三人で顔を見合わせた。六人いたはずだ。半分がいない。
「芹亜たちがいない」
俺は言った。
「凛空と瑠花もだ。白い空間に引き込まれて、バラバラになったのか」
「合流点だ。朱莉さんと約束した場所」
角乃が言った。地図の記憶を頼りに方角を指す。
「あっちよ。霊脈が交差する場所。和尚さんが印をつけてたとこ」
「じゃあそこへ向かう。芹亜たちもそこに向かうはずだ」
俺は歩き出した。竜儀と角乃が並ぶ。
三人で街の奥へ歩いた。石畳の道が続く。建物が変わる。商店街みたいな区域を抜けて、より古い建物が並ぶ区域へ入る。
霊がいる。住民の霊だ。建物の窓からこちらを見ている。だが襲ってこない。烏天狗とは違う。穏やかな霊たちだ。
(あいつら、どこにいる)
胸の奥がざわつく。響の歌が消えたわけじゃない。まだ微かに聞こえる。だが芹亜の声は聞こえない。あの子は霊視ができる。彷霊界の中なら、俺たちの位置を感じ取れるはずだ。それでも来ないのは、来られない理由があるからだ。
(何かあったか)
足を速めた。竜儀と角乃も続く。
合流点が見えてきた。霊脈が交差する場所。石畳の広場だ。中央に古い石碑が立っている。和尚の印だ。
だが広場には誰もいない。
「いない」
角乃が呟いた。声が沈んでいる。
「芹亜! 凛空! 瑠花!」
俺は叫んだ。声が広場に反響する。返事がない。風が石畳を撫でる音だけが響く。
「くそ」
俺は舌打ちした。焦りが胸を締め付ける。芹亜は霊視ができる。凛空は霊を操れる。瑠花は蜂蜜で退路を確保できる。三人とも能力者だ。ただの少女じゃない。だが。
(あいつらは戦闘型じゃない)
芹亜の本質は歌だ。凛空の本質は支援だ。瑠花は後衛だ。前線で戦う力は俺たちとは違う。三人で彷霊界を彷徨えば、危険に巻き込まれる。
「探すぞ。手分けして」
俺は言った。だが竜儀が首を振った。
「いや。バラバラになればまた白い空間に引き込まれるかもしれない」
「じゃあどうする」
「一緒に動く。広場を中心に放射状に探す。遠く離れない」
竜儀の言う通りだ。下手に散らばればまた個別に削られる。三人で動く方が安全だ。
「よし。じゃあ北から探す。芹亜たちは南の方角へ行っていた可能性がある」
俺が方角を指した。芹亜が「歌が聞こえる」と言った方角だ。街の奥。サーバーの方角。
「あっちか。一番危ない方角じゃない」
角乃が皮肉を言った。だがその声に不安が混じっている。
「だろうな。だが芹亜はあっちへ行くだろう。あいつは歌の方へ向かう子だ」
俺は歩き出した。竜儀と角乃が続く。
広場を出て南への道を歩き出した、その時だ。
足元が光った。
「!」
俺は跳び退ろうとした。だが遅かった。
光が足首を包んだ。温かい光だ。白い空間の冷たい光とは違う。だが強い。足首を掴んで離さない。
「何だこれ!」
角乃が叫んだ。角乃の足元も光っている。竜儀もだ。
「転移!?」
竜儀が声を上げた。金色の装甲が光に包まれ始める。
「吠!」
角乃が手を伸ばした。俺も手を伸ばした。だが光が邪魔をして指先が触れられない。
「離せよ!」
俺はテガソードで光を斬ろうとした。刃が光に触れたが、斬れなかった。光は刃をすり抜ける。
(斬れない)
強制転移だ。防げない。
「竜儀! 角乃!」
俺は叫んだ。二人の姿が光の中に溶けていく。竜儀の金色の装甲が霞む。角乃の黒い装甲が消える。
「吠くん!」
角乃の声が遠くなる。
「芹亜を――」
最後まで聞こえなかった。光が俺の視界を埋め尽くした。
街が消えた。石畳が消えた。竜儀と角乃が消えた。
俺は一人になった。
光が引いた。
足が地面に着いた。石畳じゃない。土だ。柔らかい土。森の中だ。木が生い茂っている。葉の間から紫と青が混ざった空が見える。
彷霊界の森だ。
(ここはどこだ)
俺は周囲を見回した。森だ。深い森。木の幹が太い。苔が一面に生えている。湿気が高い。土の匂いが鼻をつく。
(バラバラにされた)
六人がバラバラに。白い空間の次は強制転移か。彷霊界の意志なのか。MiucSの防衛機能なのか。
わからねえ。だが一つだけわかることがある。
(皆を探さなきゃならねえ)