ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
硬い。
それが最初の感覚でした。頬に触れる冷たくて硬い感触。まるでステージの袖で寝ちゃった時みたいに。
百夜陸王は目を開けました。
視界に飛び込んできたのは、やけに高い天井でした。石造りのアーチが並び、ステンドグラス越しの薄暗い光が差し込んでいます。教会? いや、もっと古くて、もっと重い空気。
「うっ……」
頭がガンガンします。まるで二日酔いのライブ後みたいだ。いや、僕に二日酔いなんてあり得ないか。アイドルは常に万全ですからね。
上半身を起こして周囲を見渡しました。
並んでいます。長椅子が。規則正しく並んだ木製の長椅子。その一つに座り込んでいたらしい自分に気づき、陸王は苦笑しました。参拝客みたいですね。
そして、気づきました。
静かすぎる。
いえ、音はあります。低く唸るような合唱。ラテン語の祈りみたいな荘厳な響き。でも、生きた声じゃない。
長椅子には人影がありました。
白いローブを纏った人影。数え切れないほどの影が、祭壇の方を向いて膝をついています。誰も振り返りません。誰も動きません。ただ祈っています。熱心に、虚ろに。
(ゴースト……)
陸王は背筋が粟立つのを感じました。芹亜ちゃんなら即座にわかるんでしょうが、僕にもわかります。あれは生者じゃない。
「仲間は……?」
陸王は立ち上がりました。足元が少しふらつきますが、アイドルの演技力でカバーします。
吠くん。竜儀くん。角乃さん。凛空さん。瑠花ちゃん。芹亜ちゃん。
誰もいない。僕以外の席は空っぽです。
(嫌な予感が的中しちゃったかな)
白い空間での記憶の改竄。あれから強制転移。お約束すぎて逆に笑えません。
「起きたかい?」
背後から声がしました。
陸王は弾かれたように振り返ります。
長椅子の最後列。柱の陰に男が立っていました。
銀色の髪。鋭い目つき。ボロボロのコートを纏ったその男は、足元に浮いていました。地面から数センチ。ふわりと宙に浮いているんです。
「……君は?」
陸王は警戒を解かずに尋ねました。敵か味方か。この世界ではそれが最重要事項です。
男は肩をすくめました。浮いたまま肩をすくめるシュールな光景です。
「敵じゃないさ。多分ね」
男はゆっくりと近づいてきました。歩かずに滑るように。
「体は動くかい? 記憶は? 名前は言えるかい?」
「百夜陸王。スーパーアイドルさ。記憶に抜けはないよ」
陸王は即答しました。相手のペースには乗らない。それが僕の流儀です。
「元アイドルねえ……」
男は小さく笑いました。
「変わった経歴だね。僕は蒼威十牙。一応、ここの住人ってところかな」
「十牙……」
陸王はその名前を反芻しました。聞いたことがありません。でも、彼から漂う空気には見覚えがあります。あの白い空間で戦った白玖とは違う。もっと静かで、もっと深い場所にいる者の空気。
「ここはどこ? あの子たちはどこへ行った?」
「落ち着いて」
十牙は手をひらりと振りました。
「ここは彷霊界の教会。君たちはMiucSの干渉を受けて散り散りになったんだろう? 僕が君をここへ引っ張ったんだよ」
「救出してくれたってこと?」
「まあね。放置すると記憶を削られちゃうからさ」
十牙は祭壇の方を顎でしゃくりました。
「あの子たちみたいにね」
視線を追うと、祈りを捧げるゴーストたちの姿が目に入りました。熱心に祈る彼らの背中は、どこか張り詰めています。
「信仰を手放せない人たちさ」
十牙が静かに言いました。
「生前の祈りに縛られて、成仏できずに彷徨ってる。君の仲間もそうならないうちに見つけないとね」
陸王は拳を握りしめました。
見つけないと。吠くんも芹亜ちゃんも。
「教えてくれてありがとう、十牙」
陸王は笑顔を作りました。計算じゃない。自然と出た笑みです。
「助けてくれた恩は返すよ。それは僕のポリシーだからね」
「へえ……」
十牙は目を細めました。
「元アイドルってのは、ただの肩書きじゃなさそうだね」
「さあ? どうだろうね」
陸王はウインクしてみせました。
まずは状況把握。そして仲間の捜索。
主役の登場はまだこれからです。