ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「それにしても、幽霊が教会か」
「・・・何か変なのか」
陸王は案内をされながら、教会の風景を見ながらの呟き。
そんな呟きに対して、振り返りながら呟いた。
だが、陸王は不敵な笑みを浮かべてしまう。
「いやいや、本当に悪気はないんだ。僕としては気になったからね」
「はぁ、まぁ良いけどね。ここでは、多くのゴースト達が自身の業と向き合っている」
「業か」
十牙は歩きながら、視線を長椅子に並ぶゴーストたちに向けた。
「業ってのは、後悔や果たせなかった願いのことさ。生前に抱えていたものが、死んでも消えない。ここに集まるゴーストたちは、みんなそれと向き合ってる」
陸王は黙って十牙の横を歩いた。軽口を出さなかった。珍しいことだという自覚はあります。
長椅子の最前列で、白いローブの老人が手を組んでいた。目を閉じ、唇を微かに動かしている。祈りの言葉を紡ごうとしているのだ。だが言葉が形になる前に消える。また紡ぐ。また消える。繰り返し。まるで傷を撫でるみたいに、同じ場所を何度も触れている。
二列目の女性は、膝に置いた手が震えていた。震える手を自分で押さえている。祈りたいのに祈れない。祈りの形を忘れてしまったかのように、指先が宙を彷徨っている。
三列目。若い男だ。長椅子に座って、天井を見上げている。天井のステンドグラスを見つめている。口は閉じたまま。祈るのを諦めたのか、それとも祈る以外の何かを探しているのか。その目はただ、静かに開かれていた。
「ここでは、答えを出すことを急がない」
十牙が言った。低い声だ。だがその中に柔らかいものがある。
「業に正解はない。悔いを残したこと、誰かに謝れなかったこと、やり直したかったこと。それらを抱えたまま、ただここにいる。それでいいんだ」
陸王は目を細めた。
「それでいいの? 解決しなくて」
「解決できるものなら、とっくにしてるさ」
十牙は苦笑した。浮いたままの身体が少しだけ揺れる。
「祈りが終わるわけじゃない。でも、祈る場所がある。それだけでも随分違うんだよ」
陸王は最前列の老人を見た。まだ祈っている。言葉はまだ形にならない。だが手は組まれたままだ。諦めていない。
(アイドルと似てるな)
陸王は思った。ステージに立ち続ける。歌い続ける。客席が空でも。声が出なくても。ただそこにいる。それが全てだった時がある。
老人が口を開いた。声が出た。小さな、掠れた声。言葉ではない。旋律みたいなもの。祈りの形を成さない声。だが確かに、音がそこにあった。
十牙が動いた。
歩かずに滑るように、老人の隣に降りた。浮いたままじゃない。腰を下ろした。長椅子に。老人の隣に。何も言わない。何も聞かない。ただ隣に座っている。
老人の声が途切れた。言葉が消えた。唇が震えて、また閉じる。
十牙は待った。急かさなかった。膝に置いた手をただ眺めている。
陸王はその光景を見ていた。
(待てるんだ、この人)
救ってやるでも、導くでもない。ただ隣にいて、話せるまで待つ。それは優しさなのか、それとも同じ痛みを知っているからなのか。
老人が再び口を開いた。今度は、少しだけ長く。旋律が続いた。やがて途切れた。だが前より長かった。
十牙は小さく頷いた。それだけ。促さない。肯定も否定もしない。
陸王は一歩近づいた。
「君の名前、まだ聞いてなかったね」
十牙が顔を上げた。老人から視線を外して、陸王を見る。
「蒼威十牙」
「十牙。珍しい名前だね」
「珍しいかどうかは自分じゃわからないさ。十牙は十牙だから」
陸王は隣に腰を下ろした。長椅子の軋む音が教会に響く。
「僕は百神陸王。さっき言ったけど、一応もう一度」
「覚えてるよ。元アイドルだろ」
「元、ね。まあ、そういうことにしとくか」
陸王は笑った。軽い笑みだ。だがその目は笑っていない。教会の薄暗い光の中で、その瞳が静かに光っている。
「僕、仲間と離れちゃったんだ。彷霊界に入ったのは一緒だったんだけど、途中でバラバラになって。ここから出る方法、何か知ってる?」
十牙は少し考えた。
「彷霊界の出口は一つじゃない。でも、今の君の仲間がどこにいるかはわからない。ここがどこにあるかも、正直、僕も把握しきれてないんだ」
「じゃあ、すぐには合流できない」
「残念ながらね。でも、僕が探してみる。教会の外にも、彷霊界の地理を知ってるゴーストがいるかもしれない」
陸王は頷いた。深くは期待していない。だが、少なくともこの人が敵じゃないことだけはわかった。
「ありがとう、十牙」
「礼には及ばないさ」
十牙は立ち上がった。再びふわりと。足が地面から離れる。
陸王はその浮く動作を見つめた。気づいていた。最初から。この人が地面を踏んでいないことを。
「十牙」
「ん?」
「君も、ゴーストなんだよね」
十牙は一瞬止まった。浮いたまま、空中で止まった。
「……そうだよ」
否定しなかった。肯定も淡々としていた。驚くでも悲しむでもない。ただ事実を述べるみたいに。
陸王は目を細めた。
「生前のことは、聞かないでおくよ」
「……助かる」
十牙の声が少し柔らかくなった。安堵のような、感謝のような。
「僕も、あまり語りたいことじゃないからね」
陸王は頷いた。これ以上は踏み込まない。それが僕のやり方です。相手が開くまで待つ。アイドル時代に覚えた、一番大事な技術。
二列目の女性が、まだ震える手で膝を押さえている。三列目の若い男が、まだ天井を見上げている。最前列の老人が、また口を開こうとしている。
穏やかな時間だった。祈りの形を成さない声が、教会の空気に溶けていく。痛みを抱えたまま、ただここにいる。それだけの場所。
その時だ。
低い唸り声が、教会の外から届いた。
陸王は耳を澄ました。音が聞こえる。重い音だ。何かを引きずる音。石を削る音。湿った土が擦れる音。
「十牙」
「聞こえてる」
十牙の表情が変わった。静かな顔に、鋭い色が混じる。
最前列の老人が顔を上げた。祈りが止まった。二列目の女性が手を止めた。三列目の男が天井から視線を外した。
ゴーストたちが一斉に入口の方を見た。
顔に浮かんでいたのは、恐怖。
祈りが止まった。業と向き合っていた時間が、外部から断ち切られた。
「外を見るよ」
十牙が教会の扉へ向かった。陸王も続く。
重い木製の扉を少し開く。隙間から外が見えた。
石畳の広場。その向こうに、闇がある。紫と青の空の下、闇が動いている。
動いているんじゃない。迫っている。
怨霊だ。
数え切れない。腐ったような灰色の身体。歪んだ顔。のっぺらぼうのような顔。目がなく口が裂けた顔。多種多様な怨霊が、教会へ向かって這い寄ってくる。引きずる音は、怨霊たちの手足が石畳を擦る音だった。
「何だ、あれは」
陸王は声を落とした。
「怨霊の軍勢だ。教会を狙ってる」
十牙の声が低い。だが焦ってはいない。見たことがあるという響きだ。
「なぜ教会を」
「ここは弱い霊が集まる場所だ。業と向き合って、無防備になっている。怨霊にとって、格好の餌さ」
陸王は拳を握った。広場の向こう、怨霊の群れがゆっくりと、しかし確実に近づいている。数十体か。百体か。正確な数はわからない。だが多い。多いということは、防がないといけないということだ。
十牙は振り返った。教会の中を見る。ゴーストたちが立ち上がり始めていた。老人も女性も若い男も。震えながら、出口から離れようとしている。奥へ。祭壇の奥へ。庇護を求めて、奥へ奥へと下がっていく。
「中へ戻って。奥へ誘導してくれ」
十牙が陸王に言った。
「十牙、僕も――」
「陸王、君は仲間を探してるんだろ。無理に残る必要はない」
十牙の声は静かだった。突き放すんじゃない。心配している。
「ここは俺が守る」
「十牙……」
「ここは俺の居場所だから」
陸王は黙った。
十牙はゴーストたちの元へ向かった。浮いたまま滑るように。老人の肩に手を添える。女性の背中を押す。奥へ。祭壇の奥へ。ゴーストたちを誘導していく。
陸王は扉の前に立った。
振り返ると、怯えるゴーストたちが十牙に引かれて奥へ消えていく。震える肩。震える手。祈ることすら忘れて、ただ逃げようとしている霊たち。
前を見る。怨霊の軍勢が迫っている。もう広場の半分まで来ている。石畳が削れる音が近くなる。
(ここを離れて、仲間を探す)
それが合理的な判断だ。僕の仲間はどこかにいる。芹亜ちゃんも吠くんも。探さなきゃならない。
(でも)
振り返る。奥へ消えたゴーストたち。十牙の背中。
あの老人はまだ祈りの言葉を探していた。あの女性はまだ手が震えていた。あの男はまだ天井を見上げていた。
(ここを離れたら、あの子たちはどうなる)
十牙が守ると言った。十牙はゴーストだ。力はある。だが、一人だ。
怨霊は百体を超えているかもしれない。十牙一人で守れるか。守れるならいい。守れなかったら。
「このままじゃ、ここまで潰される」
十牙の声が教会の奥から届いた。静かな声だ。だが確信めいた響きがある。
「させないさ、ここは多くの悩める人が集まる場所。そういう所を潰すのはアイドルとして見過ごす訳にはいかないからね」
迫り来る怨霊の軍勢に対して、陸王は変わらない笑みを浮かべながらも、その手にあるゴジュウレオンのセンタイリングを手に取り、テガソードに装填する。
「エンゲージ」「・・・」
陸王がセンタイリングを装填した所を見た十牙は少しだけ見つめる。
それは、まるで何かを確かめるように。
『ゴジュウレオン!』
ゴジュウレオンへと、陸王が変身を終えると共に十牙もまた頷く。
「・・・俺も、戦わせて貰う」
「無理をしないで、ここは僕が「ここは」んっ?」
陸王の言葉を遮るように、彼が取り出したのはライドウォッチ。
そのライドウォッチのスイッチを押すと共に。
『バルカン』
「俺が守る場所だから」
起動したライドウォッチの音声を、そのまま腰に現れたジクウドライバーに装填する事で、ゆっくりと構える。
「変身」『ライダータイム!仮面ライダーバルカン!』
ジクウドライバーから飛び出た弾丸は宙を舞いながら、十牙に当たる。
弾丸は、そのまま、白と青。
2色が特徴的なライダーではあるが、陸王にとってはそれ以上に注目してしまったのは。
「狼か」
そのバルカンが、自身の青、そして遠野吠のゴジュウウルフの狼。
それが合わさったようなライダーに陸王は思わず笑みを浮かべる