ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「一気に片付けるぞ」
十牙は、その手には別のライドウォッチを取り出し、反対側に装填する。
『ガタック』
鳴り響く音声と共に、十牙の両手にはガタックダブルカリバーが握られた。青と黒の装甲が変容し、より鋭角な意匠へと変わっていく。マスクの形状も変わり、角が二本、鋭く伸びる。
「ほぅ、2人で行うショータイムという訳だね」
それと共に、陸王が握ったのはカブトクナイガンを握り絞める。銃と剣を兼ね備えた武器が掌の中で確かな重みを放つ。
それと共に2人は同時に能力を発動させた。
『『CLOCK UP』』
電子音声が重なって響いた瞬間、世界が止まった。
いや止まったんじゃない。自分たちが速くなった。身体の感覚が変わる。血の流速が上がり、神経の伝達が加速する。視界の中で怨霊たちの動きがスローモーションに変わっていく。
(速い)
陸王は息を呑んだ。地面を蹴った瞬間、石畳が一瞬で後ろへ吹き飛んだ。一歩が十歩になる。いや百歩だ。世界が線を引いて後ろへ流れていく。
(これがクロックアップ…!)
怨霊たちが止まって見える。正確には動いている。だがあまりに遅い。まるで水中を泳ぐ魚を見ているみたいに、怨霊の動きがゆっくりとしか見えない。
「陸王、集めるぞ」
十牙の声が響いた。だが速い。十牙もクロックアップの中にいる。陸王と同じ速度で動いている。
「集める?」
「怨霊を一箇所へ。そして同時に叩く」
十牙は既に動いていた。ガタックダブルカリバーの二刀が光を描く。右へ切り込み、左へ切り返す。怨霊の身体が斬り裂かれるのではなく、弾かれていく。一箇所へ。広場の中央へ。
(わかった。壁を作るってことか)
陸王はカブトクナイガンを構えた。銃モードで弾を撃ち込むのではない。剣モードで薙ぐ。怨霊を弾き飛ばす。中央へ集める。
二つの人影が広場を駆け抜けた。
速い。怨霊には見えていない。完全に止まった空間の中を、二つの光が縫うように走る。
陸王が右側の怨霊群へ突っ込む。カブトクナイガンを横薙ぎに振るう。赤い残光が弧を描く。怨霊たちが弾かれ、中央へ集まっていく。
十牙が左側を固める。ガタックダブルカリバーの二刀が同時に閃く。右の刃が怨霊を弾き、左の刃がそれを中央へ押しやる。二刀が羽根車みたいに回転して怨霊を一箇所へ集めていく。
(速いな、十牙)
陸王は感心した。十牙の動きに無駄がない。二刀を同時に操り、怨霊を誘導する。まるで最初からこの連携を知っていたみたいに。
クロックアップの中の時間は圧縮されている。陸王が右側の怨霊を三十体ほど中央へ弾き集める間、十牙は左側から四十体以上を集めていた。
広場の中央に怨霊の塊ができた。七十体以上。一箇所に集まった怨霊たちが重なり合い、動けなくなっている。互いにぶつかり合い、身動きが取れない。
「今だ」
十牙が叫んだ。
二人は同時に跳んだ。
広場の中央。怨霊の塊の両側から。二つの影が空中で弧を描く。
陸王の右足に赤い光が集束する。カブトの力が凝縮され、踵に集まる。カブトムシの角を思わせる赤いエネルギーが刀身みたいに伸びる。
十牙の右足にも青い光が集束する。ガタックの力が凝縮され、踵に集まる。二本の角を思わせる青いエネルギーが刃みたいに伸びる。
赤と青。二色の光が空中で交差する。
『ライダーキック!』
『ライダーキック!』
二つの音声が重なった。
同時だ。完全に同時。二つの踵が怨霊の塊の中心へ突き刺さる。
ドゴォォォンッ!
赤と青の衝撃波が怨霊の塊の中で爆発した。
一箇所に集まった怨霊たちが内側から砕け散っていく。七十体以上の怨霊が同時に消滅していく。灰色の身体が光の中に溶けていく。声にならない悲鳴が空気を震わせる。だがそれは悲鳴じゃない。解放の音だ。縛っていた怨念が光に焼かれて、ようやく溶けた音だ。
衝撃波が広場を薙ぎ払う。石畳が割れ、粉塵が巻き上がる。だが教会の壁は砕けなかった。陸王と十牙が立った位置が、教会と怨霊の間にあったからだ。
二人は着地した。同時に。
クロックアップが解除される。世界の速度が戻る。風が吹き抜ける。粉塵が舞い上がり、やがて静かに落ちていく。
広場には何もいなかった。怨霊の姿は消えていた。石畳に刻まれた亀裂だけが、そこに戦いがあったことを残していた。
陸王はカブトクナイガンを下ろした。息が荒い。クロックアップの負荷が身体に来ている。関節が軋む。だが笑みは消えていない。
「悪くないショータイムだったね」
十牙はガタックダブルカリバーを下ろした。青い複眼が陸王を見る。その視線に何かが滲んでいた。感心か、安堵か、それとも。
「…悪くない、か」
十牙は小さく呟いた。
「君は、強いな」
「さあ? どうだろ。僕はただ、消えない灯を確保しただけさ」
陸王は笑った。計算じゃない。自然と出た笑みだ。
教会の奥から、ゴーストたちが覗いていた。震える手で扉を押し開け、広場を見ている。怨霊が消えたことを確かめている。
老人がいた。女性がいた。若い男がいた。祈りを取り戻そうとしていた人たちだ。
陸王は彼らを見た。
「十牙」
「ん」
「教会は無事だね」
「ああ。君が守ったからだ」
「僕だけじゃないよ」
陸王は振り返った。十牙が立っている。白と青の装甲に傷が増えている。だが立っている。
「二人で守ったんだ」
十牙は一瞬だけ黙った。やがて小さく頷いた。
「…そうだな」
教会の鐘が鳴った。いつの間にか風が吹いている。粉塵を払うみたいに、優しい風が広場を抜けていった。
陸王はカブトの装甲を解除した。光が粒子となって剥がれ落ち、ゴジュウレオンの青い装甲に戻る。それもまた解けて、素の姿に戻った。
十牙も変身を解除した。白と青の装甲が消えて、銀髪の男が立っている。地面に足をつけていない。浮いたまま。
陸王はそれを見て、改めて思った。
(この人、本当に幽霊なんだ)
死後の世界で出会った幽霊。教会を守る幽霊。力を持った幽霊。
「十牙、一つ聞いていい?」
「何だ」
「さっきのライドウォッチ。あれ、どこから出したの?」
十牙は少し笑った。
「さあ。どこだろうな。便利だろう?」
「便利すぎて逆に不安になるよ」
十牙は笑ったまま答えなかった。
陸王も笑った。答えを急がない。今はそれでいい。
教会の扉が開く。ゴーストたちがゆっくりと出てくる。広場を確認して、安堵して、また中へ戻っていく。
老人が最後に出てきた。陸王を見て、十牙を見て、ゆっくりと頷いた。言葉はない。だがその目は感謝を伝えていた。
「戻ろう」
十牙が言った。
「教会の中で休ませてくれ。君の仲間を探す方法も、一緒に考えよう」
「助かるよ」
陸王は頷いた。
広場に風が吹いていた。石畳の亀裂に苔が生え始めている。傷は残る。だが街は守られた。
陸王は教会の扉をくぐった。十牙が後に続く。
背後で夕日が沈んでいく。紫と青の空が闇に変わっていく。だが教会の中には灯りがあった。
祈りの形を成さない声が、まだ微かに響いていた。
消えない灯。
陸王はその灯りに手を伸ばしたくなった。