ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
目を開けた時、竜儀は木の幹に背中を預けていた。
苔むした幹の冷たさが背中に染みている。頭が重い。まるでテガソードの訓練を三日連続でやった後みたいに身体の節々が軋む。
「……ここは」
ゆっくりと立ち上がった。目の前に広がっているのは森だ。だが先ほどの街の石畳はどこにもない。苔、土、根っこ。見渡す限りの木々。空は紫と青が混ざった彷霊界特有の色だが、木の葉に遮られて判別しづらい。
(転移したのか)
記憶を辿る。広場で光に包まれた。足元から溢れた温かい光。呉と角乃の姿が消えた。自分も消えた。そしてここにいる。
「皆」
名前を呼んだ。声が木々の間に吸い込まれていく。返事がない。鳥の羽音だけが頭上で揺れた。
(一人か)
竜儀は拳を握った。テガソードは腰にある。リングも揃っている。装備に異常はない。だが仲間がいない。彷霊界の深層に一人で放り出された。
(焦るな)
深呼吸をした。肺に冷たい空気が入る。森の匂いだ。土と葉と苔。現世の森と変わらない。だが空気が違う。重い。霊的な圧力が常時かかっている感覚。
(まずは合流点を目指すべきか)
角乃が地図で示した霊脈の交差点。朱莉さんとの約束の場所。だが方角がわからない。彷霊界での方位感覚は現世とは違う。太陽がなく、星の位置も不明。
(歩くしかない)
竜儀は足を踏み出した。苔の上に靴跡がつく。湿気が高い。靴底が滑りそうになるが、訓練された体幹で踏ん張る。
木々の間を縫って歩いた。斜面を下る。苔が生えた岩を飛び越える。根っこが地面から突き出していて足を取る。だが竜儀の足取りは安定していた。テガソードに仕える身として、山歩きは得意だ。修練の場は山の中だった。
十分歩いただろうか。森が少し開けてきた。木々の間隔が広がり、薄暗い光が地面に落ちている。
その時だ。
音が聞こえた。
竜儀は足を止めた。耳を澄ます。
弦の音だ。
ギター。
(ギター?)
竜儀は眉をひそめた。彷霊界でギター? 住民の霊が演奏しているのか。いやそれとも。
melody が聞こえる。歪んでいる。チューニングが狂っているみたいに、音が微妙にずれている。だが旋律はある。荒削りだが力強い。何かを叫びたいのに言葉にならない、そんな音。
(あの方角だ)
竜儀は音のする方へ向かった。警戒を解かない。テガソードの柄に手をかける。いつでも構えられる準備を保ったまま。
木々を抜けた。
視界が開けた。
小さな広場になっていた。苔の地面に岩が点在している。その中央に、いた。
男だ。
竜儀は目を見開いた。
でかい。
それが最初の感想だった。巨体。筋肉が凄まじい。上半身裸。剥き出しの筋肉が薄暗い光の中で隆起している。まるで岩を削り出して人型にしたみたいな身体。腕一つが竜儀の胴回りくらいあるのではないか。
男は座っていた。岩の上に。その巨体には不釣り合いなほど小さなものを抱えている。
ギターだ。
アコースティックギター。古びている。表面に傷がついている。弦は錆びている。だが男の太い指がその弦を弾いている。指先一つが弦の太さと同じくらいあるのではないか。それでも音は鳴っている。歪んで、けれど確かに。
(あの男は何だ)
竜儀は観察した。男の顔。角張った顎。深く刻まれた皺。年齢不詳。三十代とも五十代ともつかない。だが筋肉は衰えていない。むしろ異常なほど発達している。
(霊か? 生者か?)
わからない。だが纏っている空気が重い。怨霊のような冷たさはない。だが普通の霊とも違う。もっと濃い。もっと実体に近い。
そして竜儀は気づいた。
男の周囲に、子供がいる。
四人。いや五人。小さな子供たちが男の足元に集まっている。座っている。寝転がっている。男の膝に寄りかかっている。
竜儀は眉を寄せた。
(子供?)
子供たちの様子がおかしい。衣服がバラバラだ。ある子は厚手のコートを着ている。ある子は半袖のシャツだ。ある子は裸足。ある子は靴を履いているが左右で色が違う。年代もバラバラ。五歳くらいの幼児から十歳くらいの少年まで。
共通点があるとすれば、全員が薄っぺらいことだ。肌が白く、輪郭が微かに透けている。霊だ。子供の霊たち。
(なぜあの男の周囲に子供がいる?)
竜儀は疑問に思った。男は演奏を続けている。子供たちはその音を聞いている。耳を澄ますでもなく、歌うでもなく、ただそこにいる。男の音の中にいる。
(あの男も霊なのか?)
上半身裸の巨体がギターを弾いている。その周囲にバラバラの服を着た子供の霊たち。シュールな光景だ。だが美しくもあった。歪んだ音色が森の中に響いている。子供たちが静かにそれを聞いている。
竜儀は一歩踏み出した。
枝が折れる音がした。
小さな音だ。だが静かな森の中では大きく響いた。
男の演奏が止まった。
顔が上がった。竜儀を見た。
目が合った。
男の目は温かかった。意外なほど温かい。あれだけの巨体と筋肉に似合わぬ、穏やかな目。
「……お客さんかい」
男が言った。低い声だ。地響きみたいに腹に響く。だが柔らかい。
竜儀はテガソードから手を離した。敵意がない。少なくとも今のところ。
「暴神竜儀です。ここに入った仲間と離れまして。音が聞こえたので来ました」
「仲間ねえ」
男はギターを膝に置いた。太い指が弦の上を撫でる。
「ここに来る生者は珍しいよ。お前さん、二つ目だ」
「二つ目?」
「ああ。前に一人来た。ずっと前になるけどね」
男は何かを思い出すように目を細めた。
「あの人も迷い込んだんだ。仲間を探してた」
竜儀は一歩近づいた。子供たちが竜儀を見ている。小さな瞳が竜儀を覗き込んでいる。恐怖はない。好奇心があるだけだ。
「あなたは?」
「黄原 虎吾郎だ」