ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「休んでいきな」
虎吾郎が言った。岩の上に座ったまま、ギターを膝に置いて。
「お前さん、疲れてるだろ。顔色が悪い」
「私は大丈夫です」
「強がるな」
虎吾郎は低く笑った。巨体が揺れる。筋肉が動くたびに空気が押し出されるみたいだ。
「ここは彷霊界でも深い場所だ。生者が長くいれば消耗する。せめて一息つけ」
竜儀は迷った。仲間を探さねばならない。だが確かに身体は重い。白い空間での消耗がまだ抜けきっていない。それにこの男から敵意は感じられない。
「…失礼します」
竜儀は近くの岩に腰を下ろした。苔の冷たさが腿に伝わる。だが不思議と心地よい。森の空気が肺を満たす。張り詰めていたものが少しずつ解けていく。
子供たちが竜儀を見ている。小さな霊たち。薄っぺらい輪郭。バラバラの服。皆、竜儀の方を向いている。だが近づいてこない。虎吾郎の周りから離れない。まるで虎吾郎の存在が彼らの居場所になっているみたいに。
竜儀はその光景を見て、口を開いた。
「聞いてもいいですか」
「なんだ」
「この場所には、子供しかいないんですか」
虎吾郎の指がギターの弦に触れた。音は鳴らなかった。ただ弦を撫でただけだ。
「そうだな。ここに集まるのは子供だけだ」
「なぜです」
竜儀は尋ねた。素朴な疑問だった。彷霊界には様々な霊がいる。老いた霊も若い霊も。先ほどの街にも老若男女の霊がいた。だがこの森の広場には子供しかいない。
虎吾郎は空を見上げた。紫と青の空。木の葉の間から覗く色。
「ここはな、賽の河原みたいな場所なんだ」
「賽の河原」
竜儀はその言葉を知っていた。テガソードに仕える身として、仏教の教えには触れてきた。賽の河原。死んだ子供が親より先に逝った罰として、河原で石を積むとされる場所。積んでは崩され、積んでは崩され永遠に終わらない。そこに地蔵菩薩が現れて子供たちを救うという。
「そうか」
竜儀は呟いた。子供たちをもう一度見た。
「この子たちは」
「無念を抱えた子供たちだ」
虎吾郎の声が柔らかくなった。
「親より先に逝った子。やりたかったことがあった子。言えなかったことがある子。そういう子たちが死んだら、彷霊界を彷徨ってここに辿り着く。この場所はな、そういう子たちが自然と集まる場所なんだ」
竜儀は子供たちを見た。五歳くらいの幼児が虎吾郎の膝に寄りかかっている。十歳くらいの少年が岩の陰で丸くなっている。少女が二人、並んで座っている。皆静かだ。言葉を発しない。だがその静けさには種類がある。安堵の静けさだ。悲しみの静けさではない。
「あなたが、ここにいるんですか」
「ああ」
虎吾郎は頷いた。
「俺はここの主みたいなもんだ。賽の河原に地蔵がいるだろう。俺は地蔵じゃないが、ここにいる。この子たちが静かに過ごせる場所を作ってる」
「なぜ、あなたが」
「俺も、無念を抱えた子供だったからだ」
虎吾郎の声は淡々としていた。重い。だが悲嘆ではない。受け入れた者の声だ。
「大人になれなかった。ギターを弾き続けたかった。夢が叶わなかった。そんな子供が、ここに辿り着いた。そして気づいたら、俺みたいな子たちが集まる場所になっていた」
竜儀は何も言わなかった。
虎吾郎はギターを抱え直した。太い指が弦に触れる。
「この子たちはここにいる。俺の音を聞いて。それだけだ」
虎吾郎は弾き始めた。
歪んだ旋律。錆びた弦。だが温かい。森の中に音が広がっていく。子供たちが耳を傾ける。ある子は目を閉じる。ある子は小さく揺れる。ある子は虎吾郎の腕に触れる。
竜儀は目を閉じた。
テガソードへの信仰。暴神家の教え。自分が選んだ道。だがこの場所には別の祈りがある。ギターの音という祈り。歪んでいても、力強くて、温かい。
(無念を抱えた子供たちが、ここにいる)
竜儀は拳を握った。この子たちを守るのは虎吾郎の役目だ。だが自分にもできることがある。もしこの場所が脅かされるなら、守る。テガソードに仕える者として。
その時だった。
空気が変わった。
竜儀は目を開けた。肌が粟立つ。森の静けさが一瞬で破られた。風が止まり、木の葉の音が消え空気が冷たくなった。
虎吾郎の演奏が止まった。
「…来たか」
虎吾郎が立ち上がった。巨体が立ち上がると影が広がる。子供たちが一斉に虎吾郎の後ろに集まる。怯えた表情。小さな手が虎吾郎の脚に縋る。
竜儀も立ち上がった。テガソードを抜く。
「何が来る」
「わからん」
虎吾郎はギターを背中に背負った。ギターの裏に、隠していたのだろう。太い棒が現れる。金属の棒だ。さびているが重厚だ。それを両手で握る。
「だが、この場所を荒らすものだ」
森の奥から音が聞こえる。低い唸り。引きずる音。怨霊だ。街で戦ったものと同じ気配。だが数が違う。もっと多い。もっと近い。
「虎吾郎さん」
竜儀は言った。
「この子たちを奥へ」
「ああ」
虎吾郎は振り返らずに頷いた。
「お前さんは」
「私は前へ出ます」
竜儀はテガソードを構えた。
「テガソードに仕える者として、この子たちを守る」
虎吾郎が振り返った。その目が竜儀を見る。温かい目だ。
「頼む」
竜儀は頷いた。リングを装填する。テガソードが光る。
「エンゲージ」『ゴジュウティラノ!』
金色の装甲が形成されていく。恐竜を思わせる重厚な姿。複眼が鋭く光る。
虎吾郎は子供たちを広場の奥へ誘導した。小さな霊たちが慌てて動く。転ぶ子もいる。虎吾郎がその子を抱き上げる。巨体が信じられないほど優しく子供を運ぶ。
竜儀は前を見た。森の奥から怨霊が迫っている。数十体。いや百体を超えるか。広場を埋め尽くさんばかりに押し寄せる。
「来るか」
竜儀はティラノハンマー50を握り直した。
金色の槌が唸る。
森の中に、戦いの音が響こうとしていた。