ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
ティラノハンマー50を構えた竜儀は、最初に大技の使用を諦めた。
(ここでフィニッシュフィンガーを放てば)
脳裏に山の地形が浮かぶ。この広場は森の窪地だ。周囲を木々と岩が囲んでいる。ゴジュウティラノの全力は山を砕く。ティラノハンマー50の一撃は地面を割り、岩を砕き、木々をなぎ倒す。怨霊を殲滅できても、この場所そのものを破壊してしまう。虎吾郎が守ってきた子供たちの居場所を。
(使えん)
竜儀は歯を噛んだ。戦士として、大技を封じられるのは痛い。だが守るべきものがあるなら仕方ない。
(ならば他の姿に)
腰のリングに意識を向ける。ゴジュウティラノ以外の力。機動力に優れた姿。あるいは遠距離攻撃に特化した姿。ライダーリングも使える。吠から預かったものではないが、テガソードの変換機能で作れる。
だが。
(隙がない)
怨霊が迫っている。正面から。すでに十メートルまで来ている。リングを交換して変身し直すには数秒必要だ。その数秒を稼ぐ壁が要る。
怨霊が一斉に押し寄せた。
「くっ…!」
竜儀はティラノハンマー50を前に構えた。槌の頭部で突っ込んでくる怨霊を受け止める。ドン、ドン、ドン、と連続して衝撃が腕に走る。一体、二体、三体。槌にぶつかっては弾かれるが、後ろから新しい怨霊が押し寄せる。
「ぐあ…!」
竜儀は足に力を込めた。両足を地面に踏み固め、体重を後ろにかける。獣のような重圧を放ちながら、押し返そうとする。だが数が違いすぎる。十体、二十体三十体。怨霊の波が全身にのしかかる。
(押される…!)
足が後ろに滑る。靴底が苔の地面を削る。槌を握る腕が震える。ゴジュウティラノの怪力でも、百体近い怨霊の物量には抗しきれない。
「テガソード様…!」
竜儀は吼えた。信仰の声だ。集中力が研ぎ澄まされる。力が漲る。だがそれでも限界がある。
怨霊が槌の隙間から手を伸ばす。金色の装甲に爪が当たる。ガリガリと削られる音。竜儀は体を捻って払うが、別の怨霊が背中に回り込む。
「くっ…!」
背中に衝撃。よろめく。槌を握る手が緩みかける。
(まずい…!)
その瞬間だった。
『ライダータイム!』
電子音声が森に響いた。
『仮面ライダー轟鬼!』
竜儀は目を見開いた。聞き慣れない音声。だが確かにライダーの変身音だ。どこから。
次の瞬間、雷が落ちた。
轟音と共に、竜儀の背後から光の柱が突き抜けた。青白い雷撃が怨霊の群れを薙ぎ払う。押し寄せていた数十体がまとめて吹き飛ぶ。悲鳴のような音を残して、灰色の身体が森の奥へ弾け飛んでいく。
竜儀は振り返った。
そこに立っていた。
赤と青の装甲。雷を纏った戦士。頭部には角のような意匠。肩には太鼓を思わせる円形の装甲。手には弦を張った武器。音叉のような形状の剣。轟鬼だ。音撃戦士。雷の力を持つ仮面ライダー。
「待たせたな」
声が響いた。低い。腹に響く。聞き覚えのある声だ。
「チャンピオンの参戦だ!」
虎吾郎だ。
上半身裸の巨体が赤と青の装甲に包まれている。ギターを背負っていた背中に、今は変身アイテムがある。弦楽器を思わせる形状のドライバー。それが彼の変身装置だったのか。
「虎吾郎さん…!」
竜儀は声を上げた。信じられなかった。あのギターを弾くだけの巨漢が、仮面ライダーだったなんて。
「驚いたか」
轟鬼――虎吾郎は笑った。マスクの下で笑った気配があった。
「俺も昔は戦ってたんだよ。子供たちを守るために」
「あなたも、ライダーだったんですか」
「ああ。音撃戦士、仮面ライダー轟鬼。もうずっと前の話だがな」
虎吾郎は音叉剣――烈雷剣を構えた。青白い雷が刀身に走る。
「この子たちがここに辿り着いた時から、俺は決めたんだ。この場所を守るってな」
竜儀は立ち上がった。まだ怨霊は残っている。吹き飛ばされたのは一部だけだ。森の奥から新しい気配が迫っている。
「数を減らすぞ」
虎吾郎が言った。
「俺が前へ出る。お前さんは援護だ」
「わかりました」
竜儀はティラノハンマー50を構え直した。虎吾郎の背中を見る。巨体が前に出る。赤と青の装甲が雷を纏って。
怨霊が再び押し寄せる。
虎吾郎が動いた。
烈雷剣を振るう。雷撃が刃から放たれる。一直線に伸びる青白い光。触れた怨霊が次々と消滅する。一体、二体、三体、十体。雷が道を作る。
竜儀はその道を進んだ。ティラノハンマー50で左右から迫る怨霊を打ち払う。槌が唸り、灰色の身体が弾ける。
「虎吾郎さん、右です!」
「わかってる!」
虎吾郎が右へ烈雷剣を振るう。雷撃が怨霊の列を薙ぎ払う。
二人は連携して戦った。言葉は少ない。だが呼吸が合っている。虎吾郎が前へ出れば竜儀が左右を固める。竜儀が槌を振るえば虎吾郎がその隙間を雷で埋める。
(この人は、強い)
竜儀は思った。テガソードへの信仰とは違う強さだ。守るべきもののために戦う強さ。子供たちのために、この場所のために。
怨霊の数が減っていく。十体、五体、三体。
最後の一体を虎吾郎が斬り捨てた。
雷撃が森に消えていく。静寂が戻る。
虎吾郎は烈雷剣を下ろした。変身が解除される。赤と青の装甲が光の粒子となって剥がれ落ち、裸の上半身が現れる。汗をかいている。巨体が揺れている。
「ふぅ…」
虎吾郎は息を吐いた。振り返る。
子供たちが広場の奥から顔を出していた。小さな霊たちが、虎吾郎を見ている。
「もう大丈夫だ」
虎吾郎は言った。声が柔らかい。
子供たちが駆け寄ってくる。小さな手が虎吾郎の脚に触れる。虎吾郎はしゃがんで、一番小さな子を抱き上げた。
竜儀は変身を解除した。金色の装甲が消え、素の姿に戻る。
「虎吾郎さん」
「ん」
「あなたは、ずっとここで戦ってきたんですか」
虎吾郎は頷いた。
「ああ。この子たちを守るために」
「なぜそこまで」
虎吾郎は子供を抱えたまま立ち上がった。
「俺も、無念を抱えた子供だったからだよ」
静かな声だった。
「大人になれなかった。ギターを弾き続けたかった。夢が叶わなかった。そんな俺が彷徨ってここに来た。そして気づいたら、俺と同じような子たちが集まるようになってた」
虎吾郎は子供たちを見た。
「だから守るんだ。この子たちが静かに過ごせる場所を」
竜儀は何も言わなかった。
テガソードへの信仰。暴神家の教え。自分が選んだ道。だがこの男の道は別の形だ。誰かに命じられたわけじゃない。自分で選んだ道だ。
(信仰とは違う)
竜儀は思った。
(だが、これもまた祈りだ)
虎吾郎はギターを手に取った。膝に置いて、弦を撫でる。
「座れよ。もう大丈夫だ」
竜儀は頷いた。岩に腰を下ろす。
虎吾郎は弾き始めた。
歪んだ旋律。錆びた弦。だが温かい。子供たちが集まってくる。森の中に音が響いていく。
竜儀は目を閉じた。
(俺も、この場所を守ろう)
心の中で誓った。
テガソードに仕える者としてではない。
一人の戦士として。
この場所に、祈りがある限り。
歪んだギターの音が、森の中に響き続けていた。