ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
響鬼へと変身を終えた竜儀は、両手に握った音撃棒・烈火に炎を灯した。
赤い焔が音叉の先端から溢れ出す。熱い。だが肌を焼く熱さではない。霊的な炎だ。怨霊を焼き浄めるための火だ。
「行くぞ!」
竜儀は踏み込んだ。
音撃棒を振るう。炎が弧を描いて飛んでいく。迫る怨霊の一体に直撃した。黒い霧の身体が炎に包まれる。悲鳴みたいな音が響く。だがそれは悲鳴ではない。解放の音だ。炎が霧を焼き尽くし怨念を浄化していく。
一体倒れ、二体倒れ。
竜儀は止まらない。音撃棒を連続で振るう。右の炎、左の炎。二本の音撃棒が交互に火を吐く。まるで太鼓を叩くように、左右の腕が連動して動く。
(熱い…!)
竜儀は感じた。音撃棒の炎が腕の装甲を通して伝わってくる。ゴジュウティラノの力とは違う熱さ。もっと静かで、もっと深い。音の振動が身体の中を走る。太鼓の響きみたいに骨に届く振動。
怨霊が迫る。獣の形をした上級怨霊。牙を剥いて飛びかかってくる。竜儀は右の音撃棒を横に薙いだ。炎が怨霊の顔を掠める。だが倒せない。上級怨霊だ。一撃では足りない。
「竜儀!」
虎吾郎の声が響いた。
振り返る暇はない。だが気配でわかる。虎吾郎が動いた。轟鬼の装甲が雷を纏って煌めく。
虎吾郎は音撃弦・烈雷を構えていた。エレキギターの形をした大剣。弦に指をかける。そして弾いた。
『ゴォォン!』
重低音が森に響いた。音波が可視化する。空気が振動し衝撃波となって広がる。雷を纏った衝撃波だ。電撃が弦から溢れ出し、音波に乗って怨霊へ襲いかかる。
迫っていた上級怨霊が三体同時に吹き飛んだ。雷撃が霧の身体を引き裂く。だが再生しようとする。黒い霧が集まり始める。
「再生させるな!」
虎吾郎が吼えた。烈雷をもう一度振るう。今度は斬る。刃が霧を裂く。雷が傷口に走り再生を阻む。
竜儀も動いた。音撃棒を振るう。炎で霧を焼く。再生の源を断つ。
「虎吾郎さん、集めましょう!」
「ああ!」
二人は連携して動いた。竜儀が右から炎で怨霊を押し込み、虎吾郎が左から雷撃で押し込む。二つの力が怨霊を一箇所へ集めていく。
怨霊たちが広場の中央に集まり始めた。十体、十五体。黒い霧の塊が重なり合い、身動きが取れなくなっていく。互いにぶつかり合い、押し合いへし合い、一つの大きな塊になりつつある。
(集まった)
竜儀は虎吾郎を見た。虎吾郎も竜儀を見ていた。マスクの下で目が合った気がした。
頷いた。同時に。
二人は同時に構えた。
竜儀は音撃棒・烈火を両手で握り直した。音叉の先端に炎が集束していく。赤い焔が凝縮され一つの光点になる。まるで太陽の欠片みたいに熱い光だ。
虎吾郎は音撃弦・烈雷を両手で構えた。弦に指をかける。雷が弦に集まっていく。青白い電光が弦の上を走り凝縮されていく。一つの雷鳴になる直前の静けさ。
風が止まった。
森の木々が息を止めたみたいに静かだ。虫の音も鳥の羽音も消えた。あるのは二人の呼吸の音だけ。
怨霊の塊が蠢いている。黒い霧がうねり再生しようとしている。だが集まりすぎて身動きが取れない。一箇所に集まった怨念がお互いに干渉し合い、動けなくなっている。
(今だ)
竜儀は音撃棒を振り上げた。
虎吾郎は弦を弾こうと指に力を込めた。
同時だった。
完全に同時だった。
「音撃打!」
竜儀が叫んだ。音撃棒を振り下ろす。炎の奔流が放たれる。赤い光が空を裂いて怨霊の塊へ向かって一直線に伸びる。
「音撃震!」
虎吾郎が叫んだ。弦を弾く。雷の奔流が放たれる。青白い光が空を裂いて怨霊の塊へ向かって一直線に伸びる。
赤と青。
炎と雷。
音撃打と音撃震。
二つの力が空中で交差した。
交差した瞬間、二つの光が融合した。赤と青が混ざり合い紫色の光になる。炎と雷が一つの奔流となって怨霊の塊へ殺到する。
『ゴォォォォンッ!』
音が爆発した。
炎の音と雷の音が重なり合う。太鼓の打撃音とギターの弦音が融合する。二つの音が一つの音になる。それは音楽じゃない。祈りだ。
紫色の奔流が怨霊の塊を直撃した。
塊が内側から砕けた。
黒い霧が引き裂かれていく。一つ一つの怨念が光に焼かれて浄化されていく。悲鳴が聞こえる。だがそれは痛みの悲鳴じゃない。解放の声だ。縛っていた怨念が焼かれ、ようやく自由になる魂の声だ。
一体、また一体。
怨霊たちが光の中に溶けていく。黒い霧が紫色の光に変わっていく。闇が光に。怨念が祈りに。
最後の一体が溶けた。
光が収まっていく。紫色の残光が森の空気の中に溶けていく。広場には何も残らなかった。怨霊の姿も、黒い霧も、怨念の気配も。
残ったのは静寂だけだ。
竜儀は音撃棒を下ろした。息が荒い。全身の力を使い果たしたみたいに指が震えている。
虎吾郎も烈雷を下ろした。巨体が揺れている。だが立っている。
二人は立ち尽くしていた。
広場の端から子供たちが顔を覗かせていた。小さな霊たちが、目を丸くしてこちらを見ている。怯えてはいない。安堵している。
一番小さな子が虎吾郎の方へ駆けてきた。小さな手が虎吾郎の脚に縋る。虎吾郎はしゃがんで、その子の頭を撫でた。
「大丈夫だ。もう終わった」
虎吾郎の声が柔らかい。低い声だが温かい。
竜儀はそれを見ていた。
(これが、守るということだ)
竜儀は思った。テガソードに仕えること。信仰に従うこと。だがそれとは違う何かがここにある。誰かに命じられたわけじゃない。自分で選んで、自分で立つ。その重さが、今の竜儀の肩にかかっていた。
虎吾郎は立ち上がった。変身を解除する。赤と青の装甲が光の粒子となって剥がれ落ち、裸の上半身が現れる。汗が筋肉の隆起を流れる。
「竜儀」
虎吾郎が言った。
「お前さん、いい音を鳴らすな」
竜儀は一瞬きょとんとした。そして笑った。
「虎吾郎さんこそ」
虎吾郎は笑った。低い笑い声が森に響く。
「まあ、そうだろうな。俺はずっとここで弾いてたからな」
竜儀も変身を解除した。赤い装甲が消え、素の姿に戻る。身体が重い。だが心地よい重さだ。戦い抜いた後の充実感があった。
「虎吾郎さん」
「ん」
「この子たちを、ここで守り続けるんですか」
虎吾郎は頷いた。
「ああ。この子たちがここにいる限りは」
「なら、私も手伝わせてください」
虎吾郎は竜儀を見た。その目が少し揺れた。
「いいのか。お前さんには仲間がいるんだろ」
「います。ですが」
竜儀は子供たちを見た。小さな霊たちが、虎吾郎の周りに集まっている。不安そうな顔と安堵した顔が入り混じっている。
「この子たちが静かに過ごせる場所を守りたい。それはテガソード様への信仰とは違います。でも」
竜儀は言葉を探した。
「同じだと思います。祈りを守るという意味で」
虎吾郎は黙っていた。やがて頷いた。
「なら、歓迎する」
虎吾郎はギターを手に取った。膝に置いて弦を撫でる。
「座れよ。一曲弾いてやる」
竜儀は頷いた。岩に腰を下ろす。
虎吾郎は弾き始めた。