ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
目を開けた時、禽次郎は石畳の上に仰向けになっていた。
背中が痛い。まあ、これはいつものことだ。パリピ高校生の日常は常に痛覚と隣り合わせである。文化祭の準備で脚立から落ちた時も、体育祭でリレーのバトンを取ろう転んだ時も、こうして背中を打っていた。慣れたもんだ。
だが背中の下の感触が違う。校庭の土じゃない。体育館の床でもない。硬い。冷たい。石だ。
「うーん…?」
禽次郎は目を開けた。
そして飛び起きた。
「うぉっ!?」
目の前に広がっていたのは、石造りの回廊だった。天井が高い。高いどころじゃない。見上げると穹窿天井が果てしなく続いている。その一つ一つに彫刻が施されている。天使だか悪魔だか区別のつかない装飾が、薄暗い光の中でこちらを見下ろしている。
西洋の城だ。
それもでかい。できることなら観光ガイドブックの表紙にしたいくらい立派なやつだ。柱が太い。壁が厚い。窓がステンドグラスで彩られている。色が綺麗だ。赤と青と金が交じり合って床に模様を落としている。
「へえー…」
禽次郎は口を開けたまま見上げた。圧巻だ。日本にこういうのないもんな。見ているだけで圧倒される。まるでゲームのロード画面の後に現れるオープニング映像だ。俺は今どこにいるんだ。
記憶を辿る。彷霊界に入った。街へ向かった。烏天狗と戦った。そして光に包まれた。バラバラにされた。
「あちゃー…」
禽次郎は後頭部をかいた。
「みんなバラバラかあ。まあそりゃそうだよね。あれだけ派手に転移させられれば」
呟きながら回廊を歩き出す。周囲を警戒するが、テガソードに手はかけない。まだ戦う気配はない。あるとすれば、この城の圧倒的な威圧感だけだ。
回廊を抜けると、中庭に出た。
広い。庭園がある。手入れされた灌木が並んでいる。中央に噴水がある。だが水は止まっている。苔が生えている。長い間放り出されている庭園だ。だが美しい。枯れていても美しい。
「いいとこだなあ…」
禽次郎は呟いた。素直な感想だ。だが感心している場合じゃない。仲間を探さなきゃ。
そう思った時だった。
騒ぎが聞こえた。
声だ。複数の男の声。それに応える女性の声。中庭の向こう、回廊の奥から聞こえる。
禽次郎は足を止めた。眉をひそめる。声の質が違う。男の声は荒い。女性の声は穏やかだ。その対比が、何かを予感させる。
(行くか)
迷わなかった。パリピ高校生は迷わない。楽しい方向へは即行くし、怪しい方向にも即行く。後で考えるのは歩きながらだ。
回廊を駆け抜けた。声が近くなる。男の声が聞き取れるようになってきた。
「さっさと引き渡せ。この領地はネロ様のものだ」
「ネロ様の御裁可だ。逆らえばこの城も庭も灰になる」
声が重なっている。三人か。四人か。男だ。物騒な言葉が飛び交っている。
回廊の角を曲がった。
そこにいた。
中庭の噴水の前に、人がいた。女性が一人。男が四人。
女性はドレスを纏っていた。深い青のドレス。裾が長く、手には白の手袋をしている。上品だ。お淑やかという言葉が似合う。歳は二十代後半から三十代。肌が白い。髪を束ねている。目は細く、穏やかに細められている。
男たちは武器を持っていた。いや持っていなかった。だが腰に剣を差している。鎧を着ている。中世の騎士みたいな格好だ。だが雰囲気は騎士とは程遠い。もっと粗野で、もっと下品な空気を纏っている。
「こちらの領地は古くよりこの城の主が治めております。ネロ様とやらに引き渡す義理はありません」
女性の声は穏やかだった。静かだ。だが芯がある。揺るがない芯。柳に風を受けたみたいに、しなやかに折れない。
「義理だと? ネロ様の言葉が義理だ。この領地はネロ様のものだ。さっさと出て行け」
「お答えになりませんね。義理ではないと申し上げているのです。この城はこの城の主のものです。ネロ様とやらが欲しいなら、正当な手続きを」
「手続きだと? 笑わせるな」
男の一人が鼻で笑った。汚い笑い方だ。
「ネロ様はこの領地を欲しい。だから頂く。それだけの話だ。お前みたいな女が口出しする問題じゃねえ」
「口出しではありません。私がこの城の代理を務めております以上、私の口から出る言葉がこの城の言葉です」
「代理ねえ。あのお嬢様が逃げ出して、お前が残ったのか。可哀想に」
男たちが下卑た笑いを漏らした。
禽次郎は回廊の陰からそれを見ていた。眉が寄る。面白くない。すごく面白くない。
男の一人が剣の柄に手をかけた。
「最後だ。さっさと城を明け渡せ。さもなば」
剣が抜かれた。銀色の刃が薄暗い中庭で光を反射する。
「力で奪る。どうだ。女一人に守れるか」
女性は動かなかった。穏やかな目で男を見つめている。
その時だ。
禽次郎は飛び出した。
「よっしゃあ! そこまでだ!」
勢いよく回廊の陰から飛び出す。中庭を駆け抜け、女性の前に立つ。テガソードには手をかけない。まだだ。まずは声。
「ノってこうぜ! 暗い顔してたら勝てるもんも勝てねえって!」
男たちが一瞬止まった。予期していない登場だったらしい。だがすぐに顔をしかめた。
「んだお前」
「誰だお前」
「お前じゃねえよ俺だよ」
禽次郎は笑った。人懐っこい笑みを浮かべる。だが目は笑っていない。へらへらしているが、真剣な目をしている。
「レディ一人を取り囲んで武器向けるなんて、さすがにカッコ悪いぜ。男なら花くらい贈ってからにしな?」
男たちが顔を見合わせた。そして笑った。
「はっ何だお前。どっから湧いてきたんだ。坊主」
「坊太はねえよ。高校生だもん」
「高校生? お子様かよ。消えな。大人の話に茶々入れるんじゃねえ」
「茶々じゃねえよ。ちゃんと見てるんだよ」
禽次郎は言った。へらへらした口調の奥に、真面目な努力を隠す声で。
「お前らさあ。ネロ様ネロ様って、何様も何もないだろ。人の城を力で奪うとか、ダサくね?」
男の表情が変わった。笑いが消える。
「おいガキ。二度と言わせるな」
「二度も三度も言うけどな。ダサい。お前らダサい」
男たちが剣を構えた。禽次郎の方へ向ける。
「殺すぞ」
「へらへらしてるだけじゃねえよ。ちゃんと見てる」
男たちが一斉に動いた。
「あら」
女性の声がした。
禽次郎の背後から、ふわりと影が前に出た。女性が禽次郎の前に立った。
「ご親切にどうも。でも大丈夫ですよ」
女性は言った。穏やかな声だ。お淑やかなドレスの女性が、穏やかな声で、そう言った。
禽次郎は慌てた。
「え、いや大丈夫じゃないでしょ。武器持ってるよあいつら」
「大丈夫ですよ」
女性は言った。
そして男たちに向き直った。
穏やかな笑みが消えた。
いや消えたんじゃない。別の顔が出た。
「てめぇのような低俗な野良犬野郎共が手に入ると思っているのか、このクソ下品な能無し共」
声が変わった。穏やかな声じゃない。低い。地鳴りみたいに低い声だ。お淑やかなドレスを纏ったまま、お淑やかとは程遠い言葉が口から飛び出した。
中庭が凍った。
男たちが固まった。剣を構えたまま動けないでいる。その顔には戸惑いが張り付いている。先ほどまでの威圧感が消えた。別の意味で折れそうになっている。
禽次郎も固まった。
(え)
(ええ?)
禽次郎は女性を見た。お淑やかなドレス。白手袋。穏やかな顔つき。その全てが今の言葉と矛盾している。まるで別人が喋っているみたいだ。だが紛れもなくこの女性の口から出た言葉だ。