ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
男たちが動いた。
いや正確には動こうとした。
女性が先に動いたからだ。
その手が懐へ伸びた。滑らかな動作だ。ドレスの褶の間から何かを取り出す。円形の道具。腕時計を思わせる形状。表面に刻まれた紋章。蝙蝠の翼を広げた仮面の意匠。
ライドウォッチだ。
「え」
禽次郎は目を見開いた。今この女性が取り出したのは間違いなくライドウォッチだ。
女性はライドウォッチのボタンを押した。
『ダークキバ!』
電子音声が中庭に響き渡った。凍りついていた男たちが弾かれたように顔を上げる。だがもう遅い。
女性はライドウォッチを腰に装着されたジクウドライバーへ装填した。いつの間に装着したのか。禽次郎は気づかなかった。ドレスの下にベルトがあったのか。いやそれとも取り出した瞬間に現れたのか。どちらにしても今は確認する余裕がない。
「変身」
女性が言った。一言だけ。短く。明瞭に。
その手がジクウドライバーを回した。
『ライダータイム!仮面ライダーダークキバ!』
音声が中庭に轟いた。
漆黒の光が爆発し、そこにいたのは闇の皇帝と言える仮面ライダーダークキバが降り立った。
お淑やかなドレスの女性が纏ったのは、闇そのものの鎧だった。
(うそだろ…)
禽次郎は呆然としていた。口が開いたまま閉じない。さっきの「クソ下品な能無し共」も衝撃だったが、これはそれ以上だ。あのお淑やかな女性がライダーになるってマジで?
男たちも固まっていた。だが男たちの一人が叫んだ。
「なっ何だお前! ぶっ殺してやる!」
男が剣を振り上げ襲いかかる。それを合図に他の男たちも動いた。四人が同時に武器を構えて突っ込んでくる。
ダークキバは動かなかった。
赤い複眼が男たちを見据えている。漆黒の装甲が微かに揺れている。だがそれは恐怖じゃない。笑いだ。笑っている。このライダーは今、笑っている。
「てめぇらを」
低い声が漏れた。
「ぶっ潰してやるわぁ」
叫びと共にダークキバが動いた。
速い。
最初に襲い掛かってきた男の剣が空を切る。ダークキバは既に懐に入っていた。右拳が男の腹部を捉える。
ドガッ!
重い音が中庭に響く。男の身体が折れ曲がる。そして吹き飛んだ。石畳を削りながら十メートル以上滑っていく。噴水の縁に叩きつけられて止まった。動かない。
「ひとつ」
ダークキバが呟いた。声が変わっている。先程の穏やかな声じゃない。低い。荒い。それでいて妙に楽しそうだ。
二人目が横から剣を振るう。ダークキバは振り返りもせず回し蹴りを放った。漆黒の脚が弧を描き男の横腹を捉える。
ガッ!
男が横へ弾き飛ばされる。剣が手から離れ石畳に転がる。男も転がる。咳き込む。
「ふたつ」
三人目が後ろから迫る。剣を突き出す突きだ。ダークキバは半身を逸らし刃を避ける。同時に右手を伸ばし男の頭を掴んだ。
「萎えさせるんじゃねぇよ!」
そのまま持ち上げた。男の身体が宙に浮く。蹌踉めく間もなく投げる。後方へ。四人目の男に向かって。二人の身体が宙で衝突する。もつれ合って吹き飛び、石畳の上で転がった。
「よっと」
ダークキバは着地した。漆黒のマントが翻る。赤い複眼が四人の男を見下ろしている。
男たちが起き上がる。息が荒い。だがまだ武器を持っている。殺気が消えていない。四人が一箇所に集まり、体勢を立て直す。
「この…女…」
「殺してやる…」
男たちが剣を構え直す。
ダークキバは腰のジクウドライバーに手をかけた。指が操作部に触れる。
『フィニッシュタイム!』
電子音声が響く。
『ウェイクアップ!タイムブレーク!』
ダークキバは跳んだ。
空中へ。漆黒のマントが翼みたいに広がる。身体が回転する。すると空中に何かが現れた。
緑色の光だ。結界だ。空中に展開された結界。蝙蝠の紋章を模した形。緑の光が結界の縁を縁取り、中央に紋章が浮かぶ。
ダークキバは結界の中心に位置する。その身体から力が溢れ出し、結界が拡大していく。男たちの頭上に広がる。
「あばよ」
ダークキバが落下した。
結界が押し潰す。
ドゴォォンッ!
緑色の衝撃波が石畳を叩きつけた。男たちの身体が結界に押し潰される。剣が折れる。鎧が砕ける。悲鳴が重なって聞こえる。だがそれは瞬間だった。衝撃波が収まると、男たちの身体は灰色の霧となって散っていった。
怨霊だ。
男たちは最初から怨霊だったのだ。鎧を着て剣を持った怨霊。だがダークキバの一撃で成仏した。霧となって空に溶け、四つの光が空中に舞い上がり消えていった。
中庭に静寂が戻った。
噴水の苔が揺れている。風が吹き抜ける。緑色の残光が空中に残っていたが、それもゆっくりと薄れていく。
ダークキバが着地した。漆黒の装甲が微かに揺れる。赤い複眼が静かに光る。
そして変身が解除された。
光の粒子となって漆黒の装甲が剥がれ落ちる。マントが消える。頭部装甲が解け、お淑やかなドレスの女性が現れる。
女性は一つ息を吐いた。ふぅ。柔らかい吐息だ。まるで茶を飲んだ後みたいに穏やかだ。
女性は振り返った。
禽次郎はそこにいた。
呆然としていた。
口が開いたまま。目が丸い。手足が固まっている。まるで彫像だ。パリピ高校生の軽快さは微塵もない。
女性は禽次郎を見て、にっこりと笑んだ。
あのお淑やかな笑みだ。さっきの「ぶっ潰してやるわぁ」が嘘みたいな穏やかさだ。
「あら、お客様ですか」
その声は穏やかで、お淑やかで、柔らかい。
禽次郎は瞬きをした。三回。
「え」
「ええと」
「あの」
言葉が出ない。パリピ高校生が言葉に詰まる。珍しい。いつもなら即座に軽口を飛ばすのに。
女性は首を傾げた。笑みは消えない。
「ご気分が悪くなりましたか? お茶をお持ちしましょうか」
そのあまりの穏やかさに、禽次郎の理性が音を立てて軋んだ。
「いやあのさっきのぶっ潰してやるわぁは何だったんですか」
「お茶にしましょうか。こちらに良い紅茶があるのです」
「聞いてます? さっきのあれ聞いてます?」
「あら、ご親切にどうも。大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃなくないですか!?」
禽次郎は叫んだ。
女性は笑った。ふわりと。お淑やかに。
中庭に風が吹いていた。噴水の苔が揺れている。城のステンドグラスが色を落としている。
禽次郎は思った。
(ここはどうなってんだよ)