ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

192 / 194
紅茶とライドウォッチと異邦人

喫茶店は城の奥にあった。

 

いや喫茶店という表現が正しいのかどうかわからない。中世の城の応接室に紅茶のテーブルを置いたような空間だ。壁には絵画が掛かっている。調度品は古いが手入れされている。窓から差し込む光が木目のテーブルを照らしていた。

 

「どうぞ」

 

歳月澪は言った。穏やかな声だ。さっきの「ぶっ潰してやるわぁ」が嘘みたいな口調だ。

 

禽次郎は椅子に腰を下ろした。ふかふかだ。パリピ高校生の身体には贅沢すぎる椅子だ。

 

目の前にティーカップが置かれる。琥珀色の液体が揺れている。香りが鼻をくすぐる。

 

「アールグレイです。お口に合うと良いのですが」

 

「あ、ども」

 

禽次郎はカップを持ち上げた。一口啜る。渋い。だが香りが良い。ハイカラな味だ。

 

「美味しいです」

 

「ありがとうございます」

 

歳月は向かいの席に座った。ドレスの裾を整えてから。丁寧な所作だ。お嬢様の教科書みたいだ。

 

沈黙が落ちた。

 

禽次郎はカップを置いた。紅茶は確かに美味しい。だが状況を整理しないと。さっきの漆黒のライダーが目の前の女性だとしたら、話を聞かなきゃならないことが山ほどある。

 

「あのさ」

 

「はい」

 

「自己紹介、まだだったよね」

 

「まあ、そうですね」

 

歳月は頷いた。白手袋の手を膝の上で組む。

 

「歳月 澪と申します。ここではお客様として滞在しております」

 

「歳月澪さん、ね。禽次郎です。猛原禽次郎。」

 

「ご丁寧にありがとうございます、禽次郎さん」

 

歳月は頭を下げた。深々と。お辞儀の角度が美しい。習ったのか天然なのか。

 

禽次郎はカップを手に取りながら、聞きたかったことを口にした。

 

「澪さんってさ。霊?」

 

直球だった。パリピ高校生は回りくどいのが苦手だ。

 

歳月は首を横に振った。

 

「いいえ。霊ではありません」

 

「じゃあ、霊能力者?」

 

「それも違います」

 

「は?」

 

禽次郎は眉をひそめた。霊でも霊能力者でもない。じゃあ何なんだ。この彷霊界で生者でもない。なら何。

 

歳月は笑った。ふわりと。楽しそうだ。

 

「ライドウォッチの力です」

 

「ライドウォッチ?」

 

「はい。気づいたらここにいました」

 

歳月はティーカップを口元に運んだ。一口啜る。動作が優雅だ。

 

「気づいたらって、それ不安じゃなかったの?」

 

禽次郎は聞いた。正直な疑問だ。見知らぬ場所に放り出されたら、普通は焦る。パニックになる。俺だってそうだった。いや俺はパリピなので即ノリましたけど。

 

だが歳月は首を横に振った。いや違う。首を横に振った後に、顔を上げて笑った。

 

嬉しそうに。

 

「嬉しかったです」

 

「え」

 

「だって」

 

歳月は言った。目が輝いている。お淑やかな顔のまま、子どものように目を輝かせている。

 

「ここならば音楽を存分に楽しめますから」

 

その言葉に、禽次郎は目を瞬かせた。

 

音楽。

 

確かに。この彷霊界には、外から音楽が聞こえる。MiucSの音楽だ。あの呪いの音楽。だがそれ以外にも、霊たちの声がある。祈りの声。歌の声。怨嗟の声。この世界は音で溢れている。

 

「ここに来てから、色々な音が聞こえます。人の声も、祈りも、歌も。全てが音です。だから」

 

歳月は紅茶を一口啜った。微笑む。

 

「嬉しいのです。ここなら、音楽を聴き続けられますから」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。