ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
困惑している暇はなかった。
いや困惑している場合じゃないのに困惑していた。ボルギャンサーだ。壁を壊して現れた。オルカブースターを抱えて。なんで。どうして。疑問が三つ四つ五つと湧くが、今それを一つ一つ解いてる時間はない。
「取れ」
ボルギャンサーは短く言った。低い声だ。そしてオルカブースター5050を禽次郎の方へ差し出した。
「え、いや、これ」
「取れと言っている」
二度目はもう命令だった。有無を言わせぬ声だ。禽次郎は反射的に手を伸ばした。掌にオルカブースター5050が収まる。赤を基調に金銀の装飾。シャチ型の銃。重い。だが手に馴染む。まるで最初からこの手のために作られたみたいに。
「というか、喋れるの」
「使え」
ボルギャンサーはそれだけ言うと、壁の破片の上に立ち尽くした。何も聞かない。何も説明しない。ただそこにいる。
(何だよこの人)
禽次郎はオルカブースター5050を握りしめた。だが確かに手に馴染む。テガソードの相棒として、この銃が手にある。それだけで戦い方が変わる気がする。
ガウディの声が響いた。
「増えたか。だが増えたところで」
ガウディの指が動く。城の壁が再度唸りを上げた。石が組み替わり新たな槍が生まれる。
「数が変わっただけだ。建物は私のもの。この城の中では私が全てを支配する」
蜥蜴が唸りを上げた。ガウディの左目が細められる。顎髭の先が微かに震えた。
「来い。全て壊してやる」
石の槍が二十本。三十本。空中に並び二人へ向かって突進してくる。
「禽次郎さん!」
歳月が叫ぶ。漆黒の装甲が石畳を蹴る。だが壁に挟まれて動けない。
「くそっ!」
禽次郎は歯を噻んだ。テガソードを構える。だがテガソードだけじゃ足りない。弓だけじゃ槍の数に負ける。なら。
「オルカブースター…」
掌の中の銃が熱い。呼応するみたいに銃身が振動している。禽次郎の意志に応えている。この銃は使える。吠が使っていたのを見た。だが吠はゴジュウウルフだった。自分はゴジュウイーグルだ。違う力で同じ銃が使えるのか。
(やるしかない)
禽次郎はテガソードに左手を添えた。リングを装填する準備だ。だがゴジュウイーグルのリングじゃない。別の力が必要だ。オルカブースター5050に合わせた力が。
その時だ。
テガソードが光った。禽次郎が触れてもいないのに。リングスロットが一人で開いた。
「え?」
中から何かが落ちてきた。ライドウォッチだ。いつの間に。いやいつの間にじゃない。ボルギャンサーが壁を壊した瞬間に、何かがテガソードの中に入ったのか。いやもっと前からか。わからない。だがそこにある。
ライドウォッチの表面には鋏の紋章が刻まれていた。
「シザース…」
『シザース!』
ライドウォッチが音声を発した。鋏のライダー。仮面ライダーシザース。禽次郎は知らなかった。名前も知らない。だが力は呼びかけている。使えと。お前を使うと。
「やるしかないか」
禽次郎はライドウォッチを握った。意識を集中する。リングへの変換。テガソードの機能を使って、ライドウォッチをライダーリングへ。
光が溢れた。銀色の縁が赤く染まる。鋏の紋章が浮かび上がる。リングの形へ。ライダーリングへ。
カチリ。
変換完了。赤いリング。表面にシザースの紋章。
「エンゲージ!」
禽次郎は叫んだ。テガソードにリングを装填する。
『ライダーリング!シザース!』
テガソードが音声と共に、仮面ライダーシザースへと変身した。
(あれ?)
「シザースの姿のまま?」
ボルキャンサーの身体が光った。
いや光ったんじゃない。光が溢れた。甲殻の継ぎ目から。節と節の間から。橙色の甲殻の隙間から青い光が噴き出した。
(何だ)
禽次郎は目を細めた。シザースの装甲越しにボルキャンサーを見る。あの光はオルカブースターの光だ。掌の中のオルカブースター5050が振動している。共鳴している。ボルキャンサーと。
「まさか」
オルカブースター5050の力がボルキャンサーへ流れ込んでいる。禽次郎の手の中から光の筋が伸び、ボルキャンサーの身体へと繋がっている。見えない線じゃない。見える。青い光の線が掌からボルキャンサーへ。
ボルキャンサーの身体が震えた。
橙色の甲殻の上へ、何かが重なり始めた。黒い。岩盤みたいな質感の装甲だ。甲殻の表面を覆い被さるように、黒い装甲が形成されていく。まるで溶岩が冷えて固まるみたいに、じわりじわりと黒い装甲が広がっていく。
「でかくなってる…!」
歳月が叫んだ。漆黒の装甲の中で赤い複眼が見開かれている。
そうだ。ボルキャンサーがでかくなっている。元々大きかった。二メートルを超える巨体だ。だが今はさらに大きくなっている。黒い装甲が重なるたびに身体が膨らんでいく。筋肉が膨れ上がるみたいに。いや甲殻が分厚くなるみたいに。
両腕の鋏が膨れ上がった。
閉じた状態の鋏が盾みたいに大きくなっていく。橙色の甲殻と黒い装甲が重なり合い、巨大な塊となる。閉じた鋏がまるで城の扉みたいな大きさだ。開けば内側の鋏が覗く。だが今は閉じたまま巨大化している。
頭部の角が伸びた。
上方へ。まっすぐに。長大な橙色の一本角が伸びていく。だがただ伸びるんじゃない。角の表面に黒い帯状の節が浮かび上がった。岩盤の層みたいに。黒い節が角を補強していく。根元から先端へ。節が等間隔に並び、角を鋼の柱みたいに固めていく。
角の根元。左右に青い突起が並んだ。青く輝く。オルカブースターの光だ。装甲の亀裂にも青い光が走る。黒い装甲の隙間から青い光が溢れている。まるで血管の中を光が流れているみたいに。
胴体が広がった。幅広くなる。脚が太くなる。太く頑丈になる。増した重量を支えるように両脚が踏ん張った。石畳が軋む。ボルキャンサーの巨体が地面を押す。
巨大な鋏を持ち上げた。重い。だが持ち上げた。両腕の巨大な盾みたいな鋏を構えた。
最後に角の根元と装甲の亀裂が強く輝いた。青い光が爆発的に明るくなり、一瞬ボルキャンサーの全身が青く染まった。そして光が収まる。
強化が完了した。
ボルキャンサーがそこにいた。だがさっきまでのボルキャンサーとは別物だ。黒い岩盤状の装甲を纏った重厚な姿。橙色の甲殻は黒い装甲の下に覗くだけ。頭部から伸びる長大な一本角。黒い帯状の節で補強された鋼の角。根元の青い突起が鈍く光る。装甲の亀裂を青い光が脈打つように流れる。
胴体は幅広。脚は太く頑丈。両腕の鋏は盾を思わせる大きさだ。閉じた状態では黒い装甲と橙色の甲殻が重なる巨大な塊に見える。開けば内側の鋏が現れる。ボルキャンサーの特徴を残したまま、さらに凶悪な姿へ。
「はえ…」
禽次郎は呟いた。シザースのマスクの下で口が開いているのが自分でもわかる。
「すげえ…」
素直な感想だった。パリピ高校生の語彙が尽きた。すげえしか出ない。
歳月も呆然としていた。漆黒の装甲が微かに揺れている。あの歳月でさえ言葉が出ていない。
ガウディが左目を細めた。前髪の下で右目が動いた気がした。顎髭の先が震えた。
「変わったか」
ガウディの声は静かだった。だがその静けさに焦りが混じった。
「だが変わったところで。建物は私のものだ」
ガウディの指が動いた。城の壁が唸りを上げた。石の槍が再び形成され始める。だがボルキャンサーは動じない。巨大な鋏を構えたまま、ただ立っている。その巨体が、禽次郎と歳月の前に壁となって立っている。
「ボルちゃんやるぅ!!」
思わず、呟いた禽次郎の言葉に、ボルキャンサーも反応した。