ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「ねえ早希さん。この街のこと、もう少し詳しく教えてくれない?」
角乃は近くの石垣に腰を下ろしながら、早希に問いかけた。探偵モードを少し緩め、等身大の「お姉さん」の顔で話しかける。こういう時は、相手を急かさないことが大事だ。焦りは、情報を遠ざける。
早希は小さく頷き、隣に腰を下ろした。フードの奥から、灰色の空を見上げる視線がのぞく。
「…この街には、生前に重い罪を背負った者たちが集まっています。彷霊界の片隅で、最も治安が悪い場所の一つです」
「罪、ね…。罪の種類は?」
「人を殺した者。金を盗んだ者。裏切った者。祈りを忘れた者…色々です。共通しているのは、“罰を受け損なった”ということでしょうか」
早希の声は淡々としていた。感情を押し殺している、というよりは、最初からそういう事実として受け入れているように聞こえる。
「罰を受け損なった、か…。つまり、死ぬ前に償う機会がなかったってこと?」
「ええ。この街では、彼らは互いに争い、時に殺し合いをします。生きている時と同じ過ちを、ただ繰り返しているのです」
角乃は唇を引き結んだ。耳障りな言葉だ。けれど、どこか現実味がある。この街の空気が、どことなく湿り気を帯びて重い理由が、少しだけ理解できた気がした。
(まるで、閉じ込められた罪人たちのストックヤード、ってところかしら)
胸の奥でツッコミを入れながらも、角乃の視線は自然と早希の横顔に注がれていた。フードの奥、かすかに覗く横顔。その頬には、薄い影が落ちている。
「…早希さん」
「はい?」
「あなたも、その一人なの?」
角乃の問いは、静かだった。責めるでも同情するでもなく、ただ事実を確認するような、それでいて相手の核心に触れるような口調。
早希は一瞬、肩を強張らせた。水晶玉を握る指先が、かすかに震える。それから、ゆっくりと顔を上げた。
「…ええ」
短い言葉だった。けれど、その一言には、重く濃い何かが詰まっていた。
「人を、殺しました」
角乃は、息を呑んだ。聞きたかった答え。けれど、いざ言葉にされると、胸に鉛のような重さがのしかかる。
「…いつ、のこと?」
「私がまだ生きていた頃です。ずっと昔の話です」
早希は視線を落とした。水晶玉の中で、淡い光が揺れる。まるで、彼女自身の記憶のように。
「誰を…?」
角乃は聞いた。聞くべきではないかもしれない。けれど、探偵としての本能が、答えを求めていた。早希の「罪」が、この街の異変と関係があるのかどうか。その判断材料が必要だった。
早希は、しばらく沈黙した。風が吹き、ローブの裾がはためく。遠くで、誰かの怒鳴り声が聞こえた。罪人たちが争っているのだろう。
「…大切な人を、守れませんでした」
ぽつり、と早希がこぼした。声は小さく、風に攫われそうだった。
「それだけ、じゃない。守ろうとして、私は…」
言葉が途切れる。早希は唇を噛みしめた。フードの奥で、瞳がかすかに潤むのが見えた。
角乃は、何も言えなかった。早希の言葉の続きを聞きたかった。けれど、無理に聞き出すことには躊躇いがあった。自分だって、言いたくないことはある。妹・緒乙のこと。誘枴犯への復讐心。警察を辞めた時の悔しさ。どれも、今の角乃を形作る「罪」のようなものだ。
(…結局、私たちは似た者同士、ってわけね)
角乃は小さく息を吐いた。胸の奥で、何かがざわめく。ナンバーワンエスパー能力が、早希の表層思考をかすかに拾った。
――ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
何度も何度も繰り返される謝罪。早希の心の中で、それは永遠に続く輪廻のようだった。
「…辛い話だったわね。ありがとう、教えてくれて」
角乃は立ち上がった。そして、早希に手を差し伸べる。
「でも、私はまだあんたを疑ってる。この街の異変と、あんたの罪が関係あるのかないのか。それを確かめるまで、警戒は解かない」
「…当然です」
早希は静かに微笑んだ。その笑顔は、どこか安堵しているようにも見えた。
「さて、と。まずはこの街のことをもっと調べないとね。どこから始めるか…」
角乃は周囲を見渡した。灰色の空、湿った石畳、見覚えのあるようでない店並み。そして、罪を背負った者たちのざわめき。
角乃は胸の内で小さくガッツポーズをした。けれど、その瞳の奥には、早希の「罪」への疑念と、同時に湧き上がる奇妙な共感が渦巻いていた。