ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
角乃は早希と共に、街の通りを歩き始めた。
「ねえ早希さん。この街の人たち、ちょっと観察してもいい?」
「ええ、構いません。ただし、あまり目立たないように」
「心得てるっての。ハイクラス名探偵の尾行術を舐めないでよね」
角乃は小声でそう返し、ローブの裾を少し引き上げた。早希のフードと並んで歩けば、二人の占い師風の姿は周囲に溶け込みやすい。都合のいい仮装、というわけだ。
(…もっとも、変装の出来は五段階中三つくらいなんですけどね)
胸の奥で自分にツッコミを入れつつ、角乃は街の住人たちを観察し始めた。
まず目についたのは、服装の不一致だった。
通りの向こうからやってくるのは、幕末時代の着物を着た男。すそを泥で汚した侍風の姿は、どこか心許ない足取りで石畳を歩いている。
その横をすり抜けていったのは、昭和初期のモンペ姿の老婆。顔はしわくちゃで、けれど背筋はまるで針金で支えられたかのように真っ直ぐだ。
「……あれは、戦時中の方ですね」
早希が小声で囁く。角乃は頷いた。
さらに奥から、平成らしいストリートファッションの若者がやってくる。だぼだぼのパーカーに、だるだるのジーンズ。首にはヘッドフォン。けれどそのヘッドフォンからは、どんな音も鳴っていない。
(…まるで、時代劇の撮影現場に間違えて紛れ込んだアイドルのMVセット、みたいな光景ね)
角乃は心の中で眉をひそめた。服装の年代がバラバラすぎる。幕末、明治、大正、昭和、平成、令和。まるで日本の歴史の教科書をひっくり返したみたいだ。
そして男女の比も、完全にバラバラだった。
刀を腰に差した侍の隣を、スカートの裾を翻す女学校の生徒が歩いていく。その後ろからは、スーツ姿のサラリーマン。さらに奥には、江戸時代の小袖を着た娘が、ぼんやりと空を見上げている。
歳も、老若男女、文字通り千差万別だ。
(…三角関係の修羅場よりカオスな光景なんですけど)
角乃は内心で頭を抱えた。けれど、観察を進めるうちに、ある共通点に気づいた。
* * *
「…早希さん」
「はい?」
「この街の人たち、全員どこか似てない?」
角乃は角の柱の陰に身を潛めながら、通りの向こうにいる三人を指差した。
幕末の侍。昭和の老婆。平成の若者。
三人はそれぞれに別の方角を向いて歩いている。服装も、時代も、性別も、歳も違う。けれど。
「全員、下を向いてる」
角乃の声は、静かだった。
「うん。それに、肩が縮こまってるのよね。まるで、背中に見えない荷物を背負わされてるみたいに」
事実、通りの住人たちは全員、どこか後ろめたいような、暗い影を纏っていた。
侍は刀の柄に手をかけたまま、絶えず後ろを振り返る。老婆は通りの角に立ったまま、一歩も動かない。若者はヘッドフォンを押さえ続け、その指先がかすかに震えている。
「…後ろめたさ、ね」
早希がぽつりと呟いた。
「この街の人たちは皆、何かを背負っている。だからこそ、この街に来る。帰り道を見失うのも、その重さのせいなのかもしれません」
角乃は眉をひそめた。探偵としての観察眼が、住人たちの微細な動作を次々と拾い上げていく。
「ねえ、あの侍の人。刀の柄を握る手が震えてる。人を斬ったことがある手、よね」
「…そうですね」
「あの老婆は、足元の石畳を何度も叩いてる。誰かを埋めた場所を確認してるみたいに。あるいは、誰かに謝ってるのかもしれない」
角乃はそこで言葉を切った。早希の横顔を見る。フードの奥で、早希の瞳がかすかに揺れているのが見えた。
「…あんたも、同じなんでしょ?」
「ええ」
早希は迷わず答えた。その声は、けれど震えていた。
「私も、この街に来る資格がある。それは、私が人を殺したからです」
角乃は何も言わなかった。ただ、早希の隣で、通りの向こうにいる住人たちの背中を見つめていた。
「…この街の人たち、全員が何かを後悔してるのね」
「ええ。それがこの街の空気の正体です。後悔と罪悪感と、贖罪の機会を失った者たちの沈黙」
早希は水晶玉を胸に抱いた。
「…だからこそ、私は占いをしているのです」
「占いで、贖罪ができるわけ?」
「できません。けれど、誰かの道を照らすことくらいは、できるかもしれない」
角乃は、早希の横顔を見つめた。フードの奥に光る瞳は、泣いているようにも、笑っているようにも見えた。
(…ったく。格好いいこと言うじゃない。あんた、本当はただの占い師なんじゃないわよね)
角乃は胸の奥で小さく息を吐いた。そして、改めて通りの住人たちを見渡した。
「…ねえ早希さん。一つ気になることがあるんだけど」
「何ですか?」
角乃は顎をしゃくった。通りの奥、影の中に佇む人影を指差した。
「あの人たち、他の住人とちょっと違わない?」
早希の視線が、角乃の指差す方向へ向けられた。
「…あの方たちは、ここに長く留まりすぎた者たちです。罪が積もり積もって、魂が曇り始めている」
角乃は目を細めた。
「魂が、曇る…」
「ええ。この街に留まることは、罪を重ねることと同じです。帰り道を見失ったままここにい続けると、やがて、自分が何者だったかも、何を後悔していたかも、忘れてしまう」
角乃は背筋に冷たいものが走るのを感じた。それは恐怖だった。けれど同時に、探偵としての好奇心でもあった。
「…それって、つまり、この街そのものが罠だってこと?」
「ええ。この街は“帰りたい”という想いに引っかかる。そして、その想いを糧に、迷路を広げていく。私たちがここで立ち止まって話している間にも、街は少しずつ、出口を消しているのです」
角乃は息を呑んだ。
「…だったら、早く合流しないと。仲間を見つけないと、私もこの街に飲まれちゃうってこと?」
「その可能性は、あります」
早希は静かに頷いた。その表情に、恐怖はなかった。あるのは、静かな諦念のようなものだ。
「…けれど、焦ってはいけません。焦りは、この街の罠に引っかかる最初の一手です」
角乃は唇を噛みしめた。早希の言う通りだ。焦っても仕方がない。けれど、焦らないでいられるかどうか。それは、自分の意志の強さ次第だ。
(…あーあ。吠たちがいたら、一発ぶん殴って気が済むのに)
心の中でそんなことを思いながら、角乃は改めて早希に向き直った。
「ねえ。この街で起きてる“異変”って、それのこと? それとも、何か別にある?」
早希は一瞬、言葉を詰まらせた。それから、視線を落とす。
角乃の問いに答えようとしたふいに「うわああああああああっ!」
通りの向こうから、耳をつんざくような絶叫が響いた。
「え?」
角乃が振り向いた先、先ほどまで道に迷っていた初老の男性の体が、内側から泡立つように膨らんでいく。
「な、何これ…!」
角乃は思わず後ずさった。男性の体から黒い煙が噴き出す。それはまるで墨汁をぶちまけたように空中に広がり、次の瞬間、不気味な形へと凝固していった。
ギチギチギチ――。
骨の砕けるような音が響く。男性の体がねじれ、歪み、最終的に巨大な怪物の形へと変貌していく。
「っ…!」
角乃は息を呑んだ。男性の顔は消え、代わりに獣のような牙がむき出しになった口が開く。両腕は枝のように太く長くなり、その先端には鋭い爪が生えている。
「これ、冗談じゃ…」
「下がってください!」
早希が角乃の手を引いた。ちょうどその瞬間、怪物の腕が二人のいた場所を薙ぎ払う。
ドンッ!
石畳がえぐれ、粉塵が舞い上がる。
「うそでしょ…あの人、普通の迷子のおじいちゃんだったのに!」
角乃は呆然と呟いた。だが、事態はさらに悪化していた。
「あああああああ!」
「助けて! 助けてぇぇぇ!」
四方八方から悲鳴が響く。通りのあちこちで、同じように人々が黒い煙を噴き出し、怪物へと変貌していく。
幕末の侍が、刀を振り上げながら怪物になる。
昭和の老婆が、しわくちゃの顔を歪ませながら怪物になる。
平成の若者が、ヘッドホンを引き裂きながら怪物になる。
「な、何これ…何が起きてるのよ!」
角乃の声が震えた。さっきまで、ただの迷子たちだった人々が、一瞬にして怪物へと変貌していく。それはまるで、悪夢の中の光景だった。
「…怨霊です」
早希が静かに言った。その声には、驚きはなかった。まるで、こうなることを知っていたかのような口調だった。
「怨霊…?」
「ええ。この街に留まりすぎた魂が、罪と後悔に蝕まれて変貌した姿。それが怨霊です。普段は、私の占いで制御できているのですが…」
早希の水晶玉が、かすかに光を失いかけていた。
「ネロ派…やはり、奴らの仕業ね」
「ネロ派?」
角乃は早希に向き直った。早希は苦々しげに唇を噛む。
「ネロというゴーストが率いる一派のことです。彼らは彷霊界で力を拡大しようとしています。そのために、この街の怨霊を活性化させている」
「活性化って、つまり…」
「人間を襲う存在へと変化させる、ということです。怨霊は元々、彷霊界の住人にしか危害を加えません。ですが、ネロ派の干渉によって、人間界への侵攻が可能になっているのです」
角乃は眉をひそめた。ネロという名前に、何か引っかかるものを感じた。
「ネロ…聞いたことある名前ね。彷霊界のゴースト、だったかしら」
「ええ。ネロ城という拠点を持つ強力なゴーストです。最近、彷霊界各地で怪異が活発化していますが、その背後にネロの影があると言われています」
「…本当、嫌になるわね」