ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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赤い狼、吠える

 路地裏の熱気が、ぴたりと止まった気がした。

 

 目の前には、異形のライダーが二人。片方は生き物めいた鮮やかさをまとい、片方は赤い光を刃のように走らせている。どちらも今にも飛びかかってこられる距離にいるくせに、踏み込んではこない。見ている。測っている。知らないものを前にした獣みたいに、俺の出方を待っていた。

 

 なら、こっちも遠慮はいらない。

 

 右手を開く。

 

 指先に、熱を帯びた輪の感触が生まれる。

 

 ゴジュウウルフのセンタイリング。

 

 それを正面へ掲げた瞬間、空気が揺れた。

 

 金色の光が、何もない空間を縦に裂く。そこから現れたのは、眩いばかりの黄金をまとった剣――テガソードだった。手の形を思わせる異様な輪郭。刃というにはあまりにも大きく、玩具じみた派手さを持ちながら、それでも一目で分かる威圧感がある。

 

 その場の空気が、また一段重くなる。

 

 鮮やかな方が、わずかに笑みを深くした。

 

「へえ……」

 

 赤い光の方は、無言のまま剣先をわずかに下げた。踏み込めばいい。けれど踏み込まない。未知を前にした警戒が、二人の足を地面へ縫い付けていた。

 

 俺は息を吸う。

 

 リングを、テガソードへ。

 

 装填部へ差し込んだ瞬間、金の刀身が脈打つように光った。

 

『クラップユアハンズ!』

 

 重く、場を支配するような待機音が鳴る。

 

 その音が路地裏の壁へぶつかり、何度も跳ね返る。まるで戦えと急かすみたいに。

 

 なら――応えてやる。

 

 両手を打つ。

 

 乾いた音が、鋭く鳴った。

 

 同時にグリップへ指をかけ、迷いなくボタンを押し込む。

 

 金色の閃光が走った。

 

 テガソードの輝きが一気に膨れ上がり、俺の腕を、肩を、胸を、脚を、獣の咆哮みたいな勢いで包み込んでいく。熱い。けれど焼ける熱じゃない。骨の内側へ直接流し込まれる、戦うための力の熱だ。

 

 視界の端で、二人のライダーがなおも動かないのが見えた。

 

 その一瞬の静止すら、今の俺には追い風だった。

 

 光が弾ける。

 

『ゴジュウウルフ!』

 

 変身音が鳴り響く。

 

 狼の力が、皮膚の上ではなく、もっと深いところで噛み合った。

 

 次の瞬間には、俺の身体はもう別の輪郭を持っていた。赤を宿した装甲。獣を思わせる鋭さ。握ったテガソードが、さっきまでよりもずっと手に馴染む。重さはあるのに、遅れはない。むしろこっちの方が、本来の自分の形だとすら思える。

 

 変身の余光が薄れていく。

 

 静まり返った路地裏の真ん中で、俺はゆっくりとテガソードを構えた。

 

「待たせたな」

 

 低く吐いた声は、もうただの遠野吠のものじゃない。

 

 鮮やかなライダーが面白そうに首を傾げる。

 

「それが君の姿か」

 

 赤い光のライダーは、ようやく刃を持ち上げた。

 

 その動きは、今までよりほんの少しだけ慎重だった。

 

 俺は口の端を吊り上げる。

 

「来いよ」

 

 金のテガソードを握る手に、自然と力が籠もった。

 

 路地裏の奥で、三つの呼吸が重なっていた。

 

 壁に挟まれた細い空間は、ただ狭いだけじゃない。逃げ場を削り、間合いを削り、剥き出しの殺気だけを濃くしていく。足を半歩ずらすだけで肩が壁に触れ、剣をわずかに振るだけで火花が散る。そういう場所だった。

 

 いい。

 

 こういう場所の方が、むしろやりやすい。

 

 俺は金のテガソードをゆっくり持ち上げ、二人へ切っ先を向けた。

 

「お前らは俺の獲物だ」

 

 吐き捨てた直後、肺の奥に溜まっていた息を一気に放つ。

 

 遠吠え。

 

 喉の奥から絞り出したそれは、ただの気合いじゃない。自分の中に沈んでいる獣を、戦いの表へ引きずり上げるための合図だ。声が狭い路地にぶつかり、何度も反響して、空気そのものを震わせる。

 

 次の瞬間、俺は地を蹴っていた。

 

 真正面から、最短距離で。

 

 先に動いたのは俺だ。けれど反応した二人も遅くない。鮮やかな装甲のガヴが生き物みたいに身体をしならせ、赤い光を走らせたファイズが逆手の刃を斜めに引き絞る。

 

 三つの刃が、ほとんど同時に届いた。

 

 鈍い衝撃。

 

 火花。

 

 テガソードに伝わる手応えは二つ分、それでも重さに押される感覚はなかった。左から柔らかく潜り込むような圧、右から鋭く骨を断ちにくるような線。その両方を、金の刃でまとめて受け止める。

 

「へえ!」

 

 ガヴが笑う。楽しんでる声だ。

 

「最初からそう来るんだ!」

 

「――鬱陶しい」

 

 ファイズは短く吐き捨て、そのまま刃の角度を変えてきた。受け止めたままじゃまずいと判断したんだろう。いい判断だ。だが遅い。

 

 俺はその場で押し返さない。

 

 膝を沈める。

 

 重心を落としたまま、体だけを半歩滑らせる。

 

 左の壁、右の壁、その狭さを身体が勝手に覚えているみたいだった。真正面で押し合えば、長い刃は不利になる。本来ならそうだ。だが、真っ向から付き合う必要なんてない。

 

 狼は、獲物の真正面で牙を見せ続けたりしない。

 

 噛みつく角度は、一瞬で変える。

 

 俺はテガソードをわずかに寝かせた。二人の刃を真正面で受ける形から、擦らせて逃がす形へ。金属が悲鳴を上げる。火花が裂けるように散る。その眩しさの中へ、自分の身体を滑り込ませる。

 

「っ!」

 

 先に崩れたのはガヴだった。

 

 柔らかい動きで踏み込んでくる分、体勢の切り返しが一瞬だけ遅れる。その隙に肩口へテガソードの腹を打ち込む。斬るんじゃない。叩き潰すように。狭い路地じゃ、それで十分だ。

 

 ガヴの身体が壁へぶつかり、鈍い音が返る。

 

 だが、そのまま追わない。

 

 追えば、右から来る。

 

 案の定、ファイズの刃が赤い線を引いて喉元へ走った。読み通りだ。俺は上体をわずかに反らし、その切っ先を鼻先でやり過ごす。冷たい風圧が頬を掠めた。

 

 近い。

 

 速い。

 

 けど、見えない速さじゃない。

 

「浅えな」

 

 吐いた言葉と同時に、俺は前へ出る。

 

 刃を振るんじゃない。身体ごとぶつかる。肩で間合いを壊し、テガソードの柄で相手の剣筋を外へ弾く。狭い路地で逆手の剣を活かすなら、距離がいる。なら、その距離ごと奪えばいい。

 

 ファイズの赤い光が、ほんのわずかにぶれた。

 

 その一瞬で十分だった。

 

 テガソードを翻す。

 

 下から斜めに、壁際へ追い立てるように薙ぐ。

 

 ファイズは刃で受ける。火花が散る。だが、受けた場所が悪い。背後は壁だ。逃げる幅も、踏み直す余地もない。

 

 そうだ。

 

 路地裏ってのは、こう使う。

 

 横でガヴが体勢を立て直す気配がする。壁を蹴る音。呼吸。装甲の擦れる気配。全部、耳じゃなく皮膚で分かった。

 

 二人同時。

 

 それでいい。

 

 俺はテガソードを握り直し、獰猛に息を吐いた。

 

 ガヴが壁に叩きつけられたまま終わるような相手じゃないことは、最初から分かっていた。

 

 鈍い音を立てて背中から壁へぶつかったくせに、次の瞬間にはもう笑っている。腹立たしいくらい軽い笑い声だった。

 

「いいねえ……! やっぱり君、最高だ!」

 

「褒められても嬉しくねえよ」

 

 吐き捨てると同時に、赤い光が横から差し込んでくる。

 

 ファイズ。

 

 逆手の刃が、狭い隙間を縫うように俺の脇腹を狙っていた。

 

「余所見するな」

 

「してねえよ」

 

 テガソードの腹で受ける。火花が散る。その反動を利用して半歩下がった瞬間、今度はガヴが地を蹴っていた。鮮やかな装甲が路地裏の壁へ食いつくように走り、そのまま斜め上へ跳ね上がる。

 

「上かよ!」

 

 壁を蹴る音が二度、三度と続く。まるで路地そのものを足場にしてるみたいな動きだった。頭上を取る気だ。下から潰すつもりでいる。

 

 いい判断だ。

 

 だから、合わせる。

 

 俺も壁へ踏み込んだ。

 

 靴底が縦の壁を噛む。普通ならあり得ない角度でも、今の身体は迷わない。テガソードを握ったまま、路地の壁を駆け上がる。視界が斜めになる。空と壁と敵の位置が一瞬で組み替わる。その中で、ガヴの動きだけが妙にはっきり見えた。

 

「追ってくるの!?」

 

「逃がすかよ!」

 

 上を取ろうとしたガヴの眼が、初めてはっきりと揺れた。面白がる余裕が消えた、その一瞬で十分だ。

 

 俺は壁を蹴る。

 

 身体が前へ弾ける。

 

 空中でテガソードを振りかぶる。その軌道に迷いはない。重い一撃じゃない。これはもっと鋭い。獣が喉笛へ噛みつく時みたいに、最短で、最速で、たった一つの線だけを通す。

 

「終わりだ、ガヴ!」

 

 トリガーを引く。

 

『フィニッシュフィンガーウルフ』

 

 音声が響いた瞬間、全身の力が刃へ一点に収束する。

 

 「ライジングレッドウルフ!!」

 

 振り下ろした、そう認識した時にはもう遅い。目で追うより先に斬撃が走っていた。赤い閃光が、宙に逃げたガヴの身体を一閃で切り裂く。

 

「――ぁ」

 

 間の抜けた声が漏れる。

 

 次の瞬間、ガヴの姿が弾かれた。鮮やかな装甲が火花を散らし、壁へ叩きつけられ、そのまま路地の地面へ転がり落ちる。

 

 着地した俺の靴底が、低く音を立てた。

 

 息は乱れていない。

 

 テガソードの切っ先を下げ、倒れたガヴを見る。もう立てない。無理に起き上がろうとしても、身体が言うことを聞いていないのが見て取れた。

 

「一人」

 

 短く呟く。

 

 その時、背後で赤い光が揺れた。

 

「……やるじゃないか」

 

 ファイズの声は低い。だが、さっきまでの余裕はもうなかった。

 

 俺は振り向きながら、テガソードをゆっくり構え直す。

 

「次はお前だ」

 

 ファイズの動きが、ほんの一瞬だけ止まった。

 

 ガヴが沈んだ場所を見た、その一拍だ。長い戦いじゃない。けれど、命を落とすには十分すぎる長さだった。

 

「……一瞬で、あそこまでやるか」

 

「次はお前だって言っただろ」

 

 俺が一歩踏み出すと、ファイズはすぐに後ろへ滑る。正面から受ける気はない。いい判断だ。壁際へ追い込まれたら終わると、もう分かってる。

 

 そのまま腰の装備から、携帯端末めいた機械を引き抜いた。

 

 銃みたいに構える。

 

「面倒なのに当たったな……!」

 

 光が走った。

 

 乾いた発射音。細く鋭い一撃が、一直線にこっちへ飛んでくる。速い。だが、見えないほどじゃない。

 

 テガソードを払う。

 

 弾いた光が壁へぶつかり、白い火花を散らした。続けざまに二発、三発。俺は真正面から全部叩き落とすんじゃなく、刃の角度を少しずつ変えながら流していく。右の壁、左の壁、地面。狭い路地の中で光が跳ねるたび、空気が焦げ臭く熱を増した。

 

「くっ……!」

 

「牽制のつもりか?」

 

「黙れ!」

 

 もう一発。今度は低い。足を止めるための射線だ。

 

 だが止まらない。

 

 俺はその光を刃の腹で逸らし、そのまま前へ出た。距離を取って戦いたい相手に、距離を与えない。それだけで十分効く。

 

 ファイズが舌打ちする。

 

「来るな……!」

 

「無理な相談だな」

 

 間合いが消える。

 

 携帯端末めいた武器を引き戻すより先に、俺はテガソードの柄でその腕を外へ払った。軌道がぶれる。ファイズは体勢を立て直そうとするが、路地裏の幅がそれを許さない。背後の壁、横の壁、逃げる余地はもう薄い。

 

 そこで終わらせる。

 

 テガソードを握り直し、トリガーへ指をかけた。

 

「これで沈める」

 

『フィニッシュフィンガーウルフ』

 

 重い音声が響く。

 

 次の瞬間、身体が勝手に動いていた。

 

 まず一撃。腹へ。

 

 鈍い音が鳴るより先に、返す刃で肩を打つ。浮いた体勢へ膝を叩き込み、崩れたところへもう一度踏み込む。格闘ゲームの連続技みたいに、隙を与えず、呼吸を挟まず、徹底的に繋ぐ。右、左、正面。逃げ場も反撃の起点もまとめて潰していく。

 

「がっ……!」

 

「まだだ!」

 

 最後に、全身の力を一点へ集める。

 

 テガソードを大きく振りかぶる。重い。だが、その重さごと叩きつければいい。

 

 振り下ろした一撃が、ファイズを真正面から捉えた。

 

 激突音。

 

 赤い光が弾け、ファイズの身体が後ろへ吹き飛ぶ。壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。

 

 静かになった。

 

 さっきまで狭い路地裏を満たしていた殺気が、急に引く。俺は浅く息を吐いて、テガソードを下ろした。

 

「……終わりだ」

 

 倒れた二人のライダーの装甲が、光の粒みたいにほどけていく。

 

 ガヴも、ファイズも、もう立ち上がらない。変身が解け、その下から現れたのは、見知らぬ男たちの姿だった。だが、そっちに意識を向けるより先に、別のものが目に入る。

 

 腰のベルトに収まっていた、あの時計型の装置だ。

 

 それが二つ、ふわりと浮かび上がる。

 

「……なんだ?」

 

 思わず眉をひそめる。

 

 装置は糸で引かれるみたいに、まっすぐ俺の方へ寄ってきた。警戒してテガソードを構え直すが、攻撃してくる気配はない。俺の目の前でぴたりと止まると、そのまま形を変え始めた。

 

 時計みたいな厚みが縮む。

 

 輪郭が丸まり、余計な部分が削ぎ落ちる。

 

 気づけば、俺の知っている形になっていた。

 

「……指輪?」

 

 センタイリングと、ほとんど同じ大きさ。

 

 違う。色も意匠も違う。だが、手に取るべきものとしての大きさも重さも、妙に馴染む。

 

 俺はゆっくり片手を伸ばし、その一つを掴んだ。

 

 冷たい。

 

 なのに、どこか懐かしい感触だった。

 

「何で……こうなる」

 

 誰に聞かせるでもなく呟く。

 

 答える奴はいない。倒れた二人は動かず、路地裏には戦いの残り火みたいな熱だけが残っていた。

 

 勝った。

 

 それは間違いない。

 

 けど、手の中にあるこの指輪は、勝利の感触よりもずっと嫌な疑問を連れてきた。

 

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