ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
角乃が早希の言葉に眉をひそめた瞬間だった。
ギャアアアアアアアアアアアッ!
耳をつんざく絶叫が、四方八方から襲いかかってきた。
「え?」
角乃が顔を上げると、通りのあちこちで霊たちが苦悶の表情でうずくまっていた。さっきまでただ迷子になっていただけの人々が、皮膚の下から黒い煙を噴き出し始めている。
「な、何これ…!」
「来ます!」
早希が叫んだ。次の瞬間、最も近くにいた侍風の男の体が、内側から爆ぜた。
ボンッ!
黒い煙が弾け、男の体がねじれ、歪み、別の何かへと変貌していく。骨が砕ける音。肉が裂ける音。そして、獣のような咆哮。
「ひっ…!」
角乃は思わず後ずさった。そこに立っていたのは、人間だったはずの男ではなかった。黒い甲冑のような外殻に覆われ、巨大な爪を持った怪物。瞳は虚ろで、口からは涎が滴り落ちている。
「ちょ、ちょっと冗談でしょ…さっきまで普通の人間だったじゃない!」
「怨霊です!」
早希の声が響く。角乃が振り向くと、彼女の顔から血の気が引いていた。
「この街に留まりすぎた魂が、罪と後悔に蝕まれて変貌した姿。それが怨霊です。普段は私の占いで制御できているのですが…」
「制御って、それどういう…」
角乃の言葉は、次の絶叫にかき消された。
「ああああああっ!」
「助けてぇぇぇぇ!」
通りの向こうで、昭和の老婆がのけぞった。その背中から黒い煙が噴き出し、全身を包み込んでいく。
「くっ…!」
角乃は拳を握りしめた。何かをしなければ。けれど、何を? ユニコーンドリル50は手元にない。変身用の指輪も、今はどこにあるのか分からない。
(くそっ、こんな時に限って…!)
焦りが胸を焦がす。その時。
「角乃さん、下がっていてください」
早希の声が、静かに響いた。先ほどまでの怯えたような声音とは違う。凛とした、覚悟を決めた声だった。
「え?」
角乃が振り向くと、早希はローブの懐から何かを取り出していた。それは、腕時計のような、けれどどこか異質な形状をしたアイテム。表面には、仮面のような意匠が刻まれている。
「それは…ライドウォッチ?」
角乃の問いに、早希は頷いた。フードの奥で、瞳が静かに光る。
「怨霊を沈めるには、私の力が必要です。あなたはそこで、動かないで」
「ちょっと、一人で何をするつもり…!」
「見ていてください」
早希はライドウォッチを起動させた。
カチッ。
小さな音と共に、時計の文字盤が回転する。そして、早希は腰に装着されたベルト――ジクウドライバーへとライドウォッチを装填した。
『ライダータイム!』
電子音声が響く。同時に、早希の周囲に黒い風が巻き起こった。
『仮面ライダーナイト!』
宣言と同時に、ジクウドライバーが回転する。早希の体を、漆黒の光が包み込んだ。
「え…ええっ!?」
角乃は目を見開いた。早希の体が光に溶け、代わりに黒い装甲が瞬く間に形成されていく。
濃紺と銀色の装甲。頭部に伸びる尖った意匠。顔面を覆う銀色の縦格子状の面甲。そして、背中から広がるコウモリの翼。
角乃は呆然と呟いた。さっきまで占い師のフードを被っていた少女が、今は完全に異形の戦士へと変貌している。
「驚かせてすみません。でも、これが私の力です」
ナイトの声は、早希のものだった。けれど、どこか響きが違う。金属のマスク越しに聞こえる声は、より鋭く、力強い。
「さてと…」
ナイトは腰のダークバイザーを抜き放った。細身の剣が、黒い閃光を放つ。
「怨霊たち、静まって。あなたたちの罪は、私が背負いますから」
その言葉と共に、ナイトは駆け出した。最先頭の怨霊に向かって、剣を構えて。
角乃は、ただ呆然とその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
(…あの子、何者なのよ)
胸の奥で、疑問と驚愕が渦巻く。けれど、同時にどこか納得したような気持ちもあった。
(やっぱり、ただの占い師じゃなかったってわけね)
角乃は小さく息を吐いた。そして、改めて前を向く。
「…さて。私も、何かできることを探さないとね」
ナイトの背中を見つめながら、角乃はポケットの中の指輪を握りしめた。
「さて。私も、何かできることを探さないとね」
ナイトの背中を見つめながら、角乃はポケットの中の指輪を握りしめた。
金属の冷たい感触。テガソードの揣型をしたセンタイリング ゴジュウユニコーン。いつの間にポケットに入れていたのか。いや、ずっと入れていたのだ。肌身離さず、肌身離さず。
(さっきから気になってたんだけどさ、あんた一体何者なわけ?)
角乃の内面でツッコミが走る。けれど、今はそれを口にしている暇はない。
目の前で、ナイトがダークバイザーを振るう。黒い刃が弧を描き、怨霊の腕を弾き飛ばす。ギャアッという悲鳴が石畳に反響した。
「すごい…」
思わず声が出た。あの占い師の少女が、まさかこれほどの戦士だったとは。
けれど、感心している場合ではない。
通りの奥から、さらに怨霊たちが迫ってくる。二体、三体、いや、もっとだ。黒い煙を纏った元人間たちが、空洞の瞳でこちらを睨みながら、ギチギチと関節を鳴らしている。
「くっ…!」
角乃は唇を噛みしめた。指輪を握る手が、微かに震える。
(怖い…?
バカ言わないでよ。ハイクラス名探偵が怖いわけないでしょ)
震えは恐怖ではない。こういう時の震えを、角乃は知っている。武者震いだ。戦う前の、高揚感だ。
「やるしかない、か…」
角乃はテガソードを腰に構えた。変身の準備はできている。あとは、指輪をセットするだけ。
(ねえ、緒乙。今どこにいるのかしら)
妹の顔が脳裏をよぎる。けれど、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
「……やるわよ」
角乃はテガソードのグリップを握りしめた。そして、センタイリング ゴジュウユニコーンをテガソードにセットする。
カチャリ。
金属が噛み合う音が、戦場に響いた。
『クラップユアハンズ!』
待機音が鳴る。角乃は無駄のない動きで手拍子を打った。一度、二度。リズムは意外と悪くない。
(……なんか、マジで必死なんだけど)
内心でツッコミつつ、角乃はテガソードのグリップを握り直した。
「エンゲージ!」
グリップのボタンを押す。その瞬間、光が弾けた。
変身の光が、角乃の全身を包み込んでいく。
(……あ、これ……やっぱり、熇うい……)
光の渦の中で、角乃の感覚が変化していく。素肌を覆っていた服が消え、代わりに黒を基調としたスーツが全身を包んでいく。マゼンタと白のアクセントが、装甲の縁取りを走った。
脚部に装甲が形成される。腕部にガントレットが装着される。そして、最後に。
頭部に、一本角を備えたヘルメットが被さる。
『ゴジュウユニコーン!』
変身完了音が響き渡る。
「……はっ」
息を吐いた視界は、ヘルメットのバイザー越しに、少しだけ青みを帯びて見えた。
角乃は……いや、ゴジュウユニコーンは、バイザー越しに前を睨んだ。怨霊の群れが、通りを埋め尽くしている。
「……数が多いわね」
冷静に状況を判断する。探偵の目だ。敵の数、位置、動き。バイザー越しに見える情報を、瞬時に頭の中で整理していく。
「……十二体。いや、十四体か。増えてる」
角乃はユニコーンドリル50を構えた。ドリル型の専用武器が、低い唸り声を上げる。
「……数が多いだけなら、どうということはないわ」
そう口にしつつも、内心では(十四体って、正気!? と思わず叫びそうになったけれど、なんとか堪えた。
「……ふぅ」
一つ息を整えて、角乃はナイトの隣に並んだ。