ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
「十四体…か。多いわね」
ゴジュウユニコーンのバイザー越しに、通りの左右から迫る怨霊の群れを見渡す。黒い煙を纏った元人間たちが、ギチギチと関節を鳴らしながら、じりじりと距離を詰めてきている。
(十四体って…正気? どう見ても多すぎるでしょうが)
内心でツッコミつつも、角乃の思考は冷静だった。探偵としての観察眼が、バイザー越しに敵の配置を瞬時に読み取っていく。
左に六体。右に八体。右の方が数が多いが、個体ごとの間合いはバラバラ。統率はない。暴走しているだけだ。
「…なら、一発で崩せる」
角乃はユニコーンドリル50を構えた。ユニコーンの角を模したドリル型の専用武器が、低い唸り声を上げる。レバーを引くと、先端のドリルが回転を始めた。
ウィイイイイン――。
金属の摩擦音が、石畳に反響する。
「角乃さん、右側を。私が左を抑えます」
ナイトの声が響いた。振り向けば、漆黒の装甲を纏った仮面ライダーが、すでにダークバイザーを抜き放ち、ウイングランサーを構えていた。
「了解。右から突っ込むわ」
「無茶はしないでくださいね」
「…それはこっちの台詞よ」
角乃は口角を少しだけ上げた。ヘルメットの下で、おそらく不適な笑みが浮かんでいるはずだ。
(…って、今はそういう場合じゃないんだけど)
自分にツッコミを入れつつ、角乃は右側の怨霊の群れへと目を凝らした。八体。前方に四体、後方に四体。前方の四体が先頭を走り、後方の四体が遅れて続いている。
間合いが空いている。なら、前方を一気に貫けば、後方の追いつく前に数を減らせる。
(…一点突破。探偵の戦い方は、やっぱりこれね)
「行くわよ!」
角乃は地面を蹴った。ユニコーンドリル50を正面に構え、怨霊の群れへと突進する。
「グォオオオッ!」
先頭の怨霊が咆哮を上げ、巨大な爪を振り下ろしてくる。けれど角乃は、その軌道を既に読んでいた。
(右へ、逸らす)
体をわずかに右へずらす。爪が空を切り、角乃の耳元で風が鳴った。
(今!)
ユニコーンドリル50のレバーを引く。ドリルが高速回転を始め、鋭い金属音が響く。
「おらっ!」
ドリルを怨霊の胸元に叩き込んだ。
ガガガガガッ!
回転するドリルが怨霊の黒い外殻を削り取り、火花を散らす。怨霊が悲鳴を上げ、後方へ弾き飛ばされる。
「一体!」
角乃は叫びながら、間を置かず次の怨霊へと踏み込んだ。二体目の怨霊が、幅広の腕を横に薙いでくる。
(遅い)
角乃はドリルを下から上へと振り上げた。回転するドリルが怨霊の腕を弾き上げ、その勢いのまま胸元を貫く。
ガギンッ!
二体目の怨霊が、石畳の上に倒れ込む。
「二体!」
さらに走る。三体目。四体目。ドリルを突き出し、回転する刃で怨霊の装甲を削り取りながら、角乃は怨霊の群れを突っ切っていく。
(…うわ、ちょっとドリルが重くなってきたわね)
ドリルの回転が少しずつ鈍くなっている。怨霊の黒い外殻は、思ったよりも硬い。けれど、止まるわけにはいかない。
「五体目!」
六体目の怨霊に突進し、ドリルを叩き込む。怨霊が叫び声を上げながら後方へ吹き飛ぶ。
角乃は息を整えながら、残りの怨霊を確認した。前方に二体。後方に二体。前方の二体が、角乃の突進に反応して向かってくる。
「…残り四体。なんとかなるわ」
一方、ナイトは左側の怨霊六体を相手にしていた。
「すいません…少し、やります」
ナイトの口調は、変身後も早希本人のものだった。少し申し訳なさそうな声が、マスク越しに漏れる。
『SWORDVENT』
ダークバイザーのカード装填部に、アドベントカードを差し込む。音声と共に、ナイトの右手にウイングランサーが召喚された。
ダークウイングの尾を模した大型武器。槍と剣の性質を併せ持つ長い刃が、黒い光を帯びて輝く。
「…行きます」
ナイトは走り出した。怨霊の群れに向かって、真っ直ぐに。
「グォッ!」
先頭の怨霊が爪を振り上げる。けれど、ナイトはその動きに合わせて身体を沈めた。爪が頭上を通り過ぎる。
(…今)
ウイングランサーを横に薙いだ。
ギンッ!
長い刃が怨霊の胴を横薙ぎにする。怨霊が体をくの字に折り、後方へよろめく。
「一体…」
ナイトは小さく呟き、次の怨霊へと目を向けた。
二体目の怨霊が、横から飛びかかってくる。ナイトはウイングランサーの柄を返し、刃を縦に構えた。
二体目の怨霊が横から飛びかかってくる。ナイトはウイングランサーの柄を返し刃を縦に構えた。
「行きます」
ナイトのウイングランサーが弧を描き怨霊の胴を切り裂く。黒い煙が噴き出し怨霊が悲鳴を上げる。
「二体目…」
だが次の瞬間、左右から三体の怨霊が同時に迫ってきた。
「くっ…!」
ウイングランサーで一体を弾き返すが残り二体の爪がナイトの肩を掠める。装甲に火花が散った。
「おい、大丈夫か!」
角乃の声が右側から響く。彼女はユニコーンドリル50で怨霊を貫きながらこちらを一瞥した。
「大丈夫です! ちょっと数が多いので…」
ナイトは息を整えながらアドベントデッキに新しいカードを差し込んだ。
「これなら、なんとかなります」
『TRICK VENT』
電子音声が響き渡る。ナイトの周囲に黒い霧が渦巻き次の瞬間、その姿が霞んだ。
「えっ?」
角乃が目を見開いた。ナイトの姿が、二重三重に揺らぎ…そして。
「お、増えた…?」
目の前にはナイトが八人いた。全く同じ姿の漆黒の戦士が、八体同時に動き出す。
「すいません、少し派手になります」
八人のナイトが同時にそう言った。声が重なり、不気味なほど美しいハーモニーを奏でる。
「なんかすごいけど…探偵としては納得できないんだけど」
角乃は思わずツッコミを入れた。けれど、口元は少しだけ笑っていた。
「行きます!」
八人のナイトが同時に駆け出した。ウイングランサーを構え怨霊の群れへと突っ込んでいく。
「グォオッ!」
怨霊たちが混乱する。八方向から同時に迫るナイトたちに、どれを攻撃していいか分からないのだ。
「こっちだ!」
一体のナイトが右側の怨霊に向かってウイングランサーを突き出す。
「いや、こっち!」
別のナイトが左側の怨霊に横薙ぎを放つ。
「すいません、ちょっとどいてください」
さらに別のナイトが背後の怨霊を柄で突き飛ばす。
「あ、危ない!」
最後のナイトが中央の怨霊を蹴り上げる。
怨霊たちは混乱し互いにぶつかり合い倒れ込んでいく。八人のナイトはまるで踊るように戦い怨霊の群れを翻弄していた。
「…すごいわね」
角乃は呆然とその光景を見つめていた。ユニコーンドリル50を握る手が思わず止まる。
(あの子、本当にただの占い師なの?)
疑問が胸の奥で膨らむ。けれど今はそれを追求している暇はない。右側の怨霊がまだ二体残っている。
「…私も負けていられないわね」
角乃は改めて前を向いた。ユニコーンドリル50のレバーを引きドリルを回転させる。
「ハイクラス名探偵の出番よ!」
角乃は右側の残りの怨霊に向かって突進した。八人のナイトが左側を制圧する間に右側を片付ける。二人の連携は、言葉を交わさなくても噛み合っていた。
「行くわよ!」
角乃のドリルが怨霊の胸元を貫き黒い煙を噴き出させる。
「あと一体!」
最後の怨霊に向かってユニコーンドリル50を振り上げる。その時、背後からナイトの声が響いた。
「角乃さん、下がって!」
振り向くと八人のナイトのうちの一体がこちらに駆け寄ってくる。その背後では残りの七人が最後の怨霊を追い詰めていた。
「え、ちょっと待って…」
角乃が言い終える前にナイトがその前に立ちはだかった。
「ここからは、私が」
ナイトのウイングランサーが輝きを増す。
『SWORDVENT』
再び音声が響きナイトの手にダークバイザーが現れる。二刀流だ。
「終わらせます」
ナイトは二本の刃を構え最後の怨霊に向かって駆け出した。
角乃はただ見守ることしかできなかった。八人のナイトが同時に跳躍し二本の刃が怨霊の体を交差するように切り裂く。
「グァアアッ!」
怨霊の悲鳴が響き渡り黒い煙が霧散する。その後には静寂だけが残った。
「…終わりました」
ナイトの声が響き八つの影が一つに収束する。元のナイトが静かに立ち尽くしていた。
「すごい…」
角乃は小さく呟いた。ヘルメットの下で、驚きと共に何か別の感情が芽生えているのを感じた。
(あの子、何者なの…)
疑問は深まるばかりだった。けれど、その答えを求めるにはまだ早い。角乃はユニコーンドリル50を下ろし深く息を吐いた。
「さてと。怨霊は片付いたけど…」
角乃は周囲を見渡した。灰色の空、静まり返った通りの奥に何かが潛んでいる気配を感じる。
怨霊は、その影が一つの巨大な塊になる。
「……来るわね」
角乃はバイザー越しに、通りの奥に蠢く巨大な影を見据えた。怨霊たちの残骸が一つに溶け合い、まるで泥沼から這い上がる何かのように、不定形の塊を形成し始めている。
(さっきの十四体とは訳が違う。あれは……“何か”が fuse してる)
角乃の背筋に、冷たいものが走った。ナイトが横に並ぶ。ウイングランサーを構えたまま、漆黒のバイザーが同じ方向を向いている。
「角乃さん。あれは、ネロ派が仕掛けた大怨霊です」
早希の声が、マスク越しに低く響く。
「大怨霊……?」
「怨霊同士が融合したものです。通常の手段では沈められません」
「……なら、通常じゃない手段を使うまでよ」
角乃は言った。けれど、内心では(通常じゃない手段って何よ。ユニコーンドリル50もさっきのでだいぶん消耗してるし……)と、頭を抱えたくなっていた。
その時――ポケットの中で、何かが震えた。
「え?」
角乃は reflexively ポケットに手を入れた。指先に触れたのは、テガソードではなかった。もっと小さく、冷たく、そしてどこか懐かしい感触の――
「ライダーリング……?」
角乃はそれを取り出した。
指輪型のアイテム。表面には、仮面ライダーの顔のような意匠が刻まれている。白と銀の配色。そして、縁には細かな装飾が施されていた。
(これは......ファム?)
角乃の脳裏に、ある人物の顔が浮かんだ。百神陸王。あの人に、このライダーリングを預けられたのはいつだったか。
『角乃、これ預かっといて。いざって時に使うから』
あの時の陸王の笑顔は、いつもの計算されたアイドルスマイルじゃなかった。もっと真剣で、けれどどこか悪戯っぽい、本当の笑顔だった。
(いざって時って......今のことか、陸王)
角乃は苦笑した。あのアイドル、こういう時のために先読みしていたのか。参ったもんだ。
「角乃さん、それは......」
早希が角乃の手元を見て、息を呑んだ。
「ライダーリング......それも、仮面ライダーファムの......」
「知ってるの?」
「伝説の剣士......天空の風を操る、仮面ライダー......」
早希の声が、かすかに震えていた。まるで、何か恐ろしいものと、同時に美しいものを見た時のような。
「へえ。名前は知らないけど、陸王が『使える』って言ったリングよ。信じるしかないわね」
角乃はテガソードを構えた。そして、ライダーリングをテガソードの装填部にセットする。
カチャリ。
金属が噛み合う音。けれど、いつものゴジュウユニコーンの時とは違う。テガソードが、まるで別の周波数の波に共鳴するように、かすかに振動した。
『ライダーリング!』
電子音声が響く。いつもの『クラップユアハンズ!』じゃない。も鋭く、まるで風切り音のような。
角乃はテガソードのグリップを握りしめた。
「エンゲージ!」
グリップのボタンを押す。
その瞬間――風が、舞った。
いや、風と呼ぶには強すぎた。突風。嵐のような気流が、角乃の全身を包み込む。
(うわっ......!)
変身の光が、テガソードから溢れ出す。けれど、いつもの黒とマゼンタの光じゃなかった。白と銀。そして、鋭い風の刃のような光が、角乃の全身を貫いていく。
『仮面ライダーファム!』
宣言と共に、変身が始まった。
まず、足元から。風が渦を巻き、それが足首を包み込んでいく。銀色のブーツが形成される。続いて、脚部。風が駆け上がり、白と銀の装甲が脚を覆っていく。
(......! すごい......風が、肌に直接触れてるみたい......!)
変身の感覚が、今までとはまるで違っていた。ゴジュウユニコーンの時は、重厚な装甲が全身を守る感覚だった。けれど、今は違う。風そのものが、体の一部になったような。軽くて、鋭くて、自由な感覚。
腰部に、風の渦が巻いて装備が形成される。上半身に、白銀の装甲が重なる。背中に、マントのようなものが広がる――いや、マントじゃない。ウイングスラッシャー。風の翼。
そして最後に、頭部に。銀色のヘルメットが被さる。複眼は淡い緑。そして、頭頂部には――
「......はぁ」
変身が完了した。
角乃は......いや、仮面ライダーファムは、バイザー越しに前をんだ。
風が、止まない。
ヘルメットの周囲に、絶え間ない気流が渦巻いている。まるで、大気そのものが角乃の味方になったかのように。
「......すごい、わねこれ」
角乃は思わず呟いた。体が、軽い。いや、軽すぎる。ゴジュウユニコーンの厚い装甲とは正反対の、風のような軽さ。
(陸王......あんた、これをずっと持ってたの?)
胸の奥で、陸王の笑顔が浮かぶ。あの時の「いざって時」が、今だったことに、少し復雑な感情が湧いた。
「角乃さん......その力......」
早希が、隣で息を呑んでいた。
「仲間から借りたの。それにしても、なんというか」
角乃は笑った。ヘルメットの下で、きっと不適な笑みが浮かんでいる。
「お揃いね」