ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
怨霊たちが融合した巨体は、まるでビルをそのまま動かしたような質量感だ。黒い煙が幾重にも渦巻き、その表面には無数の顔が浮かんでは消えている。苦悶の顔。絶望の顔。怒りの顔。それらが一つの塊になって、こちらを向いている。
「…でかいわね」
角乃は思わず呟いた。バイザー越しでもわかる。あれは、ユニコーンドリル50で正面から貫けるような相手じゃない。
「角乃さん。あの大怨霊は、 合体した怨霊の数だけ核を持っています。一つずつ沈めるしかありません」
早希が隣で言った。ナイトの声は冷静だ。けれど、その声の奥にかすかな緊張が滲んでいる。
「一つずつ、か。数はどれくらい?」
「…少なくとも二十以上」
「は?」
角乃は思わず聞き返した。
「二十って…さっきの十四体が fusion したってこと?」
「おそらく。それに、近くにいた霊たちも巻き込んでいるはずです」
角乃は絶句した。二十以上の核。それを一つずつ沈める。正気じゃない。
(陸王…あんた、もっと早くこれ貸してくれても良かったんじゃない?)
胸の奥で文句を垂れつつも、角乃の思考は既に戦場を整理し始めていた。
大怨霊の正面突進は、質量で押し潰される。側面からの攻撃は、煙の触手で叩き落とされる。飛び道具は…ない。けれど、煙が弾丸のように飛んでくる可能性はある。
なら、必要なのは。
「撹乱、ね」
角乃はファムのアドベントデッキに手をかけた。
『GUARD VENT』
電子音声が響く。次の瞬間、角乃の左手に白い光が集束した。
「来い!」
光が弾ける。その瞬間――
「「「「っ!?」」」」
大怨霊が、初めて動揺した。
目の前に広がったのは、盾だった。
白鳥の翼を模した、銀白色の大型シールド。ブランウイングの背中と翼を一体化させたような優美な形状。その表面には、淡い光の羽が絶え間なく浮かび上がっている。
けれど、盾が出現しただけではない。
「いっけぇぇぇ!」
角乃が盾を前方に掲げた瞬間、盾の表面から大量の白い羽根が噴き出した。
雪崩のような羽根。
吹雪のような羽根。
まるで空そのものが降り注いだかのような、圧倒的な量の白い羽根が、通りの全域を覆い尽くしていく。
「グォ…オオ…!?」
大怨霊が咆哮を上げた。けれど、その声は羽根の嵐にかき消される。白い羽根が、黒い煙を切り裂き、怨霊の視界を奪っていく。
「見えないでしょう? ならこっちのもんだわ!」
角乃は盾を構えたまま、白い羽根の幕の中を駆け出した。
(すごい…羽根一枚一枚が、風の刃みたいに切れている…!)
白い羽根はただの装飾じゃなかった。一枚一枚が鋭い風を纏い、怨霊の黒い外殻を削り取っていく。見えない刃。美しく、けれど致死的な羽根の雨。
「角乃さん、右から!」
「分かってる!」
角乃は右へステップを踏んだ。大怨霊の触手が、羽根の幕を突き破って飛び出してくる。けれど、角乃は既にその軌道を読んでいた。
(探偵の目は、万能よ)
盾の縁で触手を弾き、そのまま回り込む。大怨霊の側面に回り込んだ角乃の視界に、黒い塊の中に光るものが見えた。
「…核、見えた」
角乃は盾を構え直した。白い羽根が、さらに激しく舞い始める。
角乃は盾を構え直した。白い羽根がさらに激しく舞い始める。
「見えたわ。核…一つ、二つ…全部で二十二個」
角乃の視線が大怨霊の内部を貫く。白い羽根の嵐の中で、黒い煙の奥に光る小さな点が見えた。それが核だ。二十個以上の怨霊の“核”が、融合して一つの塊になっている。
「二十二個…多すぎる」
早希が呟いた。ナイトの声には焦りが滲んでいる。
「でも、やるしかないわ」
角乃は言った。その声には、迷いはなかった。探偵としての冷静さと、戦士としての覚悟が同居していた。
「早希さん、一つ提案があるんだけど」
「何ですか?」
「私のブランウイングと、あなたのダークウイング。二羽の翼を同時に使えば、一気に決められるかもしれない」
角乃は早希の顔を見た。バイザー越しでも分かる。早希も同じことを考えていた。
「同時に…」
「ええ。あなたが上から、私が下から。二羽の翼で挟み撃ちにする」
角乃はブランシールドを構え直した。その表面に、白い羽根がさらに集束していく。まるで、何かの合図を待つかのように。
「やりましょう」
早希が頷いた。ナイトの声は凛としていた。
『FINAL VENT』
電子音声が二重に響き渡る。
「行くわよ!」
角乃はブランシールドを掲げた。盾の表面から、白い光が溢れ出す。そして、角乃の背後で何かが羽ばたいた。
白鳥の翼。ブランウイング。
銀白色の巨大な翼が、角乃の背中に展開する。その翼が大きく羽ばたくと、通り全体に白い暴風が巻き起こった。
「グォオオッ!」
大怨霊が咆哮を上げる。けれど、その声は風にかき消された。白鳥の暴風が、黒い煙を吹き飛ばし、怨霊の巨体を後方へ押しやる。
「まだ!」
角乃はさらにブランシールドを振るった。白い暴風がさらに激しくなり、大怨霊を通りを埋め尽くす煙の壁まで吹き飛ばす。
(今!)
角乃の視線が、大怨霊の内部を貫く。吹き飛ばされた巨体の内部で、二十個以上の核が露出している。
「早希さん!」
「分かっています!」
上空から声が響いた。見上げると、漆黒の影が空高く舞い上がっていた。ナイトがウイングランサーを構え、背中に結合したダークウイングをウイングウォールに変化させていた。
「行きます!」
ナイトが叫ぶ。ダークウイングが翼を広げ、黒い壁のようなウイングウォールが形成される。ナイトはウイングランサーを軸に、その壁で全身を包み込んだ。
黒い錐。
空高く舞い上がったナイトが、黒い錐のような姿に変貌する。ウイングランサーが先端となり、ウイングウォールが外殻となる。それは、まるで宇宙から降ってくる黒い流星だった。
「ウイングスラッシャー!」
角乃は叫んだ。ブランシールドが変形し、ブランウイングの翼を模した大型の剣――ウイングスラッシャーが角乃の手に現れる。
(今しかない!)
角乃は地面を蹴った。白い暴風を纏い、吹き飛ばされた大怨霊に向かって突進する。
同時に、上空からナイトの黒い錐が降下してくる。
「はああああっ!」
角乃のウイングスラッシャーが、大怨霊の下半身を両断した。白い光が閃き、黒い煙が斬り裂かれる。
「グァアアアッ!」
大怨霊が絶叫する。その瞬間、上空から黒い錐が突き刺さった。
ズドォォォォン!
轟音が響き渡る。ナイトのドリル突撃が、大怨霊の上半身を貫通し、そのまま地面へと突き刺さる。
「終わり!」
角乃は叫んだ。ウイングスラッシャーを逆手に持ち、大怨霊の核――二十個以上の光る点を一斉に斬り裂く。
白と黒の光が交錯する。
大怨霊の体が、内側から爆発した。
ドォォォォォォォン!
巨大な爆炎が石畳を焼き尽くす。白い羽根と黒い羽根が混ざり合い、空高く舞い上がる。そして、それらはゆっくりと降り注ぎ、通りの上に雪のように積もっていった。
「…終わった?」
角乃は息を切らしながら立ち尽くした。ウイングスラッシャーを下ろし、周囲を見渡す。どこにも怨霊の姿はない。ただ、白と黒の羽根が舞い、静寂だけが残っていた。
「角乃さん、大丈夫ですか」
背後から声がした。振り向けば、変身を解いた早希が立っていた。フードの奥から覗く瞳が、かすかに潤んでいる。
「ええ。…あんたのおかげね」
角乃は微笑んだ。そして、ふと自分の手元を見た。ウイングスラッシャーは消え、代わりにテガソードとファムのライダーリングが握られていた。
「…すごいわね。本当に、伝説の剣士の力」
角乃は呟いた。そして、早希に向き直る。
「ねえ、早希さん。改めて聞くけど…あなたは、何者なの?」
角乃の問いに、早希は静かにフードを脱いだ。現れたのは、透き通るような肌と、どこか哀しげな瞳を持つ少女の顔だった。
「私は…ナイトの力を持つ者です。そして、この街で占いをしている、ただの罪人」
「罪人、ね」
角乃は頷いた。その言葉に、責めるような響きはない。ただ、事実を受け止めるような静かな声だった。
「…詳しい話、聞かせてもらえる?」
「ええ。ただし…その前に、一つお願いがあります」
早希は言った。その表情は真剣だった。
「あなたの仲間を見つけるのを手伝わせてください。私の罪を、少しでも償うために」
角乃は一瞬、驚いたような顔をした。そして、口元を緩めた。
「…そうね。ハイクラス名探偵の助手、ってことかしら」
「助手、ですか?」
「そう。名探偵には助手が必要でしょ? あんたの占い、役に立ちそうだし」
早希は目を見開いた。そして、ふっと微笑んだ。
「はい。お任せください、名探偵さん」
二人の影が、白と黒の羽根の雪の中に並んだ。
空はまだ灰色だった。けれど、その灰色の中に、かすかに青が差し始めていた。