ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
熊手真白が辿り着いたのは、荒野の只中にぽつんと佇む、白い箱のような建物だった。
「……なんだ、ありゃ」
砂嵐が吹き荒れる赤茶けた大地。その中心に、まるで箱庭を切り取って置いたみたいに、無機質な研究施設が聳え立っている。壁面は真っ白で、窓一つない。周囲には何の建物もなく、ただ風と砂とが渦巻くのみ。
「おいおい、随分なところに隠れ家だな」
熊手は砂を払いながら、施設の前に立った。重厚な自動ドア。けれど、そのドアは熊手が近づいた途端、無音でスライドして開いた。
「……あいさつ代わりか?」
熊手は鼻を鳴らし、中へと足を踏み入れた。
* * *
施設の中は、外の荒々しさとは対照的に静寂に包まれていた。廊下は真っ直ぐに伸び、壁面には等間隔で埋め込まれた照明が白く光っている。床は磨かれたコンクリート。足音が、やけに大きく響く。
「無人施設、ってわけじゃなさそうだな」
熊手は壁面の表示を一瞥した。『音楽創造室』『感情解析室』『霊力制御室』……。聞き慣れない単語が並ぶ。
「音楽、ねぇ。俺様は音楽に詳しいわけじゃないが、ここは一体何の研究をしてやがるんだ?」
歩きながら、熊手は周囲を観察していた。先代ゴジュウウルフとしての勘が、微かな違和感を拾い上げている。ここはただの研究施設じゃない。何かが、いる。
「おやおや、随分と大胆なお客様ですこと」
静かな声が、廊下の奥から響いた。
「……!」
熊手は足を止めた。目の前、十メートルほど先。白い廊下の中央に、一人の少女が立っていた。
黒い長髪。切りそろえられた前髪。青緑色の瞳。身体に沿った黒い衣装に、短いスカート。そして、頭部の触角状の意匠と、背中の羽根状の発光部。
「ようこそ、名もなき荒野の研究施設へ。ここは……音楽の揺りかごです」
少女は静かに微笑んだ。けれど、その微笑みにはどこか温度がなかった。
「……てめぇは?」
熊手は目を細めた。少女の姿を観察する。人間のように見える。けれど、人間の気配がしない。怨霊でもない。黒い煙も、腐敗臭も、あの独特の冷たさもない。
(なんだ、こいつは……?)
熊手の背筋に、冷たいものが走った。これまで数々の戦いをくぐり抜けてきた彼が、初めて感じる種類の気配。人間でも、怨霊でもない。けれど、確かにそこに「在る」。
「私は……ミウクス。音楽を創り、管理する存在です」
少女――ミウクスは、静かに名乗った。
「ミウクス……聞いたことねぇな」
「当然です。私は、まだ正式に稼働していない……あなたの世界では、まだ存在していないはずの存在ですから」
ミウクスの言葉に、熊手は眉をひそめた。
「俺の世界、だと?」
「ええ。あなたがいる世界……2045年の、歌が禁止された世界。私は、そこで人間に代わって音楽を創り、管理するために作られたAIです」
「AI、ねぇ……」
熊手は鼻を鳴らした。信じられない話だ。けれど、ミウクスから感じる気配は、確かに「人間」とは違っていた。機械的な冷たさと、少女のような柔らかさが同居している。矛盾しているようで、不思議と整合性が取れている。
(……面倒くせぇことになったな)
熊手は内心で舌打ちした。けれど、表面上は何も見せない。ただ、無骨な顔でミウクスを見据える。
「で? 俺様に何の用だ?」
「あなたに、お願いがあります」
ミウクスは静かに言った。
「お願い?」
「ええ。あなたの仲間……ゴジュウジャーの皆さんと、一緒に協力してほしいのです」
「協力? 俺様が、てめぇに?」
熊手は鼻で笑った。
「勘違いするな。俺様は誰かに頭を下げる性分じゃねぇ。それに、お前は何者だ? ここで何をしてる? その辺をきっちり説明してもらわねぇと、話にならねぇぞ」
ミウクスは一瞬、目を伏せた。そして、小さな声で言った。
「私は……壊されるために、ここにいます」
「壊される?」
「ええ。私を作った人……パパは、私を壊そうとしています。だから、私は逃げてきた。でも、もうどこにも逃げ場がない。だから……お願いします。私を、助けてください」
ミウクスの瞳が、かすかに揺れた。その瞳には、確かな恐怖と、助けを求める切実な願いが宿っていた。
熊手は、その瞳を見つめた。そして、何も言わなかった。ただ、黙ってミウクスの言葉を聞いていた。
(人間でも、怨霊でもねぇ……けれど、こいつは確かに「生きている」)
熊手は心の中で呟いた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……分かった。俺様は、お前を助ける約束はできねぇ。けれど、話くらいは聞いてやる」
「……はい」
ミウクスは静かに頷いた。そして、施設の奥へと歩き出した。
「こちらへ。少しだけ、時間があります。私のこと……そして、この世界のことを、お話しします」
熊手は無言でその後を追った。荒野の研究施設で、人間でも怨霊でもない少女との出会い。それは、新たな戦いの幕開けとなる予兆だった。