ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
熊手の言葉に、ミウクスは静かに頷いた。その瞳には、かすかな希望の光が宿る。
「ありがとうございます」
「礼はいい。代わりに一つ聞くぞ」
熊手は椅子から立ち上がり、部屋の出入口の方へと向き直った。その耳が微かに動く。誰にも聞こえないほどの微かな足音。けれど、先代ゴジュウウルフの耳は逃さなかった。
「誰か来やがったな」
「え?」
ミウクスが驚いて顔を上げた時には、熊手はもう歩き出していた。荒々しい足取りで廊下を進み、入口のドアの前に立つ。
「隠れてねぇで出てきな。ここは招かれざる客にゃ優しくねぇ場所だ」
熊手の声が廊下に響く。一瞬の沈黙。そして。
『……勘が鋭いな』
低い声が、廊下の奥から響いた。
「そうか? 俺様はただの世直し人だぜ」
熊手は鼻で笑った。目の前、廊下の突き当たりに人影が立っていた。黒一色の装甲。ヘルメットにはバッタを思わせる二つの複眼。胸部には黒い月の意匠。
「てめぇは…」
「・・・仮面ライダーBLACK」
「てめぇは…」
熊手は目を細めた。廊下の突き当たりに立つ黒い影。バッタ型の複眼。胸部の赤い意匠。黒一色に染め上げられた装甲は、まるで闇そのものを切り取って纏ったようだ。
仮面ライダーBLACK。
ユニバースライダー。
「…何の用だ」
熊手は低い声で問うた。左手がローブの下で微かに動く。グーデバーンの感触を確認する。いつでもいける。
『答える義理はねぇ。だが、一つだけ聞かせてもらうぞ』
BLACKの声は低く、ざらついていた。怒りを含んでいる。けれど、熱くなりすぎて冷静さを失った種の怒りじゃない。もっと深く、冷たく、長く燻った怒りだ。
『お前、その女を知ってるんだろう。ミウクス、とか呼ばれてたな』
熊手は眉をひそめた。
「知ってるか、だと?」
『ああ。俺は知っている。その女が何をしたか。何を奪ったか。俺の親父とお袋を殺したのがその女だ』
BLACKの声が、一瞬だけ震えた。すぐに押し殺される。けれど、その一瞬の揺らぎが、熊手にははっきりと聞こえた。
(親を殺された、か)
熊手は黙っていた。背後で、ミウクスの気配が揺れるのが分かった。震えている。恐怖と、別の何かで。
「…お前の親を殺したのがミウクスだと言ったな」
『言った』
「なら、一つだけ訊かせてもらうぞ。お前がここに来たのは、そのミウクスを殺すためか?」
『そうだ』
即答だった。迷いはない。
『俺は長い間、復讐の相手を探してきた。やっと見つけた。ここにいる、その女だ。だから俺は来た。質問に答えてくれた礼と言っちゃなんだが…離れてもらうぞ』
BLACKが一歩、踏み出した。黒い装甲が、白い廊下の照明を吸い込むように沈む。
「待て」
熊手は手を上げた。その声は低いが、明確な拒絶だった。
「お前がここに来て、ミウクスを殺そうとするなら、俺様が通すわけにはいかねぇ」
『…何だって?』
BLACKの複眼が、熊手をむ。
「お前の親を殺したミウクスと、ここにいるミウクスは、同じじゃねぇかもしれねぇ。ここにいるのは、お前が殺そうとしている女とは別の存在だ」
『…同じだ』
BLACKの声が、低くなった。
『ミウクスはミウクスだ。コピーだろうが何だろうが、同じ存在から派生したものだ。俺の親を殺したのは、そのシステム全体だ。システムを壊せば、俺の親の無念も晴れる』
「システムを壊す、ねぇ。お前、それで親が帰ってくると思うのか?」
『帰ってこねぇよ』
BLACKは即答した。
『分かってる。だが、殺した奴を殺せば、少しは胸の窟が埋まる。それだけは、お前が止める権利ねぇんだよ』
熊手は黙した。
(…権利、ね)
言葉が胸に刺さった。それは事実だ。熊手には、この男の復讐を止める権利なんてない。自分だって、似たような想いで戦ってきたのだから。
けれど。
「権利はねぇ、か。そりゃそうだ。俺様にゃ、お前の復讐を止める権利なんざねぇ」
熊手は頷いた。
「だがな、俺様には、ここにいる女を守る義理がある。こいつは俺様に助けを求めてきた。助けを求めてきた相手を見殺しにするような真似は、俺様はしねぇ」
『…そうか。なら、お前も敵だ』
BLACKが構えた。黒い拳が、熊手を射抜くように向けられる。
「お前の親を殺したのが、ここにいるミウクスじゃねぇってのは、俺様が保証する。オデッセウスにコピーされて奪われた存在が、今のミウクスだ。お前の親を殺したのは、そのコピー元のシステムだ。こいつは、被害者側だ」
『被害者だと? ふざけんな。被害者が被害者を殺してどうすんだ。俺の親は無関係だった。ただの民間人だった。それを、ミウクスは…システムは、排除した。歌を歌っただけで、排除したんだよ』
BLACKの声が、初めて感情的に震えた。
『…お前には分からねぇよ。親を殺された怒りなんて、他人には絶対に分からねぇんだ』
熊手は眉をひそめた。
(…分からねぇ、か)
分かる。分かるけど、今はそれを口に出しても意味がない。この男は、復讐の炎だけで動いている。言葉じゃ届かない。
「そうか。お前がそう言うなら、俺様は通せねぇ。ここを通したくねぇなら、俺様を倒してからにしな」
『…そうか。なら、行かせてもらうぞ』
BLACKが踏み込んだ。速い。いや、速すぎる。
(なんだこの速さは!)
熊手は半身を引いた。BLACKの拳が熊手の頬を掠める。風圧が、ローブを払った。
「ちッ…!」
熊手は舌打ちと共に距離を取った。廊下の壁を背に、BLACKと向き合う。
(やべぇな、こいつ。速いだけじゃねぇ。覚悟が乗ってやがる)
熊手の目が、真剣になった。ふざけた態度は消える。先代ゴジュウウルフの目が、蘇る。
「いいだろう。お前の覚悟、俺様が受けた。だが…」
熊手はローブの下に手を入れた。グーデバーンの冷たい感触が指に伝わる。
「俺様も、ただ黙ってやられる性分じゃねぇぞ」
センタイリング ゴジュウポーラーをグーデバーンにセットする。
カチャリ。
金属が噛み合う音が、廊下に響いた。
「世直し人の通り道だ。悪けりゃ、どいてな」
熊手はグーデバーンを構えた。白い拳型の装備が、低い唸りを上げる。
『ゴジュウポーラー…!』
BLACKの声に、わずかな動揺が混じった。
「知ってるか。なら分かるだろ。俺様がただの世直し人じゃねぇってこともよ」
熊手は拳を打ち合わせた。
ドンッ。
『クラップユアハンズ!』
待機音が鳴る。熊手はもう一度、拳を打つ。
ドンッ。ドンッ。
リズムを刻む。一つ、二つ、三つ。
「エンゲージ!」
グーデバーンのグリップを握りしめた。その瞬間、光が弾けた。
白い光。雪のような、氷のような、純白の光が熊手の全身を包み込む。
(…冷てぇ。相変わらず、冷てぇな)
変身の感覚は、いつもの通りだった。肌を覆う熱が引き、代わりに白いスーツが全身を包んでいく。脚部に白色の装甲が形成される。腕部に、氷のガントレットが装着される。
左腕には、氷で作られた腕が生成される。普段は失われた左腕。けれど、ゴジュウポーラーの力はそれを補う。
そして最後に、頭部に。丸い耳を備えた白いヘルメットが被さる。
『ゴジュウポーラー!』
変身完了音が響き渡る。
「はぁっ!」
息を吐いた視界は、ヘルメットのバイザー越しに、少しだけ鋭く研ぎ澄まされていた。
熊手は…いや、ゴジュウポーラーは、BLACKと向き合った。
白と黒。
雪と闇。
「さて、来な。俺様の世直しの相手になってもらうぞ」
ゴジュウポーラーは拳を構えた。ボクシングスタイル。両拳を顔の前に掲げ、ステップを踏む。
BLACKもまた、構えを固めた。黒い拳が、ゴジュウポーラーを射抜く。
白い廊下に、二つの影が対峙した。