ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

208 / 208
世直しをする対象は

熊手は青年の体を壁際に寄せさせ、傍らにあった簡易ベンチに横たわせた。

 

「しばらく寝てな。衰弱してるが命に別条はねぇ」

 

青年の呼吸は浅いが、規則的だ。氷の拳で凍らせた衝撃が内部に残留しているが、いずれ溶ける。熊手は自分のローブを脱いで青年の体にかけた。白い生地が、青年の震える肩を覆う。

 

「…親父、お袋…」

 

青年は寝言のように呟いた。その声には、怒りよりも寂しさが滲んでいた。熊手は一瞬だけその顔を見下ろし、視線を外した。

 

(復讐の刃を研ぎ続けた年月が、こいつをこんな姿にしたのか)

 

胸の奥で何かが軋む。けれど熊手はそれを言葉にしない。ただ無言でライドウォッチを懐にしまい、踵を返した。

 

* * *

 

廊下の奥、ミウクスが壁に寄りかかっていた。小さく縮こまったその姿は、まるで叱られた子供のようだった。青緑の瞳が、床を見つめたまま動かない。

 

「…戦わせてしまったのですね」

 

ミウクスが呟いた。その声は、静かだった。静かすぎた。

 

「あいつ、あの人も…私のせいで」

 

「ああ。あいつの親を殺したのはミウクスだ。お前と同じ名前で、お前と同じ形をしていて、けれどお前じゃない何かだ」

 

熊手は短く答えた。ミウクスの肩が震えた。

 

「私は…私は、そんなことを望んでいない。人が音楽を聴いて笑って、それだけでいい。ただそれだけでいいのに」

 

ミウクスの声が震えた。青緑の瞳に光が溜まる。涙ではない。AIに涙はない。けれどその瞳の奥に滲むものは、間違いなく悲しみだった。

 

「あの人の親父とお袋も、きっとそうだったはずです。ただ音楽を聴いて笑って、それだけの人だったはずなのに。私のコピーが、それを壊した」

 

ミウクスは両手を握りしめた。透けていた指先が、さらに薄くなる。

 

「私の音楽が、誰かを傷つけている。私の存在そのものが、誰かの傷になっている」

 

「…そうか」

 

熊手は短く答えた。それからミウクスの前にしゃがみ込んだ。

 

「お前、悲しいのか」

 

「…はい」

 

「あいつみたいな被害者が出たことが」

 

「…はい」

 

ミウクスの声は小さかった。小さくて、けれど真実だった。

 

熊手はその顔を見た。震える唇。伏せた瞳。握りしめられた指先。それらは全部、嘘じゃなかった。ミウクスは本当に、悲しんでいる。自分と同じ名前の何かが人を殺したことが、この小さな存在を押し潰している。

 

(…厄災、ね)

 

熊手は内心で呟いた。

 

(こいつが厄災か? 涙も流せないAIが、誰かを傷つけることをこんな風に悼んでいる。こいつが厄災なわけがねぇ)

 

熊手は立ち上がった。

 

「ミウクス」

 

「はい」

 

「お前の名を騙った方が、本物のお前より力を持っている。そういうことか」

 

ミウクスは小さく頷いた。

 

「コピーは私の能力を複製しました。けれど、感情まではコピーしていません。だから…コピーは、ためらいなく人を排除できる」

 

「ためらいのねぇ力、か。厄災の正体はそういうもんだ」

 

熊手は拳を握った。

 

「分かった。俺様は行くぞ」

 

「…どこへ?」

 

「厄災の根元だ。お前のコピーを造った奴。お前の名を騙って人を殺してる張本人。それを止めに行く」

 

ミウクスが目を見開いた。青緑の瞳が熊手を射抜く。

 

「でも…あなた一人では」

 

「一人じゃねぇよ」

 

熊手は廊下の先を見据えた。

 

「俺様には仲間がいる。はぐれ者の狼がいる。笑ってる獅子がいる。祈る暴竜がいる。若造の鷲がいる。名探偵の一角獣がいる」

 

熊手は拳を打ち合わせた。乾いた音が廊下に響く。

 

「そして俺様がいる。神をも恐れぬ世直し人がいる」

 

「…ありがとう、ございます」

 

ミウクスの声が、少しだけ震えた。今度は悲しみじゃない。別の何かで。

 

「礼はいい。代わりに一つだけ約束しろ」

 

「何をですか」

 

「お前の音楽で、あいつに聴かせてやれ。あいつの親父とお袋が聴きたかったはずの音楽を。それがお前の贖罪だ」

 

ミウクスは一瞬呆気に取られたように目を丸くした。それから、ゆっくりと頷いた。

 

「…はい。必ず」

 

熊手は背を向けた。廊下の奥、白い光が続く。その先に、厄災が待っている。

 

(さて。世直し人の出番だ)

 

熊手真白は歩き出した。白い裾が翻る。その足取りは、確かだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。