ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
吹き飛ばした霊の残滓が、白い靄になって彷霊界の道へ降っていく。
ゼッツの装甲のまま、俺は一歩踏み込んだ。まだ届く。恩人の身体を勝手に使っているあの女の喉元へ、今ならこのまま手が届く。そう思った、その時だった。
空気が切れた。
左右から、示し合わせたみたいに別の殺気が割り込んでくる。片方は細く、鋭い。首筋へ冷たい刃を這わせるような、嫌に研ぎ澄まされた気配。もう片方は真っ直ぐだった。重い剣を力任せに振り下ろしてくるような、隠す気のない圧だ。
咄嗟に身体を捻る。
次の瞬間、さっきまで俺がいた空間を、左右から二つの斬撃が走り抜けた。片方は音もなく、紙一重の位置を裂くように。もう片方は地面ごと叩き割る勢いで、彷霊界の道へ深い傷を刻む。
「っ……!」
距離を切って着地する。
霧の向こうに、二つの影が立っていた。
一人は痩せた男だった。長身で、無駄のない立ち方をしている。手にした剣は細身だ。だが軽さは感じない。むしろ、あいつ自身の静けさが、その刃を余計に重く見せていた。騒がなくても分かる。あれは斬る側の人間だ。
もう一人は、少し肩を開いて立っていた。こちらも剣だ。だが雰囲気はまるで違う。幅のある刃を握る腕に力が満ちていて、最初から正面から叩き潰す気でいるのが分かる。静かな殺気と、剥き出しの敵意。そんなふうに、二人は綺麗に分かれていた。
恩人の顔をした女が、その二人を見て、楽しそうに唇を吊り上げる。
「遅いではありませんか」
細身の男が、わずかに顎を引く。
「少し寄り道をしていた」
低い声だった。短い。言い訳めいた色はない。ただ事実だけを置くみたいに話す。
隣の男は、不機嫌そうに剣を構え直した。
「妙な連中が邪魔をしただけだ」
その声音には熱がある。今にも斬りかかってきそうな勢いを、どうにか言葉で押さえている感じだ。
恩人の顔で、あの女はくすりと笑った。
「言い訳は聞いておりませんわ、カエサル、アントニウス」
そこで、ようやく名前が耳へ残った。
カエサル。アントニウス。
どっちも聞いたことのあるような、ないような名前だ。けど、そんなことはどうでもいい。大事なのは、こいつらもまた、あの女と同じ側の厄介な連中だってことだけだ。
アントニウスが一歩前へ出る。
「クレオパトラ、下がっていろ」
言い方は荒い。だが、女を見下しているわけじゃない。守るために前へ出る、それだけを当然みたいに言っている声だった。
カエサルは、剣の切っ先をわずかに下ろしたまま、俺を見ていた。
「クレオパトラの前で騒ぎすぎだ」
それだけだ。
怒鳴るわけでもない。威圧を作るわけでもない。なのに、最初からこっちの動きを全部読んでいるみたいで、妙に気に食わない。
俺はゼッツの装甲の中で、ゆっくり息を吐いた。
「何だよ。今度は取り巻きまで出てきたのか」
アントニウスの眉がぴくりと動く。
「取り巻きだと?」
すぐ食いつく。分かりやすい。
だが、カエサルは少しも顔色を変えない。
「遠吠えだけは大きいらしいな」
「はっ」
鼻で笑ってやる。
「そっちは女の後ろから出てくるだけかよ」
その言葉に、アントニウスの剣先がわずかに上がった。切っ先が真っ直ぐ俺の喉へ向く。
「貴様……!」
「アントニウス」
カエサルが短く名を呼ぶ。
たったそれだけで、アントニウスは踏み込みかけた足を止めた。舌打ちしそうな顔をしているくせに、止まるところは止まるらしい。
楓が、俺の少し後ろで低く息を吸った。
「吠さん」
「分かってる」
言いながら、視線は前から外さない。
楓の声には警戒が混じっていた。雪庭も、さっきまでの余裕を少しだけ引っ込めている気配がある。つまり、こいつらは本当に厄介なんだろう。
雪庭が静かに言う。
「増援としては、かなりまずいね」
「知ってんのか」
「知らないわけがないさ」
いつもの軽さは残しているが、笑ってはいなかった。
「あの二人もまた、彼女に連なる大物だ」
大物、ね。
どうりで匂いが濃いはずだ。クレオパトラだけでも息苦しいってのに、そこへ同じ質のものが二つも並べば、嫌でも分かる。
クレオパトラは、恩人の顔でその様子を眺めながら、まるで劇でも見ているみたいに微笑んでいた。
「ふふ……賑やかですこと」
「笑ってる場合かよ」
睨みつけると、あの女は楽しそうに首を傾げる。
「ええ、笑いますとも。あなた方のように必死な者を見るのは嫌いではありませんもの」
「相変わらず気に入らねえな」
「それは光栄ですわ」
返しまで腹立たしい。
アントニウスが剣を深く構えた。前へ出る気配が露骨だ。対してカエサルは半身のまま、切っ先だけでこちらの逃げ道を縫っている。
「クレオパトラにこれ以上近づくな」
「断る」
即答だった。
そう返すと、アントニウスの口元がわずかに歪む。怒りだけじゃない。正面から噛みついてくる相手に、少しだけ熱が上がっている顔だった。
「なら、力づくで止める」
「やれるもんならやってみろよ」
ゼッツの手を構える。
左右にカエサルとアントニウス。奥にクレオパトラ。恩人の身体は、まだあの女の中だ。面倒は増えた。最悪なくらいに。けど、やることは変わらない。
恩人を取り返す。
そのために、目の前の邪魔は全部ぶち抜く。
カエサルが、そこで初めてほんの少しだけ目を細めた。
「なるほど」
静かな声だった。
「子供だな」
クレオパトラが笑う。
「ええ。けれど、そういう牙の剥き方は嫌いではありませんわ」
その言い方が、また腹立たしい。
俺は一歩だけ前へ出た。
「勝手に品定めしてんじゃねえ」
霧が揺れる。
彷霊界の空気が、もう一段だけ冷たくなる。
カエサルが細身の剣を持ち上げる。アントニウスが重い刃を正面へ向ける。楓が俺の横で霊力を張る。雪庭の気配が、後ろで静かに沈んでいく。