ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
騒ぎがひとまず収まったあと、少し離れた場所で、恩人はひとり立っていた。
まだ顔色は万全じゃない。けれど、倒れそうなほどでもない。さっきまであの中に、あんなものを抱え込んでいたとは思えないくらい、静かに息をしていた。
「……恩人」
呼ぶと、彼女がゆっくりこっちを向く。
「あ……」
目が少し見開かれる。
「もしかして、前に街で会った……」
「そうだよ。露店のとこで世話になった奴だ」
「やっぱり。無事だったんですね」
「そっちこそだろ」
そう返すと、恩人――芹亜は少しだけ困ったみたいに笑った。
「はい、とりあえずは」
「とりあえず、で済ませていい目に見えなかったけどな」
「……それは、そうかもしれません」
声が落ちる。けど、折れてる感じじゃない。ただ、自分の中でちゃんと飲み込もうとしてる声だった。
「来てくれたんですね」
「たまたま匂いを感じただけだ」
「でも、来てくれた」
「……まあな」
妙にまっすぐ言われると、返しに困る。
芹亜はそんなこっちを見て、少しだけ目を細めた。
「あの時も、すごく困ってる顔をしてたのに、今度はこんなところにまで来るんですね」
「好きで面倒に首突っ込んでるわけじゃねえよ」
「ふふ……でも、放っておけなかったんでしょう?」
「それもある」
そこで一度、言葉を切る。
「借り、返そうと思ったしな」
「借り?」
「飯くれただろ。あの時」
言うと、芹亜はきょとんとして、それから少しだけ柔らかく笑った。
「そんなことで、ですか?」
「そんなことじゃねえよ。あの時の俺には、でかかった」
自分で言ってて、少し照れくさい。けど、誤魔化すのも違う気がした。
「だから、返そうとは思った」
「……でも?」
「でも、まだ返せてねえ」
芹亜が瞬きをする。
「助けるつもりで来たけど、結局あんた自身が何とかした部分もあるだろ。だから、まだ借りは残ってる」
「そんなふうに考えるんですね」
「悪いかよ」
「いえ」
首を横に振って、芹亜は少しだけ視線を落とした。
「なんだか……優しい人なんですね」
「それはやめろ」
「どうしてですか?」
「調子狂う」
即答すると、今度ははっきり笑われた。
その笑い方に、さっきまでの張りつめた空気が少しだけほどける。
「でも、嬉しかったです」
「……」
「来てくれて。あの時の人が、ちゃんと私のこと覚えててくれたのも」
言葉に詰まる。
こういう真っすぐな返しは、本当に苦手だ。
「無理すんなよ」
結局、出てきたのはそれだけだった。
「一人で抱え込みそうな顔してる」
「そう見えますか?」
「見える」
「吠さんも、似たような顔してます」
「俺はいいんだよ」
「よくないですよ」
即座に返されて、思わず顔を上げる。
芹亜は少し疲れているはずなのに、その目だけは妙にまっすぐだった。
「助けてもらったのに、今度は無理しないでって言うの、変かもしれませんけど」
「変ではねえな」
「なら、よかったです」
少しだけ風が吹く。
その風に髪を揺らしながら、芹亜は小さく息を吐いた。
「私、まだちゃんと整理できてないです。でも……たぶん、逃げちゃいけないんだと思います」
「……ああ」
「だから、向き合います」
強い言い方じゃない。けど、その声にはもう、さっきまでの不安だけじゃないものが混じっていた。
俺はそれを見て、小さく息を吐く。
「なら、次はちゃんと返す」
「借り、ですか?」
「おう。今度こそな」
芹亜は少し驚いた顔をして、それからまた笑った。
「じゃあ、その時を楽しみにしてます」
「軽く言うなよ。こっちは割と本気なんだぞ」
「はい。分かってます」
その返事が妙に優しくて、また少しだけやりづらくなる。
芹亜が楓のいる方へ歩き出す。足取りはまだ少しだけ頼りない。けど、止まりそうではなかった。
俺はその背中を黙って見送る。
助けきったわけじゃない。借りもまだ返せていない。けど、それでも今は、ちゃんと前を向いて歩いていく恩人を見届けるしかなかった。
「……今度だ」
小さく呟く。
芹亜はもう振り返らなかった。けれど、その背中はちゃんと、次へ進んでいた。