ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

26 / 32
幽霊を追うライダー

 寺の門を出た瞬間、夜気の中に混じった異物が、鼻の奥へ細く引っかかった。

 

 まただ。

 

 ユニバースライダー特有の、あの妙に乾いた気配。霊の匂いとも、人の匂いとも違う。機械みたいに冷たいのに、生き物の執念だけは残っているような、嫌な匂いだった。

 

 俺は足を止めず、そのまま石段を下りる。

 

 背後で、ほんのわずかに草を踏む音がした。

 

 ――来やがったな。

 

 振り返らない。振り返れば、そいつにも気づかれる可能性がある。気配の薄い相手ならなおさらだ。だから俺は何も知らない顔で歩幅だけを少し広げ、芹亜が隠れやすそうな暗がりの方へわざと道を取った。

 

 古びた塀の切れ目。倒れた石灯籠。夜の木立が作る影。

 

 そこならまだましだ。

 

 俺が前へ出れば、匂いも気配も、あいつの方へ流さずに済む。

 

「……面倒な真似しやがって」

 

 独り言みたいに吐き捨てる。

 

 後ろの気配が一瞬だけ止まる。たぶん、芹亜は自分のことを言われたと思ったんだろう。そう思わせておけばいい。今は出てくるな。

 

 寺から少し離れた、人気のない路地の手前で、ようやくそいつは姿を見せた。

 

 街灯の届かない半端な闇の中に、小柄な影が立っている。淡い髪色。視線はこっちを見ているはずなのに、目が合っている感じがしない。手元にはゲーム機みたいな端末があって、親指が無感情にそれをなぞっていた。

 

 人を見る目じゃない。

 

 もっと冷たい。画面の中のデータを照合する時みたいな目だ。

 

「……遠野吠」

 

 先に名前を呼ばれて、舌打ちしそうになる。

 

「調べて来たのかよ」

 

「最低限の確認だけ」

 

 声まで薄い。感情がまるで乗っていないくせに、こっちを測る精度だけはやけに高そうだった。

 

 少女――ミオは、端末から視線を上げずに続ける。

 

「でも、本命はそっちじゃない」

 

 その一言で、背中の奥が冷えた。

 

 こいつ、もう嗅いでやがる。

 

 俺は一歩だけ横へずれて、背後の暗がりを完全に塞ぐ位置へ立った。

 

「何の話だ」

 

「相葉芹亜」

 

 即答だった。

 

「記録上は死亡扱い。世間的にも、行政上も、すでに消えてる」

 

 夜の空気が、少しだけ張る。

 

 後ろの気配が、息を呑んだのが分かった。

 

「でも、さっきから微妙に情報が噛み合わない。匂いも、熱源も、気配も、一人分じゃない」

 

 ミオがそこで初めて顔を上げる。

 

 人と目を合わせないっていうのは、こういうのを言うのかもしれない。視線はこっちへ向いてるのに、その奥で別のものを見ている。俺じゃない。俺の後ろに隠してるものを、数値か何かみたいに数えてる目だった。

 

「確認させて」

 

「断る」

 

 即答した。

 

 ミオの表情は変わらない。

 

「だったら、確定させるしかない」

 

「何をだよ」

 

「生きてるなら、問題になる。死んでるなら、そのままでいい」

 

 端末を閉じる。ぱちん、と軽い音が、やけに大きく響いた。

 

「外に出されると面倒」

 

 それはつまり、ここで消すってことだ。

 

 分かりやすい。分かりやすすぎるくらいに。

 

 俺はテガソードへ手をかけたまま、わざと鼻で笑ってみせる。

 

「お前、友達いねえだろ」

 

 ミオの眉が、ほんのわずかに動いた。

 

「関係ない」

 

「あるだろ。そういう言い方するやつは、大体そうだ」

 

「……うるさい」

 

 小さく吐き捨てたその声だけ、少しだけ感情が混じった。

 

 それで十分だった。

 

 冷たいだけじゃない。傷がある。だから厄介だ。

 

 ミオはポケットからライドウォッチを取り出す。亡。黒と紫の、刃物みたいに冷えた意匠が、街灯の端で鈍く光った。

 

「見つけた以上、残せない」

 

 ジクウドライバーが腰に現れる。

 

 右側へ、ライドウォッチを装填。

 

 かちり、と乾いた音。

 

『ライダータイム! 仮面ライダー亡』

 

 音声が響くと同時に、ミオの輪郭が夜へ溶けるみたいに揺らいだ。派手さはない。だが、そのぶん気味が悪い。装甲が現れるというより、闇の中から最初からそこにいた姿が浮かび上がるみたいだった。

 

 仮面ライダー亡。

 

 細い。速い。しかも、気配が薄いまま消え切っていない。

 

「……下がってろ」

 

 後ろへ聞こえるくらいの小声で言う。

 

 返事はない。けど、気配はまだ動かない。ちゃんと隠れてる。なら、それでいい。

 

 俺は前だけを見たまま、テガソードを引き抜く。

 

「相手は俺だ」

 

「そうするつもり」

 

 亡の声は、変身前と同じで妙に平坦だった。

 

「あなたを落としたあとで確認する」

 

「やってみろよ」

 

 構える。

 

 背後には、絶対に通させない。

 

 亡の足が、音もなく沈む。

 

 次の瞬間にはもう、戦いが始まっていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。