ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
寺の門を出た瞬間、夜気の中に混じった異物が、鼻の奥へ細く引っかかった。
まただ。
ユニバースライダー特有の、あの妙に乾いた気配。霊の匂いとも、人の匂いとも違う。機械みたいに冷たいのに、生き物の執念だけは残っているような、嫌な匂いだった。
俺は足を止めず、そのまま石段を下りる。
背後で、ほんのわずかに草を踏む音がした。
――来やがったな。
振り返らない。振り返れば、そいつにも気づかれる可能性がある。気配の薄い相手ならなおさらだ。だから俺は何も知らない顔で歩幅だけを少し広げ、芹亜が隠れやすそうな暗がりの方へわざと道を取った。
古びた塀の切れ目。倒れた石灯籠。夜の木立が作る影。
そこならまだましだ。
俺が前へ出れば、匂いも気配も、あいつの方へ流さずに済む。
「……面倒な真似しやがって」
独り言みたいに吐き捨てる。
後ろの気配が一瞬だけ止まる。たぶん、芹亜は自分のことを言われたと思ったんだろう。そう思わせておけばいい。今は出てくるな。
寺から少し離れた、人気のない路地の手前で、ようやくそいつは姿を見せた。
街灯の届かない半端な闇の中に、小柄な影が立っている。淡い髪色。視線はこっちを見ているはずなのに、目が合っている感じがしない。手元にはゲーム機みたいな端末があって、親指が無感情にそれをなぞっていた。
人を見る目じゃない。
もっと冷たい。画面の中のデータを照合する時みたいな目だ。
「……遠野吠」
先に名前を呼ばれて、舌打ちしそうになる。
「調べて来たのかよ」
「最低限の確認だけ」
声まで薄い。感情がまるで乗っていないくせに、こっちを測る精度だけはやけに高そうだった。
少女――ミオは、端末から視線を上げずに続ける。
「でも、本命はそっちじゃない」
その一言で、背中の奥が冷えた。
こいつ、もう嗅いでやがる。
俺は一歩だけ横へずれて、背後の暗がりを完全に塞ぐ位置へ立った。
「何の話だ」
「相葉芹亜」
即答だった。
「記録上は死亡扱い。世間的にも、行政上も、すでに消えてる」
夜の空気が、少しだけ張る。
後ろの気配が、息を呑んだのが分かった。
「でも、さっきから微妙に情報が噛み合わない。匂いも、熱源も、気配も、一人分じゃない」
ミオがそこで初めて顔を上げる。
人と目を合わせないっていうのは、こういうのを言うのかもしれない。視線はこっちへ向いてるのに、その奥で別のものを見ている。俺じゃない。俺の後ろに隠してるものを、数値か何かみたいに数えてる目だった。
「確認させて」
「断る」
即答した。
ミオの表情は変わらない。
「だったら、確定させるしかない」
「何をだよ」
「生きてるなら、問題になる。死んでるなら、そのままでいい」
端末を閉じる。ぱちん、と軽い音が、やけに大きく響いた。
「外に出されると面倒」
それはつまり、ここで消すってことだ。
分かりやすい。分かりやすすぎるくらいに。
俺はテガソードへ手をかけたまま、わざと鼻で笑ってみせる。
「お前、友達いねえだろ」
ミオの眉が、ほんのわずかに動いた。
「関係ない」
「あるだろ。そういう言い方するやつは、大体そうだ」
「……うるさい」
小さく吐き捨てたその声だけ、少しだけ感情が混じった。
それで十分だった。
冷たいだけじゃない。傷がある。だから厄介だ。
ミオはポケットからライドウォッチを取り出す。亡。黒と紫の、刃物みたいに冷えた意匠が、街灯の端で鈍く光った。
「見つけた以上、残せない」
ジクウドライバーが腰に現れる。
右側へ、ライドウォッチを装填。
かちり、と乾いた音。
『ライダータイム! 仮面ライダー亡』
音声が響くと同時に、ミオの輪郭が夜へ溶けるみたいに揺らいだ。派手さはない。だが、そのぶん気味が悪い。装甲が現れるというより、闇の中から最初からそこにいた姿が浮かび上がるみたいだった。
仮面ライダー亡。
細い。速い。しかも、気配が薄いまま消え切っていない。
「……下がってろ」
後ろへ聞こえるくらいの小声で言う。
返事はない。けど、気配はまだ動かない。ちゃんと隠れてる。なら、それでいい。
俺は前だけを見たまま、テガソードを引き抜く。
「相手は俺だ」
「そうするつもり」
亡の声は、変身前と同じで妙に平坦だった。
「あなたを落としたあとで確認する」
「やってみろよ」
構える。
背後には、絶対に通させない。
亡の足が、音もなく沈む。
次の瞬間にはもう、戦いが始まっていた。