ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
亡との戦いが終わったあと、俺たちはひとまず寺へ戻っていた。
夜はもうだいぶ深い。さっきまで路地で火花を散らしていたのが嘘みたいに、寺の空気は静かだった。縁側の向こうで木が揺れる音と、どこか遠くで鳴く虫の声だけが、かすかに残っている。
その静けさの真ん中に、場違いなくらい青い奴がいた。
百夜陸王――ゴジュウレオン。
俺の向かいで胡坐をかいたまま、陸王は手の中のライドウォッチをひとつずつ眺めていた。亡、ブレイズ、サイガ。さっきまで亡が使っていたそれを、まるで初めて見る異国の土産物みたいな顔で見ている。
「……で?」
最初に口を開いたのは陸王だった。
顔を上げる。青い装甲はもう解いているが、目の光だけはさっき戦っていた時のままだ。
「吠君、まず説明してくれ。ここ、どう見ても僕の知ってる世界じゃない」
「ようやくそこかよ」
「ようやくも何も、いきなり穴の向こうに飛び込んだんだ。状況を整理する順番ってものがあるだろ」
「飛び込んだのは自分の意思だろうが」
「そこに吠君がいたんだから仕方ないだろ。あのまま見てるだけの方が寝覚めが悪い」
さらっと言う。
そういうところだ。こいつは軽く言うくせに、やってることだけはまっすぐ重い。昔から変わらない。
雪庭が、そのやり取りを少し面白そうに見ていた。
「ずいぶん気安い関係なんだな」
「まあな」
「腐れ縁みたいなものだよ」
陸王が肩をすくめる。
芹亜は少し離れたところに座ったまま、まだ完全には落ち着ききっていない顔でこっちを見ていた。けれど、さっきみたいな強張りはない。陸王が加勢して、亡を倒して、ひとまず命のやり取りからは離れられた。そこだけでも、だいぶ違うんだろう。
俺は息を吐いて、壁に背を預けた。
「異世界だよ」
短く言う。
「俺も、こっち来た時は訳分かんなかった」
「やっぱりそうか」
陸王は、少しだけ目を細めた。
「穴を抜けた瞬間から空気が違った。匂いも、音も、街の色も。何より、歌が聞こえない」
その最後の一言に、部屋の空気がほんの少し変わる。
雪庭が静かに続けた。
「この世界では、歌は禁じられている」
陸王の眉が動いた。
「……歌が、禁止?」
「ああ」
俺が代わりに答える。
「MiucSって連中が締めてる。歌えば消される。面倒な話だ」
「面倒どころじゃないな」
陸王の声が、そこで初めて少し硬くなった。
「そんな世界が、本当にあるのか」
芹亜が、自分の膝の上で指をぎゅっと重ねるのが見えた。
「……あります」
小さい声だったけど、はっきりしていた。
「私も、そのせいで普通には戻れなくなりました」
陸王が芹亜を見る。
その視線は、戦う時の鋭さとは違っていた。相手を量るんじゃなく、話を受け止めるための目だ。
「君が、さっきの……」
「相葉芹亜です」
「僕は百夜陸王」
そこで少し口元を緩める。
「さっきは挨拶どころじゃなかったからね」
芹亜も、ほんの少しだけ笑った。
「はい……助けてくれて、ありがとうございます」
「礼なら半分は吠君に言ってくれ。僕は穴の向こうで暴れてるのを見て飛び込んだだけだから」
「その飛び込み方が十分おかしいんだよ」
「吠君に言われたくないな」
即座に返される。
思わず舌打ちしそうになって、やめた。こういうテンポで話せる相手が急に目の前へ現れると、変な意味で気が抜ける。
雪庭が視線を俺たちへ向けた。
「その“穴の向こう”っていうのは?」
陸王がそこで、手の中のライドウォッチを畳へ置いた。
「吠君がいなくなってから、向こうは少し騒がしかったよ」
「少しで済むかよ」
「そこはまあ、言い方の問題だ」
さらっと流してから、陸王は続ける。
「みんな心配してた。急に消えたみたいになったんだから当然だろ。僕も探してた。そしたら、いきなり空間に穴が開いた」
あの時を思い出してるのか、陸王は少しだけ遠くを見る。
「最初は敵の罠かと思ったよ。でも、その向こうで吠君が戦ってるのが見えた。しかも、かなりまずそうだった」
「見えてたのか」
「見えてたけど、まさか見た事のない戦士と戦っていたのはね」
「うるせえ」
「否定しないんだな」
「事実だからだよ」
言い返すと、陸王は小さく笑った。
「だから飛び込んだ。理由なんてそれで十分だろ」
あっさりしてる。
けど、それで十分だって本気で思ってる顔だった。こっちが消えて、穴が開いて、その向こうで戦ってたから飛び込んだ。たぶんこいつの中じゃ、本当にそれ以上でも以下でもない。
芹亜が、その話を聞いて目を瞬く。
「そんな……迷わず、ですか?」
「迷う時間があるようには見えなかったからね」
陸王は軽く肩をすくめた。
「アイドルはタイミングも大事なんだ」
「そこにアイドル関係あるか?」
「あるさ。出るべき時に出る。基本だろ」
「知らねえよ、そんな基本」
「吠君はそういうの分かってなさそうだもんな」
「喧嘩売ってんのか」
「軽口だよ」
そう言って笑う。芹亜が、そのやり取りを見て少しだけ肩の力を抜いたのが分かった。
雪庭がそこで、話を戻すように言った。
「吠から聞いているかもしれないが、この世界で起きている問題は、歌が禁じられていることだけじゃない。彷霊界、グレートゴースト、そしてライドウォッチの争奪戦。全部が絡んでる」
「そこまではまだ聞いてない」
陸王が素直に言う。
「だから今、順番に頭へ入れてるところだ」
俺は頭を掻いた。
「ざっくり言うと、俺はこっち来てからユニバースライダーって連中とやり合ってる。指輪みてえになったライドウォッチを奪い合う戦いだ」
「それが、さっきの三つか」
「ああ。そいつらは亡が持ってた分だ」
「ふうん……」
陸王は、畳の上の三つへもう一度視線を落とす。
「世界が違っても、ろくでもない奪い合いはあるんだな」
「しかもこっちは歌まで殺されてる」
俺が言うと、陸王の目つきが少し変わった。
そこだけは、やっぱり無視できないらしい。
「吠君」
「何だ」
「そのMiucSってやつ、本当に歌を禁じてるんだな?」
「だからさっきからそう言ってんだろ」
「冗談じゃなく」
「見りゃ分かるだろ。こっちの連中はそのせいで普通に生きることすら難しい」
俺は芹亜を見る。
「恩人も、そのど真ん中にいる」
芹亜が少しだけ俯く。けれど、黙ったままではいなかった。
「……歌って、そんなに悪いものじゃないんです」
その言い方は、弱くなかった。
「怖いことに使われることもあるのかもしれないです。でも、それだけじゃないって、私は思います」
「うん」
陸王はすぐに頷いた。
「それは、僕もそう思う」
そこに迷いがなかった。
元スーパーアイドル。こいつにとって歌は飾りじゃない。力でもあるし、願いでもあるし、多分、生き方のかなり深いところに刺さってる。
「じゃあ」
陸王が、静かに息を吸う。
「僕も手を貸す」
部屋が少しだけ静まった。
雪庭が目を細める。
「即決だな」
「そりゃそうだろ」
陸王は笑っていない。
「歌を禁じる世界なんて、聞き捨てならない。しかも、そのせいで目の前の人間が苦しんでるなら、なおさらだ」
それから、俺を見る。
「吠君ひとりに任せるには、少し荷が重そうだしな」
「余計なお世話だ」
「そう言うと思った」
けど、そこで終わらない。
陸王は少しだけ口元を上げた。
「でも、実際ちょっと押されてただろ」
「……お前な」
「軽口だって」
「二回言ったら許されると思うなよ」
「じゃあ三回目はやめとこう」
ふざけた調子だ。けど、その奥に本気があるのは分かる。
こいつはやると決めた。歌を禁じる世界だと知って、その時点で腹を括った。そういう顔だった。
芹亜が、少し戸惑ったように陸王を見る。
「本当に……手伝ってくれるんですか」
「もちろん」
陸王はためらわない。
「僕は事情を全部知ってるわけじゃない。でも、歌を奪う相手がいるなら、黙ってる気はない」
それから少しだけ柔らかく笑った。
「アイドルとして、そこは譲れないからね」
芹亜が、その言葉を聞いて小さく息を吐いた。
少しだけ、救われたような顔だった。
雪庭が頷く。
「なら助かる。こちらとしても戦力は多い方がいい」
「その代わり、あとでちゃんと全部説明してもらう」
「もちろん」
「吠君から」
「なんで俺なんだよ」
「一番最初に巻き込まれてるのは吠君だろ」
「だからって説明役まで押し付けんな」
「恩人のことも混ざると急に熱くなるし、分かりやすいじゃないか」
「お前ほんと余計なことしか言わねえな」
思わず吐き捨てると、陸王が肩を揺らす。
芹亜まで少し笑った。
……調子が狂う。
こういう空気になると、さっきまでの張り詰めた感じが少しだけ遠くなる。悪くないけど、落ち着かない。
俺は小さく舌打ちして、壁から背を離した。
「分かったよ。説明すりゃいいんだろ」
「助かる」
「その代わり、そっちの事情も聞かせろ。俺がいなくなってから、あっちはどうなってんのか」
「それは順番にね」
陸王はそう言って、畳の上のライドウォッチを指先で軽く叩いた。
「こっちの世界の話を聞いたら、今度は向こうの話をしよう」
夜の寺に、静かな間が落ちる。
けれど、それは重い沈黙じゃなかった。戦いの直後の張りつめた空気とは違う。次に進むために、一度息を整えるための静けさだった。
歌を禁じる世界。
霊と歌が結びつく世界。
ユニバースライダーが争う世界。
面倒で、厄介で、訳が分からない。それでも、陸王がここに来たことで、少なくとも一人で噛みついてた時よりは、少しだけましになった気がした。
俺は窓の外の夜を見ながら、小さく息を吐く。
「……ほんと、面倒なことになったな」
「今さらだろ」
すぐ隣から返ってくる。
その速さに、思わず鼻で笑った。