ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

3 / 30
新たな争奪戦

 指先に残る感触が、妙に生々しかった。

 

 さっきまで時計みたいな形をしていたはずのものが、今は俺の掌の上で、すっかり指輪の顔をしている。センタイリングと同じくらいの大きさ。けれど、刻まれた意匠は知らないものだ。冷たい金属の感触が、じわじわと皮膚へ沈んでくる。

 

「……何なんだよ、お前は」

 

 答える奴はいない。

 

 路地裏には、戦いの熱だけがまだ燻っていた。倒れた二人も動かない。火花の匂いも、焦げた空気も、全部まだそこにある。なのに、指輪だけがそこから浮いているみたいに異質だった。

 

 掌の中で、かすかに脈打つ。

 

「っ――」

 

 次の瞬間、視界が暗転した。

 

 音が消えた。

 

 風もない。熱もない。さっきまで肌にまとわりついていた路地裏の空気が、きれいさっぱり剥がれ落ちている。

 

 暗い。

 

 どこまで行っても黒い闇だ。地面があるのかどうかも曖昧なのに、俺は確かに立っている。遠近感も消えている。自分が前を向いているのか、上を見ているのかさえ分からない。

 

 その中で、声だけが響いた。

 

「遠野吠、聞こえるか」

 

 聞き覚えのある、低く重い声だった。

 

「……テガソードか!」

 

「ようやく聞こえたな、遠野吠」

 

「おい、テガソード!」

 

 声のする方へ振り向く。だが、闇は闇のままだ。輪郭の代わりに、圧だけがある。見えていないのに、そこに“いる”と分かる、厄介な存在感だった。

 

「ここは何だ。さっきの指輪は何なんだよ」

 

「問うべきことは多い。だが、順を追って話そう」

 

 いかにもこいつらしい言い方だった。俺が苛立っていようが関係ない、最初から全部自分の間合いで話すつもりの声だ。

 

「それはライドウォッチだ」

 

「……ライドウォッチ?」

 

「仮面ライダーたちの力と歴史が刻まれたものだ」

 

 言葉だけが、暗闇の中へ静かに落ちる。

 

 仮面ライダー。知らない名じゃない。けど、俺の知ってる戦いの中で、そう呼ばれる奴らとまともに向き合ったことはない。少なくとも、あの時計みたいなものと結びつくような知識はなかった。

 

「歴史まで、かよ」

 

「かつては、その歴史ごと封じる器でもあった」

 

「だったら、何で今は指輪になってる」

 

 俺が握っていた感触を思い出した瞬間、闇の中へかすかな光が生まれた。二つの輪。さっき手に入れた指輪とよく似た光が、俺の目の前にふわりと浮かぶ。

 

「お前の持つ力と、私の力に共鳴した結果だ」

 

「共鳴?」

 

「お前は私の戦士だ。ゆえに、お前の手へ渡る時、ライドウォッチはセンタイリングに近い形へ再構成された」

 

 淡々と告げられたその説明は、妙に納得できてしまうのが腹立たしい。確かに、あれは最初から俺の知る“指輪”の顔をしていた。知らない力のくせに、手に馴染みすぎていた。

 

「……じゃあ、元の仮面ライダーって奴らは消えたわけじゃねえんだな」

 

「無論だ」

 

 そこで初めて、テガソードの声がほんのわずかに強くなった。

 

「ライドウォッチには、仮面ライダーたちの歴史が刻まれている。だが、お前の手にあるそれは歴史を奪ったものではない。仮面ライダーの力を、お前が扱える形に変えたに過ぎん」

 

「仮面ライダー、ね」

 

 口の中で転がしてみても、まだ実感は薄い。

 

 けれど、さっき戦った二人の姿は嫌でも思い出せる。違う力。違う戦い方。なのに、どこか筋が通っていた。こっちの世界には、まだ知らない戦士が山ほどいる。そう突きつけられた気分だった。

 

「仮面ライダー?」

 

「スーパー戦隊と最も縁のある戦士たちの名だ」

 

 俺は眉をひそめた。

 

「スーパー戦隊と、縁がある……?」

 

「仮面ライダーとスーパー戦隊は表裏一体」

 

 闇の奥で、何か巨大なものが静かに身じろぎした気配がした。

 

「異なる世界を守りながら、深く関わる戦士たちでもある」

 

「別の世界を守る、もう一つの戦士ってことか」

 

「そうだ」

 

 短い肯定。

 

 それだけなのに、不思議と重い。戦隊とは違う。だが、完全に遠いわけでもない。鏡の向こうにいるみたいな、そんな感じだ。

 

 その時、目の前に浮かんでいた光の輪の片方が、ふっと強く輝いた。

 

 腹に口を持った、あの鮮やかなライダーの残像が一瞬だけ脳裏を掠める。

 

「今、お前の持つガヴは、数多くいる仮面ライダーの中で、最もゴジュウジャーに近い戦士だ」

 

「ガヴ」

 

 さっきベルトが鳴らした名を、今度ははっきりと口にする。

 

「あぁ」

 

 テガソードの声は変わらず静かだった。

 

「異世界の人間たちとの間に生まれた戦士。母の世界を守るために戦った者だ」

 

 闇の中へ、その言葉だけが残る。

 

 異世界。

 

 その単語だけで、妙に胸の奥がざわついた。

 

「ある意味、お前と似た戦士だ」

 

「……そうか」

 

 短く返した自分の声が、少しだけ低かった。

 

 似ている、なんて簡単に言い切れるほど、俺はそいつのことを知らない。けれど、まるきり他人事とも思えなかった。知らない世界へ引っ張られて、それでも誰かのために戦った戦士。そう言われれば、引っかかるものはある。

 

 ガヴの輪郭が闇に溶ける。

 

 代わりに、もっと重い気配が降りてきた。

 

「ライドウォッチを巡る新たな争奪戦は、すでに始まっている」

 

 その一言で、空気が変わった。

 

 さっきまでの説明が、全部ここへ繋がっていたのだと分かる声音だった。

 

「また争奪戦かよ」

 

「そうだ」

 

「誰が始めた」

 

「それは未だに謎だ」

 

 そこだけは、こいつでも分からないらしい。

 

 あるいは、分かっていても言う気がないのか。どっちにしろ気に入らない答えだ。

 

「だが、一つだけ確かなことがある」

 

 闇の奥で、何かがさらに近づく。

 

「すべてのライドウォッチを手にした者は、世界を意のままに操ることができる」

 

 思わず鼻で笑いそうになった。笑えるはずもないのに。

 

「……ふざけた話だな」

 

「だが、現実だ」

 

 短く、容赦のない返答だった。

 

 世界を意のままに操る。王になる、だの、何でも願いが叶う、だの。そういう胡散臭い話はもう嫌というほど聞いてきた。だが、それでも戦いは本物だった。路地裏であの二人が殺し合っていた理由としては、十分すぎる。

 

 つまり俺は、もう足を踏み入れてる。

 

 見物人じゃない。とっくに、その輪の中だ。

 

「故に、この問いをもう一度言おう」

 

 テガソードの声が、真正面から落ちてくる。

 

「遠野吠、お前の願いは何だ」

 

 闇が、ひとつ深くなった気がした。

 

 その問いは知っている。前にも聞かれた。あの時は、言葉にできなかった。自分が何を欲しがって、何のために噛みついていくのか、上手く掴めていなかった。

 

 でも今は違う。

 

 拳を握る。指輪の感触が、確かにそこにあった。

 

「……俺の願いは決まってる」

 

 言葉にすると、不思議なくらい迷いが消えた。

 

「俺は元の世界に帰る」

 

 闇の中で、自分の声だけが真っ直ぐ伸びていく。

 

「あの世界で、俺をずっと待ってくれた響や未来がいる」

 

 浮かぶ顔がある。

 

 腹の立つ顔も、呆れた顔も、笑った顔も、全部。

 

「まだまだ喧嘩したい奴らもいるし、一緒に飯を食いたい奴らがいる」

 

 思い出したら、余計に腹が据わった。

 

 俺はあっちで生きてきた。あっちに帰る。理由なんて、それで十分だ。

 

「だから、元の世界に帰る為だったら、何度だってなってやるよ」

 

 一度、息を吐く。

 

 その先は、吠えるみたいに言い切った。

 

「ナンバーワンにな!」

 

 静寂が落ちた。

 

 テガソードはすぐには答えない。俺の言葉を測っているのか、それとも最初から答えを知っていたのか。どっちでもよかった。

 

 やがて、低い声が響く。

 

「……そうか」

 

 たった一言。

 

 なのに、妙に重かった。

 

「今の私には、仮面ライダーたちの力をもってしても、お前を元の世界へ戻すことはできない」

 

 思わず、舌打ちしそうになる。

 

「できねえのかよ」

 

「だが」

 

 そこで、はっきりと声が切り替わった。

 

「ライドウォッチと共鳴したセンタイリングの力を集めれば、その道が開く可能性はある」

 

「可能性、ね」

 

「ゼロではない」

 

 断定とも希望ともつかない、厄介な言い方だった。

 

 だが、それで十分でもある。帰れないと決まったわけじゃない。手掛かりはある。そのためにやることも見えた。

 

 つまり、集めるしかない。

 

 この世界に散らばってるライドウォッチとやらを、全部だ。

 

「……結局、勝ち抜けってことか」

 

「お前が望むのならば、そうなる」

 

 望むのならば。

 

 言い方は穏やかでも、実際は選択肢なんてほとんどない。帰りたいなら戦う。そういう話だ。

 

 俺は口の端をわずかに吊り上げた。

 

「上等だ」

 

 闇の中で、指輪を握り込む。

 

「帰るためなら、やってやる」

 

 その言葉を待っていたみたいに、暗闇の底で何かが脈打った。

 

 視界の端から、黒が崩れる。

 

「ならば進め、遠野吠」

 

 最後に聞こえたテガソードの声は、最初より少しだけ近かった。

 

「お前の願いの果てまで」

 

 熱が戻る。

 

 焦げた匂い。路地裏の空気。遠くの雑踏。

 

 気づけば、俺は元の場所に立っていた。ほんの一瞬だったような気もするし、ずいぶん長く沈んでいた気もする。

 

 掌を開く。

 

 そこにはやはり、二つの指輪があった。

 

 知らない力。知らない戦士。知らない争奪戦。

 

 けれど、やることだけはもう決まっている。

 

 俺は指輪を握り込み、低く息を吐いた。

 

「……帰るぞ」

 

 誰に言うでもなく呟く。

 

 その声は、もう迷っていなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。