ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
数日が経った。
寺の空気にも少しだけ慣れた頃だったが、落ち着いたと言うにはまだ早い。歌を禁じる世界も、ユニバースライダー同士の争奪戦も、彷霊界も、何もかもがまだ途中のままだった。
だから雪庭が「陸王の力を見ておきたい」と言い出した時、反対する理由はなかった。
場所は彷霊界。
面子は俺、陸王、雪庭、青木、芹亜。
夜とも昼ともつかない薄い空の下、彷霊界の街並みは相変わらず現実と少しだけズレて見えた。建物はある。道もある。けれど色が浅い。風の匂いも薄いくせに、霊の気配だけはやたら濃い。
「何度来ても、妙な場所だな」
陸王が辺りを見回しながら言う。
「来たばっかの頃よりは余裕ある顔してんな」
「数日もいれば、さすがに慣れるさ。吠君みたいに最初から図太いわけじゃないけどね」
「うるせえよ」
俺が吐き捨てると、少し後ろで芹亜が小さく笑った。
青木は腕を組んだまま、いかにも面倒そうに息を吐く。
「軽口叩く余裕あるなら結構ね。来るわよ」
その一言と同時に、空気の奥で気配が膨れた。
怨霊だ。
壁の影から、路地の奥から、霧のたまりみたいな場所から、輪郭の曖昧な影が滲み出してくる。数は多い。だが、前に比べれば見慣れた類いだった。
「じゃあ、始めるか」
陸王が一歩前へ出る。
変身。短い声と共に、青い装甲が全身へ噛み合う。ゴジュウレオン。獅子を思わせる力強さを持ちながら、青の色だけはやけに鮮やかだった。
「見とけよ、吠君」
「誰に言ってんだ」
「前に見た時は、だいぶ慌ただしかったからね」
「今回はちゃんと見てやるよ」
陸王が笑う。
次の瞬間には、レオンバスター50を構えて踏み込んでいた。
戦い方は分かりやすい。真正面から圧をかける。逃がさず、迷わず、前へ出る。怨霊が群がるより早く、レオンバスター50の連射が先頭を吹き飛ばす。距離を詰めた個体には、銃身そのものを叩きつけるみたいに薙ぎ払い、怯んだところをさらに撃ち抜く。
「……強引ね」
青木が呆れ半分に言う。
雪庭は静かに頷いた。
「でも、あれで崩れてない。押すだけじゃなく、ちゃんと見てる」
実際その通りだった。
派手に見えるくせに雑じゃない。正面からぶつかるのに、無駄な被弾がない。怨霊の動きの先を見て、道ごとねじ伏せていく感じだ。
芹亜が少し安心したように息を吐く。
「すごい……」
「だろ」
思わずそう返してから、俺は少しだけ顔をしかめた。別に俺が偉いわけじゃない。
陸王は怨霊を撃ち払いながら、ちらりとこっちを見る。
「何だ、その顔」
「いや、得意げにするほどお前の手柄じゃねえだろって思っただけだ」
「細かいな、吠君は」
軽口を叩く余裕があるのに、戦いの手は止まらない。青い装甲が路地を駆け、レオンバスター50が火を噴くたび、怨霊の群れが崩れていく。
そこまでは、予想通りだった。
けれど雪庭が低く言う。
「ここからだろ」
陸王の動きが一瞬だけ止まる。
「勿論さ」
それと共に手にしたライドウォッチ。
そのライドウォッチは、そのまま回転させると共に、ライダーリングへと姿を変え、瞬時にテガソードに装填する。
「エンゲージ!」『ライダーリング!ブレイズ!』
水を思わせる光が、青い装甲の上へ重なる。
ゴジュウレオンの力強い輪郭に、別の剣士の意匠が噛み合っていく。荒々しい獅子の前進力はそのままに、全身の気配だけが少し変わる。
流れる。
そんな感じだった。
陸王の手に、水勢剣流水が現れる。
「……似合うじゃねえか」
「僕に言うには、ちょっと素直すぎるんじゃないか?」
「うるせえ」
言ってる間に、怨霊の残党が一斉に押し寄せる。
今度の陸王は、さっきまでと違った。前へ出る力は同じだ。だが、押し方が変わった。怨霊の腕を水勢剣流水で受け流し、その流れのまま斬り返す。真っ向から叩くんじゃない。相手の勢いを滑らせて崩し、そのままレオンバスター50で撃ち抜く。
「おいおい、急に小器用になったな」
「失礼だな。元々器用だよ」
「言うと思ったわ」
青木が冷めた声で返す。
水勢剣流水の軌跡に、水の残光が尾を引く。斬るたび、叩くたび、足元を流れる水が怨霊の動きを乱す。真正面から押し込んでいたさっきまでと違い、今の陸王は戦場そのものを水で撫でるみたいに制していた。
レオンバスター50で牽制。
踏み込んだ相手を流水で逸らす。
逸らした先へ、すでに次の弾丸が置かれている。
強引さは残っている。けれど、その上に剣士らしい流れが乗った。
「なるほどね」
雪庭が感心したように言う。
「地力がある人間に、別系統の技術が乗るとこうなるか」
「最初から自分のもんみてえに使いやがる」
「嫉妬か?」
「してねえよ」
そう返しながらも、少しだけ面白かった。陸王は陸王のままだ。なのにブレイズの力が無理なく馴染んでいる。あいつの“前へ出る強さ”を、水の剣技がうまく整えていた。
最後の一体を、陸王が水勢剣流水で斬り裂く。遅れてレオンバスター50の銃声が響き、怨霊は霧みたいにほどけて消えた。
静けさが戻る。
「こんなものか」
陸王が剣を下ろした、その時だった。
空気の質が変わる。
怨霊とは違う。もっと輪郭がある。もっと濃い。しかも妙に静かだ。嫌な気配なのに、騒がしくない。その沈んだ圧が、路地の奥からゆっくりこちらへ近づいてくる。
青木が先に気づいた。
「……まだいる」
雪庭の目が細まる。
「怨霊じゃないな」
芹亜が小さく息を呑む。
「この感じ……」
俺はテガソードへ手をかけた。
「ユニバースライダーか」
霧の向こうに、影が立つ。
最初に見えたのは、獣じみた輪郭だった。だが、これまでの連中とは何かが違う。立っているだけなのに、人の体温が薄い。かといって亡霊そのものでもない。肉体はある。だが、その中身が人間のままじゃないと直感で分かる。
現れたのは、黄金の獅子だった。
ライオンを思わせる意匠。
細身の剣、だが、その立ち姿には生きた人間の癖が薄い。呼吸の間も、視線の揺れもない。まるで。
「グレートゴースト?」
「……何だ、あれ」
俺の声が自然と低くなる。
陸王も、さっきまでの軽さを消してその姿を見ていた。
「これは……この前までのライダーと違うな」
芹亜が、ぎゅっと手を握る。
「あのライダー、グレートゴーストですよ」
「それって、つまりは、英雄が仮面ライダーの力を得たっていう事かよ」
ただ、静かにこちらを見ている。その視線の奥にあるものだけが、妙に古かった。長い時間を越えてきた何かが、そのまま今ここへ立っているような違和感がある。
雪庭が一歩前へ出る。
「下がるなよ」
短く、それだけ言った。
陸王が水勢剣流水を握り直す。
「いい引きだな。せっかく少し慣れたと思ったのに」
「文句言うなら帰るか?」
「帰れない世界で言う台詞じゃないだろ、それ」
軽口は軽口だ。けれど、声はもう笑っていなかった。
俺も構える。
ビーストはなおも動かない。だが、その沈黙そのものが、不気味な圧になって場へ広がっていく。
今までのユニバースライダーとも違う。
ただ強いだけじゃない。
もっと、根っこから別の何かだ。
そう分かった時には、もう次の戦いは始まっていた。