ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
朝の寺は、妙に静かだ。
鳥の声はする。風が木を揺らす音もする。けど、それだけだ。人の気配が薄いわけじゃないのに、どこか一枚、音が引いている。こういう静けさは嫌いじゃない。嫌いじゃないが、落ち着くかと言われるとまた別だった。
縁側へ出ると、もう先客がいた。
「静かすぎないか、この寺」
百夜陸王が、朝っぱらからそんなことを言っている。湯気の立つ湯呑みを片手に、まだ見慣れない庭を眺めながら、いかにも納得がいっていない顔だった。
「寺なんだから当たり前だろ」
そう返して、俺は少し離れた柱にもたれる。隣に座るほど近くもないし、わざわざ避けるほどでもない。そのくらいの距離だ。
「いや、当たり前って言われてもね。僕のいた環境だと、朝はもっと騒がしかったんだよ」
「知らねえよ」
「そこは少しくらい興味持ってくれてもいいだろ」
「持つ理由がねえ」
言うと、陸王は小さく肩をすくめた。こいつはこういう返しをされても、妙にへこまない。腹が立つほどじゃないが、調子が狂う。
少し離れた廊下の角から、くすっと小さな笑い声がした。見ると、芹亜がこっちを見ていた。目が合うと、少し気まずそうに肩をすくめる。
「すみません。なんだか、二人のやり取りが面白くて」
「面白くねえよ」
「面白いだろ」
俺と陸王の声が重なって、また芹亜が笑う。朝から騒がしい原因は、どう考えてもこいつだ。
炊事場へ行くと、青木がすでに朝食の準備を始めていた。俺は何も言わずにその横へ入る。鍋の蓋を開け、火加減を見る。味噌汁の匂いが立つ。飯はもう炊けている。手を動かしている方が、余計なことを考えずに済む。
「吠、そっちお願い」
「ああ」
返したところで、背後から気配がした。
「僕も何かやるよ」
陸王だ。
振り向くと、いかにも手伝う気の顔をしている。善意なんだろうが、こういうのは善意だけで触られると余計に面倒になる。
「そっち、触らないで」
先に言ったのは青木だった。
「余計に散らかるから」
「ひどいな。僕だって一応、人並みにはできる」
「口ほどにもなさそうだけどな」
「吠君に言われたくないな」
そのまま言い返しながらも、陸王は結局、皿を並べるくらいしかしなかった。だが、それすらどこかぎこちない。寺の暮らしに慣れてないのが丸分かりだった。
「……意外と手際いいんだな」
並べ終えたあと、陸王がふいに言う。
視線はこっちの手元に向いていた。椀を置く位置、飯をよそう速さ、そういうのを見ていたらしい。
「生きるのに必要だっただけだ」
それだけ返す。
余計な説明をするつもりはなかった。けれど、言ったあとで一瞬だけ空気が止まる。芹亜も、青木も、陸王も、誰もすぐには軽口を挟まなかった。
……だからこういうのは面倒なんだ。
「なるほど」
その沈黙を、陸王が崩す。
「じゃあ今後も期待していいわけだ」
「図々しいな、お前」
「褒めてるんだよ」
「聞こえねえな」
そう返すと、今度は青木が小さく鼻を鳴らした。
「まあ、吠がいると食事だけは何とかなるのよね」
「だけはって何だよ」
「そこに食いつくんだ」
陸王が面白そうに言う。芹亜もまた、静かに笑っていた。さっきの変な間が消えたのは助かったが、そのぶん何となく落ち着かない。
朝食を終えたあと、今度は雪庭に掃除を言い渡された。
「戦えるだけじゃ困るからね。住んでる以上、働いてもらうよ」
あの柔らかい顔で、さらっと言うからたちが悪い。
「なんで俺まで」
「住んでるから」
「僕は客じゃないのか」
「異世界から来た客だからこそ、働いてもらう」
陸王の返しにも、雪庭はまるで動じない。最初から断らせる気のない笑い方だった。
結局、俺と陸王は並んで箒を持っていた。
朝の庭はまだ湿っていて、掃くたびに細かい葉が音もなく寄っていく。こういう単純な作業は嫌いじゃない。頭を空にできるからだ。
だが今日は、隣がうるさい。
「異世界に来て最初のまともな仕事が掃除とはね」
「お似合いだろ」
「吠君も随分偉そうだな」
「事実だ」
「言い切るのか」
俺は黙って落ち葉を掃く。陸王も、そのあと少しだけ真面目に箒を動かした。動かしながら、庭の木や寺の屋根を見上げる。
「……吠君、こういう時間、苦手そうだ」
「うるせえ」
「当たったらしい」
図星だった。
戦ってる時は考えなくていい。腹が減ってる時もそうだ。けど、こうして何もない時間ができると、余計なことが頭の隅をうろつく。自分が今どこにいるのかとか、いつまでこうしてるのかとか、考えたところで答えの出ないことばかりだ。
だから、こういう静かな時間は嫌いじゃないくせに、少しだけ苦手だ。
掃除を終えて縁側に戻ると、昼前の光が庭に落ちていた。さっきより空気が柔らかい。芹亜が先に座っていて、俺たちを見ると小さく手を振った。
「お疲れさまです」
「疲れるほどのことはしてない」
「言い方だよ、それ」
陸王が横から言う。
俺は無視して縁側に腰を下ろした。今度はさっきより少しだけ距離が近い。別に意識したわけじゃない。ただ、そのくらいでも別にいいかと思っただけだ。
しばらく、誰もすぐには喋らなかった。
風が吹く。木の葉が揺れる。寺の静けさは相変わらずだ。なのに、朝より少しだけ馴染んでいる気がした。
「なんだか、変な感じです」
先に口を開いたのは芹亜だった。
「変?」
陸王が聞き返す。
「はい。危ないことばかり起きてるのに、こういう時間もあるんだなって」
その言葉に、俺は少しだけ庭を見る。
確かにそうだ。歌を禁じられた世界だの、グレートゴーストだの、ライドウォッチの争奪戦だの、面倒なことばかり続いてる。それなのに、こうして朝飯を食って、掃除をして、縁側で風を受けてる時間もある。
「ずっと気張ってても疲れるだけだろ」
何となくそう言うと、陸王が横で笑った。
「吠君にしてはまともなこと言うな」
「お前、ほんと一言多いな」
「褒めてるんだけど」
「聞こえねえって言っただろ」
芹亜がまた笑う。今度は、朝よりずっと自然だった。
俺はその笑い声を聞きながら、小さく息を吐く。
面倒なことは減っていない。むしろ増える気しかしない。けれど、こういう時間があるなら、まだ何とかやっていけるのかもしれないと、ほんの少しだけ思った。
……だからこそ、余計に気が抜けないんだろうけどな。