ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
夜になってから、雪庭に呼ばれた。
面倒な話だろうと思って行ってみれば、実際、面倒な話だった。
「部屋が足りないから、今夜から吠と陸王は同じ部屋で」
一言で済ませやがった。
「は?」
思わず素で聞き返すと、雪庭はいつもの調子で笑うだけだ。隣では陸王が、少しだけ面白そうな顔をしている。
「なるほど。とうとうそう来たか」
「来たか、じゃねえよ。なんで俺がこいつと同じ部屋なんだ」
「文句を言っても部屋は増えないわよ」
青木があっさり言い切る。芹亜は少し困ったように、けれど申し訳なさそうにこっちを見た。
「……すみません。私のせいで、部屋まで使ってしまって」
「恩人は気にすんな」
反射でそう返すと、陸王がすぐ横で小さく笑った。
「そこで即答するのか」
「うるせえ」
雪庭が手を叩く。
「じゃあ決まり。二人とも、仲良くしてくれ」
「するわけねえだろ」
「初手からひどいな」
そう言いながらも、陸王はそこまで嫌そうじゃなかった。俺だけが損してる気がする。
夜の寺は昼よりもっと静かだ。
案内された部屋は、広くはなかった。畳の匂いがして、座卓がひとつ、壁際に小さな棚、押し入れには布団。障子の向こうから月の明かりが薄く差し込んでいて、やけに落ち着いた部屋だった。
陸王が先に中へ入って、軽く見回す。
「……思ったより悪くないな」
「狭いだろ」
「少しね。でも、こういうの嫌いじゃない」
そう言って、指先で畳の縁を軽くなぞる。
「風情がある。こういう和室、ちゃんと使うの久しぶりかもしれない」
「へえ」
「何だ、その返事」
「別に。お前がこういうの気に入るとは思わなかっただけだ」
「失礼だな。僕だって情緒くらい分かるよ」
陸王は障子の方へ視線をやって、それから少し笑った。
「なんというか、修学旅行みたいだな」
その言葉に、俺は一瞬だけ部屋を見回した。
畳。障子。押し入れ。並べることになる布団。確かに、言われてみればそんな空気がなくもない。変に懐かしいような、落ち着かないような、妙な感じだった。
「……修学旅行、ね」
「何だ、その顔」
「別に」
否定しきれなかったのが気に入らなくて、俺はそのまま押し入れを開けた。
「ほら、布団出すぞ」
「はいはい」
陸王も手伝おうとする。だが、最初の一枚を広げた時点で分かった。こいつ、慣れてねえ。
「おい、そっち違う」
「何が」
「裏表だ」
「布団にそんな厳密なルールがあるのか?」
「見りゃ分かるだろ」
「いや、初見には分からないな」
仕方なく、俺が手を伸ばして直す。陸王は素直にどくが、その顔には少しだけ笑いが混じっていた。
「何笑ってんだ」
「いや。吠君、やっぱり手慣れてるなと思って」
「生きるのに必要だっただけだ」
そう返すと、前にも似たようなことを言ったのを思い出したのか、陸王が肩を揺らす。
「便利な返しだな、それ」
「便利なんだよ」
結局、布団は俺が整える形になった。
二組並べてみると、部屋の広さのせいで思ったより近い。肩がぶつかるほどじゃないが、離れているとも言えない距離だった。陸王もそれを見て、少し眉を上げる。
「近くないか」
「部屋が狭いんだよ」
「知ってる」
言いながらも、陸王は自分の布団の端をちょっとだけずらした。無駄な抵抗だ。そんなに変わらない。
「諦めろ」
「君、たまに妙に冷たいな」
「たまにじゃねえよ」
灯りを落とすと、部屋の中は一気に静かになった。
障子越しの月明かりが畳へ薄く落ちている。外では虫が鳴いていて、遠くで木が揺れる音がする。昼間の騒がしさも、戦いの気配も、今は少しだけ遠い。
布団へ入ると、畳越しの冷たさが少しだけ残っていて、それが妙に心地よかった。
「こうしてると、本当に修学旅行みたいだな」
横から、また陸王がそんなことを言う。
「お前、まだ言ってんのか」
「だってそうだろ。普段と違う場所で、男二人で同じ部屋。しかも畳と布団だ」
「楽しいみてえに言うな」
「少しは楽しいんじゃないのか?」
すぐには答えなかった。
否定するのは簡単だ。けど、完全に違うとも言い切れなかった。この静かな部屋も、隣でくだらないことを言ってくるこいつも、全部まとめて、なんとなく悪くなかったからだ。
「……別に、悪くはねえ」
言った瞬間、横で陸王が息を漏らした。
「へえ」
「今、笑っただろ」
「いや。珍しく素直だと思って」
「調子乗るな」
「乗ってないよ」
そう返してから、陸王も布団の中で天井を見たまま黙る。
少し間が落ちる。
こういう沈黙は嫌いじゃない。話し続けられるのも面倒だし、完全に他人みたいに静かすぎるのも落ち着かない。その間くらいの沈黙だった。
「でも、こういう時間があるのは悪くない」
陸王がぽつりと言う。
「戦ってばっかよりはな」
俺も答える。
「吠君からそういう言葉が出るとは思わなかった」
「うるせえよ」
「少しは落ち着くんだな」
そう言われて、しばらく天井を見た。
落ち着く。そういう言い方は気に入らない。けど、間違ってもいなかった。誰かと同じ部屋にいて、こうして何も起きないまま夜を過ごすのが、思ったより悪くない。それは少しだけ、落ち着いてるってことなんだろう。
「……まあ、こういうの、嫌いじゃねえだけだ」
「修学旅行っぽいから?」
「それはお前が勝手に言ってんだろ」
「否定しないんだな」
「寝ろ」
ぶっきらぼうに返すと、陸王は小さく笑った。
「はいはい」
それから少しして、部屋はまた静かになった。
外の虫の声だけが続いている。俺は布団の中で目を閉じる。隣に誰かいるのは、本来なら落ち着かないはずだった。なのに今日は、そこまで気にならない。
「おやすみ、吠君」
暗がりの中で、陸王が言った。
「……おう」
短く返す。
それきり、もう何も喋らなかった。
修学旅行みたいだ、なんて言い方は気に食わない。けど、ほんの少しだけ、その空気を悪くないと思ったのは事実だった。