ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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操られる街、抗う声

 夜の寺は、昼間よりもずっと静かだった。

 

 虫の声すら遠い。障子の外を抜けていく風の音だけが細く耳に残って、その静けさのせいで、かえって胸の奥がざわつく。部屋の真ん中に座る恩人――芹亜は、さっきからずっと胸元へ手を当てたままだった。苦しそう、というより、何かに耳を澄ませている顔をしている。

 

「……来ます」

 

 小さな声だった。

 

 けれど、部屋の空気を変えるにはそれで十分だった。

 

 雪庭が視線を上げる。

 

「近いか」

 

「はい。前みたいに、急に入ってくるんじゃなくて……少しずつ、揃えられていく感じで」

 

 その言い方に、隣で陸王が嫌そうに眉を寄せた。

 

「最後まで趣味が悪いな」

 

「テスラらしいけどな」

 

 俺が吐き捨てると、青木が腕を組んだまま鼻を鳴らす。

 

「らしいで済ませたくないわね」

 

 雪庭は、そんなやり取りを挟む間も惜しいとでも言うみたいに、芹亜をまっすぐ見ていた。

 

「来るなら、ここで受ける。芹亜、君は歌へ入る準備をしてくれ」

 

「……はい」

 

 返事のあと、短い沈黙が落ちる。

 

 その瞬間だった。

 

 部屋の空気が、静かに変わる。

 

 障子の外にあったはずの虫の声が、ふっと薄れた。風の音も遠のいて、代わりに、青白い何かが畳の上を這っていく。細い線だった。畳の縁をなぞり、柱を伝い、天井の木目にまで広がっていく。まるでこの部屋そのものを、見えない手が定規で測りながら整え直していくみたいだった。

 

「始まったな」

 

 陸王が低く言う。

 

「……気持ち悪ぃ」

 

 思わずそう零すと、青白い光がぴくりと揺れた。

 

 芹亜の周囲に、さらに細い霊糸みたいな光が浮かぶ。巻きつくわけじゃない。けれど、呼吸の間や視線の動きまで、勝手に整えようとしてくるみたいな圧があった。

 

『乱れは破綻を呼ぶ』

 

 声がした。

 

 高くも低くもない。感情を削ぎ落としたような、平らな声だ。なのに、耳じゃなく頭の奥へ直接落ちてくる嫌な響きだった。

 

「ニコラ・テスラ……」

 

 芹亜がその名を呼ぶ。

 

『理解するなら、抗う必要はない』

 

「どうして、そんなに全部を揃えようとするんですか」

 

 芹亜が問う。怖くないわけがない。けれど、その声は逃げていなかった。

 

『揃っていれば、壊れない』

 

「でも、それじゃ誰も、自分で選べない」

 

『選ぶから誤る。誤るから壊れる』

 

「ほんと、気に入らねえな」

 

 俺がそう言うと、陸王も小さく息を吐いた。

 

「僕も同感だ。歌まで整列させる気かよ」

 

『歌もまた、正しく配置されれば美しい』

 

「それは歌じゃなくて、管理だ」

 

 陸王の声が落ちた、その瞬間、青白い光が一気に強くなる。

 

 畳も、壁も、天井も、全部が一度、白く塗り潰された。

 

 次の瞬間には、もう寺の一室じゃなかった。

 

 彷霊界。

 

 湿り気のない空気と、色の薄い空。寺の部屋だったはずの場所は、青白い電光が格子のように走る奇妙な空間へ変わっていた。床の境目も壁の端も曖昧で、それなのに全体だけは異様に整っている。気味が悪いほど、綺麗に。

 

「……ほんと、趣味が悪い」

 

 青木が吐き捨てる。

 

「場ごと持っていったか」

 

 雪庭の声も低い。

 

 その前方に、怨霊が並んでいた。

 

 自然発生の群れじゃない。前衛、中列、後衛。さらに横の支えまでいる。最初からそうあるべき配置で置かれたみたいに、寸分違わず並んでいた。

 

「だったら、壊すだけだ」

 

 俺はテガソードを抜く。

 

「時間を稼げ。芹亜が歌へ入るまで持たせるんだ」

 

 雪庭の言葉に、俺は舌打ちしながらも頷いた。

 

「最初からそう言え!」

 

「じゃあ、派手に行くぞ!」

 

 陸王がレオンバスター50を構える。

 

「前は俺が食う!」

 

「その道を僕が広げる!」

 

 次の瞬間、俺たちは同時に飛び出していた。

 

 最前列へ噛みつくように踏み込む。テガソードで一体を斬り裂き、その勢いのまま二体目へ肩ごとぶつかる。怨霊の列が揺れる。そこへ陸王の射撃が通る。青い光が中列を撃ち抜き、俺が開けた穴をさらに広げていく。

 

 だが、前回までと同じじゃない。

 

 今回は、向こうがこっちの連携を読んでくる前提で動いている。俺はわざと荒く見せる。一直線に突っ込むように見せながら、本命の一歩だけを遅らせる。そこへ差し込まれるはずだった怨霊の列が、空振る。そこを今度は陸王が取る。

 

「甘い!」

 

 陸王が上から撃ち下ろす。レオンバスター50の弾が、霊糸で補正される前の怨霊をまとめて吹き飛ばした。

 

「いいぞ、そのまま食え!」

 

「言われなくてもだ!」

 

 俺は前へ出る。獣みたいに低く沈んで、前衛の足元を刈る。倒れたところへさらに踏み込み、後ろの列へ斬り上げる。隊列は整っている。なら、その整い方ごと崩せばいい。

 

 だが、やはり気持ち悪い。

 

 怨霊の動きが一拍早い。俺が踏み込む位置、陸王が撃つ角度、その全部を先に読んで、青白い霊糸が微調整してくる。

 

「制御が細かい……!」

 

 雪庭が後ろで言う。

 

「ただ操るんじゃない。動きまで補正してる」

 

 俺の刃を避けた怨霊が、あり得ない角度で身体をずらす。陸王の弾道の前に、別の霊が滑り込む。普通の群れなら、こんな真似はできない。

 

「面倒くせえな!」

 

「だから嫌だって言っただろ!」

 

 陸王が上から怒鳴る。その声と同時に、青白い光の中心で、人影が形を取り始めた。

 

 細い輪郭。電光をまとった青白い影。男だ。冷たい目をしている。けれど、そこにあるのは怒りや狂気じゃない。壊れたくないから揃える、と本気で信じている奴の目だった。

 

「非効率な戦いだ」

 

 ニコラ・テスラが言う。

 

「うるせえよ」

 

「効率だけで全部測ってると、肝心なもん見落とすぞ」

 

 陸王が返す。

 

 テスラは、感情らしい揺れもなくこちらを見る。

 

「見落としは誤差だ。誤差は排除すべきだ」

 

 その言葉と同時に、怨霊たちがさらに整列する。動きが洗練される。まるで一つの巨大な装置みたいに、無駄なく連動し始めた。

 

 俺は前衛を裂きながら、ちらりと後ろを見る。

 

 芹亜は目を閉じていた。胸元へ手を当て、そこへ流れ込んでくる青白い旋律を受け止めている。まだ歌には入れていない。けれど、もう入口には立っている顔だった。

 

 テスラもまた、その芹亜を見ていた。

 

 敵意だけじゃない。どこかで、何かを確かめたがっているような視線だった。

 

 その時、芹亜が目を開いた。

 

「あなた、支配したいんじゃない……」

 

 戦いの音の中でも、その声は妙にはっきり届いた。

 

 テスラの視線がそちらへ向く。

 

「壊れるのが怖いんですね」

 

 沈黙。

 

 それはほんの一瞬だった。だが、その一瞬で十分だった。

 

 怨霊の補正が止まる。霊糸の動きが遅れる。たったそれだけの綻びで、戦場の流れが変わる。

 

「今だ、芹亜!」

 

 雪庭の声が飛ぶ。

 

「行け!」

 

 陸王が叫ぶ。

 

「届かせろ、恩人!」

 

 俺も吠える。

 

 芹亜が目を閉じる。

 

 次の瞬間、歌が始まった。

 

 冷たい旋律だった。整っていて、揺れがなくて、まるでガラスの線で作られたみたいな音だ。けれど、その奥にあるものは冷たさだけじゃない。壊れることを怖がった孤独と、誰にも理解されなかった焦りが、旋律の底に静かに沈んでいた。

 

 gifted。

 

 その歌が流れた途端、空間の質が変わる。

 

「変わった……」

 

 陸王が低く言う。

 

「空気が、ほどけてる」

 

 俺にも分かった。さっきまで拘束のために張り巡らされていた霊糸が、今は別のものになっている。縛るためじゃない。触れるための糸へ、少しずつ変わっていく。

 

「怨霊の動きが止まってる」

 

 青木の声がした。

 

 実際、その通りだった。整列していた怨霊たちは、もう誰かに押し込まれるみたいな動きをしていない。ただ、その場で歌を聞いているみたいに揺れていた。

 

 芹亜とテスラの間で、何かが通っている。

 

 言葉じゃない。旋律の中で、互いの本質が触れ合っている。どうして揃えたかったのか。どうして壊れることを恐れたのか。どうして人まで制御しようとしたのか。その全部が、歌の中で少しずつほどけていく。

 

 テスラの目が、わずかに伏せられる。

 

 そして、青白い霊糸が切れていく。

 

 操られていた怨霊たちが、次々に力を失って、その場へほどけていく。整列していた空間もまた、歪んで、元の曖昧な彷霊界の空気へ戻り始める。

 

 歌の終わり際、芹亜が静かに言った。

 

「……もう、全部を揃えなくてもいいです」

 

 テスラは答えない。

 

 ただ、その冷たい目の奥で何かが静かに揺れたのが分かった。

 

 やがて、彼はほんのわずかに視線を落とす。

 

 そして。

 

 無言のまま、芹亜へ頭を下げた。

 

「……」

 

 思わず息が止まる。

 

 陸王が小さく吐く。

 

「そう来るか」

 

「和解、に近いな」

 

 雪庭が静かに言う。

 

 青木は眉をひそめたままだった。

 

「でも、残る気はないみたいね」

 

 その通りだった。

 

 テスラはもう芹亜を見ていない。頭を上げると、そのまま背を向ける。青白い電光が、その輪郭を少しずつほどいていく。消滅じゃない。砕けるんでも、浄化されるんでもない。

 

 立ち去る。

 

 ただ、それだけだった。

 

 青い粒子の尾を引きながら、ニコラ・テスラは静かにその場を去っていった。

 

 残されたのは、ほどけた空間と、歌の余韻だけだった。

 

 俺は肩の力を抜ききれないまま、その消えた先を見ていた。敵と言い切るには、妙に静かすぎる去り方だった。かといって、すぐ仲間だの何だの言える相手でもない。

 

「……敵って言い切るには、少し違ったな」

 

 陸王がそう言う。

 

「だからって気に入るわけじゃねえけどな」

 

「それでいい」

 

 雪庭が答える。

 

「理解と肯定は別だ」

 

 青木が肩をすくめた。

 

「でも、これで終わりとも思えないわね」

 

「はい」

 

 芹亜が、小さく頷く。

 

「……また、会う気がします」

 

 その言葉に、誰もすぐには返さなかった。

 

 彷霊界の空気はもう静かだ。さっきまでの、無理やり全部を揃えられるような圧は消えている。けれど、完全に縁が切れた感じもしない。

 

 遠くで、ごく小さな青白い光が一度だけ瞬いた。

 

 テスラは消えていない。

 

 ただ、今は去っただけだ。

 

 俺はそれを見届けてから、ようやく大きく息を吐いた。

 

 面倒な相手だった。これから先も、たぶん面倒なままだ。けれど、歌でしか触れられない相手がいるってことだけは、嫌でもはっきりした。

 

 陸王が横で小さく笑う。

 

「歌を禁じる世界で、歌が一番人をほどいてるの、皮肉だな」

 

「だから潰す相手は決まってんだろ」

 

 俺がそう返すと、雪庭がわずかに目を細めた。

 

「次もこう上手くいくとは限らない」

 

「分かってるよ」

 

 青木が言う。

 

「でも、道筋くらいは見えたわ」

 

 芹亜は胸元へ手を当てたまま、まだ消え残る青白い余韻を感じているみたいだった。

 

 夜の風が、少しだけ静かになる。

 

 その静けさの中で、俺はもう一度だけ、テスラの消えた先を見た。

 

 敵でもなく、味方でもない。

 けれど、無関係でもなくなった。

 

 そんな厄介な相手が、またひとり増えた気がした。

 

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