ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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神に仕えし者

 神社の空気は、寺ともまた違っていた。

 

 石段を上がった先に広がる境内は、昼の光をまっすぐ受けて白く乾いている。玉砂利は陽を跳ね返して眩しく、掃き集めた落ち葉の匂いには、少し湿った土の気配が混じっていた。風が吹くたび、拝殿の軒先に吊られた鈴がかすかに鳴る。高くもなく低くもない、細い金属音が木々の葉擦れに溶けて、妙に遠くまで響いていく。

 

 こういう場所は、静かなはずなのに耳へ入ってくるものが多い。

 

 竹箒の先で玉砂利を掠める音。水を打った石畳の冷たい匂い。賽銭箱の脇に積まれた古い木箱のざらついた木目。日陰に入れば少しだけ温度が下がって、逆に夏の陽射しの強さがよく分かる。

 

「そっち、ちゃんと掃いて。残ってる」

 

 青木の声が飛んでくる。俺は箒を止めずに、足元の落ち葉をまとめながら小さく舌打ちした。

 

「細けえな」

 

「細かくやる場所だからでしょ、神社ってのは」

 

 もっともらしいことを言いやがる。だが、青木の言うことも間違ってはいない。石段の脇にたまった葉や、狛犬の足元に入り込んだ細い枝を放っておくと、妙に目立つ。こういう場所の空気ってのは、少し崩れただけでもすぐ分かる。

 

 少し離れたところでは、陸王が木箱を運んでいた。陽を受けた白いシャツの背中がやけに様になっているのが腹立たしい。

 

「でも、こういう場所で働くのも悪くないな」

 

 そんなことを言いながら、あいつは本殿の方を見上げた。風に揺れる注連縄の白い紙垂が、青空に切り取られてひどくよく映えている。

 

「お前、寺でもそんなこと言ってなかったか」

 

「静かな場所は嫌いじゃないんだよ。吠君と違って」

 

「勝手に決めんな」

 

 言い返しながら、俺は箒を持つ手を止めて拝殿の方へ目をやった。朱でも金でもない、落ち着いた木の色をした社殿。長い時間を吸い込んだ柱は日に焼けてつやを失っているのに、妙にきれいだった。人の手がちゃんと入ってる場所だけが持つ空気だ。

 

 芹亜は社務所の軒下で、濡らした布を絞っている。白い布が細い指の中でねじられて、水滴がぽたりと石へ落ちた。雪庭はこの神社の人と何か話していて、時々こちらへ目を向けては、問題が起きていないか確かめるみたいに微かに目を細めている。

 

 境内に満ちているのは、張りつめた緊張じゃない。もっと古くて、穏やかな静けさだった。

 

 だからだろうか。

 

 社殿を見上げながら、ふと妙なことが気になった。

 

「……そういや、ここって何の神を祀ってんだ?」

 

 口にした途端、陸王が露骨に意外そうな顔をした。

 

「今さらそこを聞くのか」

 

「働かされてる場所が何なのかくらい、気にはなるだろ」

 

 雪庭がちょうど話を終えて戻ってきたところだった。俺の問いに、少しだけ考えるみたいに視線を社殿へ向ける。

 

「この神社は、特定の神格を強く押してるわけじゃないらしいよ。昔から土地を守る場として残ってる形だ。古い社では、そういうところもある」

 

「へえ」

 

 社殿の影が、ちょうど石段の半分くらいまで伸びている。その曖昧な境目を見ながら、俺はなんとなく鼻を鳴らした。決まった神がいない神社、なんてのもあるのか。

 

 横で、陸王が面白そうに笑う。

 

「なんだ、テガソードでも祀ってるかと思ったのか?」

 

「そんな面倒なのがいてたまるか」

 

 即答すると、芹亜が小さく笑った。

 

 その笑いに乗っかるみたいに、陸王が肩をすくめる。

 

「でも、神社って聞くと、あいつを思い出すな」

 

「……あいつ?」

 

 芹亜が首を傾げる。陸王はあっさり答えた。

 

「暴神竜儀」

 

 その名前が出た瞬間、思わず顔がしかめっ面になるのが自分でも分かった。

 

「うわ、出たよ」

 

「そんな反応をするほどか?」

 

「するだろ」

 

 俺は箒の柄に肘を預ける。

 

「テガソードを本気で信仰してる変わった奴だよ。ずっとテガソード様テガソード様って、神官みてえな格好で言ってるし」

 

「ひどい紹介だな」

 

 陸王が苦笑する。

 

 けど、反論し切らないあたり、こいつも否定はできないんだろう。

 

「でも、根は真面目だし、話してて案外筋が通ってるぞ」

 

「そこが余計に厄介なんだよ」

 

 言うと、芹亜が少しだけ楽しそうに俺たちを見比べた。

 

「陸王さんは、暴神さんと仲がいいんですか?」

 

「仲がいい、っていうか……何かと気が合う仲間、かな」

 

「どこがだよ」

 

「向こうは向こうで理屈があるし、変なところで妙に丁寧だし」

 

「最後の二つしか分かんねえ」

 

 俺が吐き捨てると、陸王が喉の奥で笑う。

 

「吠君が雑すぎるだけじゃないか?」

 

「うるせえ」

 

 風が吹いて、境内の木がざわりと鳴った。梢の向こうに見える空は高くて、夏の青が少し白んでいる。石段の上では小さな蜥蜴が日向と日陰の境目を素早く横切っていった。

 

 妙に穏やかだった。

 

 こういう時間がずっと続くわけじゃないと知ってるからこそ、その穏やかさがかえって浮いて見えるくらいに。

 

「歌がない世界でも、こういう静けさは綺麗なんだな」

 

 陸王がふいに、そんなことを言った。

 

 拝殿の屋根の向こうで雲がゆっくり流れている。鈴の音がまたひとつ鳴って、そのあとは蝉の声だけが長く伸びた。

 

「感傷に浸るには早えだろ」

 

「相変わらずだな」

 

 そう返す陸王の声も、さっきまでより少し静かだった。

 

 そこで、芹亜がふっと顔を上げる。

 

「……誰か来ます」

 

 言われて、俺も気配を拾った。

 

 石段の下から、まっすぐこちらへ向かってくる足音がある。迷いがない。参拝客の歩き方じゃない。木々の影が揺れる向こう、白い陽射しの中からひとつの影が浮かび上がってきた。

 

 少女だった。

 

 年は俺たちとそう変わらないくらいか。見覚えはない。けれど足取りには妙な強さがあった。石段を上がる速度も、境内へ入った時の目線の置き方も、いちいちまっすぐすぎる。知らない場所へ来た人間の迷い方じゃない。

 

 風が吹く。少女の髪が少し揺れる。陽射しの中へ踏み出してきたその姿は、細いのに妙に堂々としていた。

 

「誰だ、お前」

 

 俺が言うと、少女は怯みもせずこっちを見る。

 

 その視線は、まず俺へ来て、それから陸王へ移った。二人を見比べるみたいに、ほんの一瞬だけ目を動かす。けれど、その動きにも迷いがない。

 

「少なくとも参拝客には見えないな」

 

 陸王が隣で呟いた。

 

 少女はその場で足を止めた。境内の真ん中。拝殿を背にして立つ俺たちの前。社殿の影と陽射しの境目に、くっきりとその輪郭が浮かんでいる。

 

 白い雲が一枚、日を少しだけ遮った。境内の明るさがわずかに和らぐ。

 

 その静かな変化の中で、少女はまっすぐ言った。

 

「ちょうどよかった」

 

 声まで、よく通る。若さはあるのに、逃げる響きがどこにもなかった。

 

「あんたたちに勝負を申し込みに来た」

 

 境内の空気が、一瞬で変わる。

 

 さっきまでの穏やかな静けさが、今度は別の意味で張りつめる。鈴の音も、蝉の声も、その瞬間だけやけに遠く感じた。

 

「……は?」

 

 思わずそんな声が漏れる。

 

 陸王は逆に、少し面白そうに目を細めた。

 

「ずいぶん真っ直ぐだな」

 

 雪庭の表情が静かに引き締まる。青木は露骨に嫌そうな顔をしながらも、すでに半歩だけ前へ出ていた。芹亜も、小さく息を呑んだまま少女を見ている。

 

「ユニバースライダーか」

 

 雪庭が低く言う。

 

 少女はそれに答えない。けれど、否定もしない。ただ真っ直ぐ立っている。その立ち姿だけで十分だった。覚悟を決めて来た奴の空気は、見れば分かる。

 

「逃げるなら追う」

 

 少女は続ける。

 

「でも、できれば正面から来てほしい」

 

 風がまた吹いた。拝殿の鈴が小さく鳴って、木々の影が境内を横切る。

 

 神を祀る場所の静けさの真ん中で、見知らぬ少女は不思議なくらい堂々としていた。

 

 その目に、迷いはなかった。

 

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