ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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狂信者現る

 黄金の門から現れた暴神竜儀は、俺たちの困惑なんて最初から想定に入っていないみたいな顔で、片手に提げていたグランドピアノを地面へ下ろした。

 

 ごとり、と重い音が広場へ落ちる。

 

 薄暗くなりかけた空の下、その黒い艶だけが妙に生々しく光って見えた。街外れの人気のない広場。ひび割れたコンクリート。錆びたフェンス。草の匂い。そこへ、神官じみた礼服の男と、場違いにもほどがあるグランドピアノ。頭がおかしくなりそうなくらい景色が噛み合っていなかった。

 

「いや、なんで今、それを持っているんだよ」

 

 俺と陸王の声が、また綺麗に重なる。

 

 雪庭も、芹亜も、マコも、さすがに同じところへ引っかかったらしい。

 

「ピアノを片手で持っている!?」

 

 広場に響いたその総ツッコミを、竜儀は丸眼鏡の奥で一度だけ瞬いて受け止めた。

 

 それから、何もおかしくないと言わんばかりに礼服の袖を整え、当然のようにピアノの椅子へ座ろうとする。

 

「いやさか。場も整った。では、これより――」

 

「待て」

 

 俺が即座に言う。

 

 だが竜儀は止まらない。

 

「――テガソード様賛美歌を」

 

「待て待て待て!」

 

 今度は陸王まで飛び込んだ。俺が右腕を掴み、陸王が椅子ごと引こうとする。竜儀はそこで初めて、本気で不満そうな顔をした。

 

「なぜ邪魔をする! 私のテガソード様への愛の歌を!!」

 

 やたら通る声だった。

 

 夕空へまっすぐ突き抜ける勢いで言い放たれたせいで、一瞬、風まで止まった気がした。フェンスの向こうの草だけが、遅れてざわりと揺れる。

 

 マコが完全に置いていかれていた。

 

「え、今そんな話だった?」

 

「私も、少し整理が追いついていないわ」

 

 青木さんが穏やかな声で言う。穏やかなのに、困惑だけは隠しきれていない。

 

「本当に弾くつもりだったんですね……」

 

 芹亜は芹亜で、変なところに感心していた。

 

 雪庭が小さく息を吐く。

 

「話がまた別方向へ飛んだな」

 

「飛びすぎだろ!」

 

 俺が怒鳴ると、竜儀は眉を寄せた。

 

「吠。貴様、何をそんなに荒ぶっている。テガソード様を讃えることは尊き務めだ」

 

「今それを始める流れじゃねえんだよ!」

 

「いや、理屈は分かるけど、タイミングが最悪なんだよ」

 

 陸王が珍しく真顔で言う。だが竜儀は、こっちの常識を理解しようとする顔ではなかった。

 

「最良だが?」

 

「穏やかに断言しないでほしいわね……」

 

 青木さんが静かに額へ手を当てる。

 

 そこから先は、ひどかった。

 

 事情を説明しようとすると、竜儀は途中で「なるほど」と頷きながら、すぐ「しかし、それと賛美歌を妨げる理由にはならないな」と話を戻そうとする。マコが勝負を申し込みに来たと伝えれば、「いやさか、覚悟ある願いは尊い」と感心したあとで、なぜかピアノへ手を伸ばす。幼馴染の病を治したいのだと聞けば、「それは切実だ」と真面目な顔をしたくせに、その次の瞬間には「では、その決意をテガソード様へ届けるためにも一曲――」と続けようとする。

 

 止める。説明する。逸れる。戻す。逸れる。止める。

 

 その繰り返しで、気づけば空はすっかり夕暮れを越えていた。

 

 広場の端から影が伸びきり、遠くの街の灯りがぽつぽつと滲み始めている。風の温度も少し落ちた。フェンスの向こうでは、昼間には聞こえなかった虫の声が鳴いている。

 

 そして。

 

「……なるほど」

 

 一時間くらい経って、ようやく竜儀が本当にそう言った。

 

 俺は思わず顔を上げる。

 

「いや、今かよ」

 

「長かったな……」

 

 陸王が心底疲れた声を出した。

 

 青木さんも、さすがに少しだけ遠い目をしている。

 

「私、少し気が遠くなりかけたわ」

 

「理解したなら何よりだよ」

 

 雪庭だけが、まだ比較的落ち着いていた。こいつも大概すげえ。

 

 芹亜は小さく安堵の息を吐き、マコは逆に呆然としていた。

 

「え、じゃあ今まで何を……?」

 

「テガソード様への愛を、十分に語っていただけだが?」

 

「十分すぎんだよ!」

 

 反射でそう言い返すと、竜儀はなぜか少しだけ不満そうに目を細めた。いや、なんでこっちが責められる側みたいな空気なんだ。

 

 だが、そのあと竜儀はふっと姿勢を正した。

 

 乱れのない動きで礼服の襟元へ触れ、袖口を整える。さっきまであれだけ場を引っかき回していたくせに、そういう所作だけはやたら綺麗だった。厳しく育てられた、ってやつなんだろう。気に入らねえが、妙に様になる。

 

「では、名前だけは言っておこうか」

 

 竜儀は、今度はまっすぐマコの方を見た。

 

 その目つきがさっきまでと少し違う。ふざけているわけでも、信仰心だけで突っ走っているわけでもない。妙に静かで、真面目だった。

 

「暴神竜儀。テガソード様に仕えし者だ」

 

 マコが、わずかに息を呑む。

 

「……暴神、竜儀」

 

 警戒は解いていない。けれど、少なくとも目の前の男がいい加減な気持ちでここへ来たわけじゃないことだけは分かったらしい。

 

 竜儀はそのまま一歩だけ前へ出た。

 

 夜の入り口みたいな薄青い空気の中で、礼服の裾がかすかに揺れる。背後には場違いなグランドピアノ。なのに、その瞬間だけは妙に神託じみた空気があった。

 

「御剣マコ」

 

 呼ばれた瞬間、マコの肩がぴくりと揺れた。

 

 まだ名乗っていない。なのに、当然みたいに名前を呼ばれたことに戸惑っているのが分かる。

 

「私がここへ来た理由は、一つ」

 

 風が抜ける。

 

 フェンスの錆びた匂いと、夜気の冷たさが少し濃くなった。

 

 竜儀は静かに、けれど揺るぎなく言った。

 

「テガソード様の導きにより、あなたを救いに来ました」

 

 そこで、今度は本当に全員が止まった。

 

「……は?」

 

 最初に声を出したのは俺だった。

 

「救いに?」

 

 陸王が首を傾げる。

 

 雪庭もさすがに眉を寄せる。

 

「どういう意味だ、それは」

 

 青木さんも、穏やかな声のまま問い返した。

 

「私もそこは説明してほしいわ」

 

 芹亜がマコを見る。

 

「マコさんを……?」

 

「え……私を?」

 

 マコ自身が、一番分かっていない顔をしていた。

 

 竜儀だけが変わらない。

 

 丸眼鏡の奥の目は静かで、その言葉を本気で言っているのが嫌でも伝わる。冗談でも、気まぐれでもない。あいつは本当に「救う」と言っている。

 

「いやさか。急であろうとも、導きは導きだ」

 

「いや、説明が全然足りてねえだろ!」

 

「そこを飛ばして納得できる相手、かなり少ないぞ」

 

 俺と陸王が立て続けに突っ込むと、竜儀はわずかに目を伏せた。反省したわけじゃない。たぶん、なぜ分からないのかが本気で分かっていない顔だ。

 

 広場の空気は、もう完全にめちゃくちゃだった。

 

 幼馴染を救いたいと叫んだ少女。

 その勝負に踏み切れずにいた俺たち。

 そこへテガソードの共鳴で現れた暴神竜儀。

 しかもグランドピアノ付き。

 そして、いきなりの「救いに来ました」だ。

 

 面倒が増えた、なんてもんじゃない。

 

「話が、一気に変わったな」

 

 雪庭が低く言う。

 

「ええ。でも、静かには済まなさそう」

 

 青木さんが頷く。

 

 芹亜はまだマコと竜儀を見比べていて、マコは戸惑いと警戒を混ぜた顔のまま動けないでいる。

 

 陸王が小さく笑った。

 

「同感だけど、少しだけ面白くもなってきた」

 

「お前はそういうとこだぞ」

 

 俺はそう返しながらも、竜儀から目を離せなかった。

 

 あいつは本気だ。

 本気で、マコを救いに来たと言っている。

 

 だったら、その意味を聞かないわけにはいかない。

 

 夜の色が広場へ少しずつ落ちてくる。黄金の門の残光はもう消えていたが、代わりに置かれたグランドピアノの黒だけが、薄明かりの中で妙にくっきりしていた。

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