ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
今後はなるべくしないように注意していきます。
暴神竜儀の「救いに来ました」という言葉が落ちたあと、広場には妙な静けさが広がった。
日がほとんど沈みきって、空の青はもう夜に近い。フェンスの向こうを走る車のライトが、時々だけ細くこちらへ流れてくる。さっきまで御剣マコの叫びで張りつめていた空気は、今は別の意味で固まっていた。
「……は?」
最初に声を出したのは、やっぱり俺だった。
救いに来た。そう言われても、すぐ飲み込めるほど簡単な話じゃない。
マコも同じだったらしい。強い目をしていたはずの顔が、今はまるで置いていかれたみたいに揺れている。
「私を……?」
竜儀は、こっちの戸惑いなんか最初から分かっていたみたいに、静かに頷いた。
「いやさか。テガソード様は告げられた。御剣マコ、あなたの願いは、決して見捨てるべきものではないと」
マコの喉が、小さく上下する。
「じゃあ、本当に……助かるの?」
その声だけは、年相応だった。さっきまで勝負を言い切っていた時の張りつめた強さとは違う。ただ願いに縋りたい十六の少女の声だった。
その問いに、俺と陸王はほとんど同時に顔を見合わせた。
いや、顔を見合わせたっていうより、勝手に互いの表情が目に入った、ってだけだ。で、相手も自分と同じような顔をしてるのが分かった。
微妙な顔。
たぶん、それがいちばん近かった。
テガソードは確かに神だ。願いから生まれた存在だし、人を救おうとする力だってある。けど、だからって、目の前の病気が都合よく、今この場で、全部どうにかなる――そんなふうには、どうしたって思えなかった。
青木さんが、その空気の変化に気づいたらしい。穏やかな声で聞いてくる。
「……どうしたの、二人とも」
芹亜もこっちを見る。
「何か、引っかかるんですか?」
俺は頭を掻いた。
言いにくい。けど、変に希望だけ煽るよりはましだろう。
「テガソードは、まぁ確かに人の願いで出来た神で、人を助けようとは思うけど」
そこで言葉を切る。陸王が、俺の続きを拾った。
「そんなに都合の良い事は、さすがにいきなりは」
マコの表情が、ほんの少しだけ落ちる。
その反応を見るとこっちまで気分が悪くなりそうだったが、嘘を言う気にもなれなかった。
「……そっか」
小さく、マコが言う。
諦めたわけじゃない。そう簡単に折れる子でもないんだろう。ただ、現実が急に戻ってきた、それだけだ。
その時だった。
竜儀が、唐突に大きく目を見開いた。
丸眼鏡の奥の目が、いつもの穏やかさを吹き飛ばして、ぐっとこちらへ向けられる。ぞくりとした。ああいう顔をしてる時のこいつは、だいたいろくでもない。
「――吠!」
いきなり名を呼ばれて、思わず肩が跳ねる。
「何だよ」
「テガソード様が言っている!」
声が、ひどく張っていた。
「お前に、それを可能にする力があると!」
「俺!?」
思わず叫ぶ。俺が? 何で? というか何を?
マコも、陸王も、雪庭も、全員が一斉に俺を見る。見られたって知らねえ。こっちが聞きたい。
「彼が……?」
マコの目が揺れる。
「でも、どうすれば」
「信じるのです!」
竜儀は一歩前へ出た。夜の入り口みたいな薄い空気の中で、礼服の裾が揺れる。背後にはグランドピアノ。どう考えてもおかしい絵面なのに、本人だけは本気で神託の伝達者みたいな顔をしていた。
「テガソード様に! テガソード様に願いを託せば、その力は強まる!」
それを聞いた雪庭が、なんとも言えない顔になる。
「そっちの方も実は間違いではないんだよなぁ」
「そう言われても、どうやってって話よね」
青木さんが静かに言う。
俺も同意見だった。願いを託せ、信じろ、祈れ。竜儀の言うことはいつも勢いだけなら立派だ。けど、肝心の手順がない。
「おい、竜儀。そこを飛ばすな」
「飛ばしてはいない。導きはすでに示されている」
「どこにだよ」
「ここに」
そう言って、竜儀が俺の腰元を指した。
次の瞬間、ゼッツのライダーリングが小さく脈打った。
「……っ」
淡い光だった。けど、確かに反応した。
芹亜が息を呑む。
「ライダーリング……?」
陸王も眉を上げた。
「今のは」
俺は反射的にリングへ手をやる。掌の中で、それはまだ熱を残していた。
「まさか、これが?」
「いやさか!」
竜儀が即座に断言する。
「導きは示された! 今すぐ! 向かおう! 病院へ!」
その一言で、マコの顔が変わった。
疑いも戸惑いも、全部まだ消えていない。それでも、今はそれより縋りたい気持ちの方が強かった。
「……うん!」
返事は、叫びに近かった。
そこからは慌ただしかった。
街へ戻る。夜へ滑り込んだ道路のアスファルトは、昼間の熱を少しだけ残していた。コンビニの明かりが角ごとに滲んで、信号待ちの車の列が赤く流れていく。病院までの道をマコが先に走る。俺たちも続く。竜儀はなぜかグランドピアノを置いてきた。いや、置いてきたのはいい判断だが、そもそも持ってこなきゃよかっただろ。
「本当に、間に合うの……?」
走りながら、マコが振り返りもせずに言った。
「知らねえよ」
息を吐きながら返す。
「けど、反応したのは事実だ」
「ここまで来たら、やるしかないな」
陸王が横から言う。
「理屈が追いつかなくても、今は動いた方がいい」
「ええ」
青木さんも穏やかに頷く。
「考えるのは、そのあとでもできるわ」
「いやさか。テガソード様の導きに迷いなし」
竜儀だけは最初から何ひとつ迷っていない。そういうところは、たまに羨ましいと思う時もある。ほんの一瞬だけだが。
病院へ着くと、空気がまた変わった。
自動ドアが開く。冷えた空気と一緒に、消毒液の匂いが流れ出てくる。白い光。磨かれた床。夜の病院特有の、妙に音が吸われる静けさ。人はいるのに、みんな声を潜めていて、廊下の向こうから聞こえる靴音だけが細く伸びる。
マコは受付を過ぎて、迷いなく奥へ向かった。
「こっち……!」
俺たちはその後を追う。病室の並ぶ廊下は明るいのに、どこか冷たい。壁際の椅子。閉じた病室の扉。小さなモニターの電子音。そういう全部が、ここが誰かの生死の近くなんだと嫌でも思い知らせてくる。
病室の前で、マコが止まった。
扉の向こうに、幼馴染がいるんだろう。マコの手が、ドアノブへ伸びかけて止まる。その指先の震えだけで、ここまでの強さの裏にあったもんが少し見えた。
俺はゼッツのライダーリングを取り出した。
「それで」
リングを見下ろしながら言う。
「この姿になったのは良いけど、どうするんだ?」
誰にともなく言ったつもりだったが、答えたのはやっぱり竜儀だった。
「祈るのです! 願いを! テガソード様に!」
「祈るって、そんな雑な――」
「雑ではない!」
竜儀の声が、病院の静けさの中でやけに響く。
「信仰とは力だ! 願いは導きとなり、導きは力となる!」
「声量を考えてくれ」
陸王が小さく注意する。そういうところはまともだ。
俺は舌打ちしそうになりながらも、リングをテガソードへ装填した。金の刃が低く唸る。空気が震える。夜の病院の廊下に、場違いな駆動音が響き始めた。
『ライダーリング!ゼッツ!グッドモーニング! ライダー!ゼ・ゼ・ゼッツ!インパクト!』
光が走る。
装甲が重なる。ゼッツへとエンゲージした瞬間、視界が少しだけ変わった。病院の白い光が鋭くなって、空気の流れが妙にはっきり見える。けど、それで何をすればいいのかまでは、やっぱり分からない。
「で?」
変身した手を見下ろしながら、俺はもう一度聞いた。
「どうするんだよ」
マコの願いが背後で張りつめている。竜儀の信仰も前にある。なのに、肝心のやり方が見えない。
その時だった。
ゼッツの力が、もう一度脈打つ。
右手の上に、何かが現れた。
緑色の、小さなカプセム。丸みを帯びたそれは、病院の白い光の中でやけに鮮やかに見えた。
「それ……!」
芹亜が目を見開く。
雪庭も息を止めた気配を見せる。
「新しい力か」
陸王が低く言う。
「なるほど。そう来るのか」
マコが、今にも泣きそうな顔で一歩前へ出る。
「お願い……!」
その声が、妙にまっすぐ胸へ来た。
俺は緑色のカプセムを握りしめる。どうしてかは分からない。けど、これを使えばいいんだという感覚だけはあった。竜儀の信仰とか、テガソードの導きとか、正直全部はまだ納得していない。それでも今は、目の前の願いに答える方が先だった。
カプセムを起動する。
音が鳴る。
『リカバリー!メツァメロ! メツァメロ!グッドモーニング! ライダー!ゼッツ・ゼッツ・ゼッツ!リカバリー!』
緑の光が、一気に広がった。
柔らかいのに強い光だった。ゼッツの装甲へ重なりながら、その輪郭を少しずつ変えていく。熱じゃない。むしろ、張りつめたものをほどくみたいな、静かな力だ。
エスプリムリカバリー。
変身を終えた自分の手を見る。さっきまでとは違う。攻めるためじゃなく、包み込むための力だと、触れなくても分かる。
病室の前の空気が、しんと静まり返った。
マコは祈るみたいに俺を見ている。竜儀は言うまでもなく確信に満ちた顔だ。雪庭たちは驚きと半信半疑を抱えたまま、でも目を逸らさない。芹亜の目には、少しだけ希望が浮かんでいた。
「……頼むから、うまくいってくれよ」
思わず、そう零れていた。
それが自分の願いなのか、マコの願いを代わりに口にしただけなのか、自分でもよく分からなかった。
ただ、今はその力を信じるしかなかった。