ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
砂埃の向こうに立つブレイドは、何も言わなかった。
ただ、デルタと爆神のあいだへ割って入り、剣を構えたまま動かない。寺の空気はまだ張りつめている。さっきまでデルタが振り撒いていた殺気が、形を変えてその場へ残っていた。
海――デルタは、体当たりで体勢を崩されたまま、苛立ちを隠そうともしなかった。デルタムーバーを握る手に力が入り、肩が小さく上下している。あいつの目には、止められたことへの怒りしかない。
「……何、それ」
低い声だった。
「邪魔する気?」
ブレイドは、そこでようやく口を開いた。
「すいません、お礼が遅れてしまって」
その声を聞いた瞬間、背筋の奥がざわついた。
聞き覚えがある。いや、あるどころじゃない。病院で会った時の、あの少し控えめで、それでも芯のある声だ。
「その声は……」
思わず一歩出る。
「まさか、マコさんか」
横で陸王も目を細める。
ブレイドは答えない。けれど、否定もしなかった。その沈黙だけで十分だった。芹亜が息を呑む。
「やっぱり……!」
青木さんも穏やかな声のまま、けれど驚きを隠せずに言う。
「本当に、マコさんなのね」
マコさん――ブレイドは、剣を下ろさないまま短く答えた。
「病院で、幼馴染みを助けてくれたので」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
礼を言いに来た。それも、こんな形で。正直、想像はしていなかった。
「……礼を返しに来たってのか」
俺が言うと、ブレイドはほんのわずかにこちらへ顔を向けた。
「律儀だな」
陸王が苦笑する。
けれど、雪庭はすぐに気を引き締めた。
「話はあとだ。今は目の前を止める」
その通りだった。
海は完全に苛立っている。自分の流れを割られたことに、もう我慢が利いていない。デルタムーバーが、ぎらりと不穏な光を帯びる。
「無駄な事を」
吐き捨てるみたいに言って、デルタがブレイドへ銃口を向けた。
まっすぐだった。撃つ気だ。迷いがない。寺の柱も、人も、何も関係ない。ただ邪魔なものを消すためだけの構え方。
けれど、引き金が引かれるより先に、ブレイドが動いた。
左手から一枚のカードが抜かれる。ためらいもなく、それを手にした剣へ通す。金属が擦れるみたいな短い音のあと、澄んだ機械音が鳴り響いた。
『MAGNET』
次の瞬間、デルタムーバーが強く引かれた。
「なっ」
海の声が裏返る。
ただ引き寄せられたんじゃない。狙い澄ましたみたいに、デルタムーバーの軌道そのものが持っていかれた。海の手首がぶれ、銃口が寺の外へ逸れる。あいつ自身、予想していなかったのが見て取れた。
「武器が……!」
芹亜が思わず声を上げる。
「引き寄せたのか」
陸王が低く呟く。
その一瞬だった。
ほんの一拍。けれど、戦いの中じゃ致命的な長さだ。
暴神は、それを見逃さなかった。
ゴジュウティラノの巨体が地を蹴る。重い。重いのに速い。ティラノハンマー50を大きく振りかぶり、そのまま全身の勢いごと乗せてデルタへ叩き込む。
『ティラノハンマークラッシュ!』
音声が寺の境内へ轟いた。
「いやさかぁっ!」
暴神の咆哮と同時に、ティラノハンマー50がデルタへ直撃する。
鈍い衝撃音だった。
けれど、鈍いくせに逃げ場がない。真正面から質量ごと潰すみたいな一撃だ。デルタの身体が大きくのけぞり、そのまま地面へ叩きつけられる。
「がはぁっ!?」
短い悲鳴。
そのまま海は石畳の上へ転がり、二度、三度と小さく跳ねてから止まった。起き上がろうとする気配はない。デルタの装甲も、もうさっきまでの攻撃性を保てていなかった。
「落ちたか」
俺は息を吐きながら、まだ警戒を解かずに近づく。
デルタは動かない。海も気絶しているらしく、ぴくりとも反応しなかった。
「完全に落ちたみたいね」
青木さんが穏やかに言う。
「今のうちに確保するよ」
雪庭が短く告げる。
俺はしゃがみ込み、海の手元を探った。指先に触れたのは、ひとつだけじゃなかった。
「……あった」
まず取り上げたのは、デルタのライドウォッチ。紫がかったその表面が、夕方の薄い光を鈍く跳ね返す。
そして、もうひとつ。
「こっちもか」
手に収まったそれを見て、陸王が目を細めた。
「カイザまで持ってたのか」
黄色のライドウォッチ。デルタだけじゃない。海は、さらに別の力まで握っていたってことだ。
「かなり危ない相手だったんですね……」
芹亜が小さく言う。
俺は無言で二つを握り直した。気に入らない相手だった。力の使い方も、願いの持ち方も、全部が荒れていた。だからこそ、これ以上持たせておくわけにはいかなかった。
「いやさか。不穏な力がまた一つ、回収されたか」
暴神が、ハンマーを肩へ担ぎながら言う。まだ少し怒気は残っているが、声はもう落ち着いていた。
戦いが止まったことで、寺の空気も少しずつ元へ戻っていく。折れた枝の匂い。砕けた石の粉。夏の風。そういうものが、ようやくまたちゃんと感じられるようになった。