ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
先程までの戦いが終わって、少し経った後。
「結果は、本人から聞くのが一番だろうね」
雪庭が湯呑みを置きながら言う。
その隣で、竜儀だけが最初から落ち着き払っていた。神官じみた礼服の裾を整えながら、いつもの調子で頷く。
「いやさか。テガソード様の導きに、誤りはない」
「そこだけは一切ぶれないな」
陸王が肩をすくめる。
俺は鼻を鳴らした。
「今日は本当はこの前のこと、報告に来たの!そしたら、あの出来事が見えたからね」
その一言だけで、縁側の空気が変わる。
俺も陸王も、雪庭も青木さんも、自然とそっちへ意識が向いた。
「症状、良くなったの」
マコの声はまっすぐだった。
「急に全部治ったわけじゃない。でも、明らかに楽になってるって、お医者さんも言ってた」
少しの沈黙。
庭を抜けた風が、縁側の柱の間をすり抜けていく。
「……本当に?」
芹亜が確かめるように聞くと、マコは強く頷いた。
「うん。本当に」
その返事を聞いた時、胸の奥で何かが少しだけ軽くなるのが分かった。
「なるほど……」
陸王が息を吐く。
「マジで効いたのか」
思わずそう零すと、竜儀がすかさず胸を張った。
「いやさか!」
「お前が得意げになるな」
「当然の結果だ」
「当然で済ませられても困るんだよ」
そう返したものの、昨日の力が本当に意味を持っていたと分かったのは、正直助かった。あれで何も変わってなかったら、いよいよどう顔をしていいか分からなかっただろう。
けど、安心したのと同時に、別の引っかかりも残る。
「でも、何だったんだよあれ」
俺はそのまま口に出した。
「ゼッツの力が急に回復向きに変わって、症状まで良くなるなんて」
「僕も気になるな」
陸王が頷く。
「夢を力に変える、って言っても幅が広すぎる」
「理屈があるなら知っておきたいところだね」
雪庭が言う。
芹亜も、少し不思議そうに首を傾げた。
「願いが強く届いた、ってことなんでしょうか」
「テガソード様ならば当然――」
「その一言で済ませないでほしいのだけれど」
青木さんがやんわりと釘を刺した、その時だった。
空気が、わずかに震えた。
耳に聞こえるというより、胸の奥へ直接落ちてくるみたいな響き。
『ライダーリングは、オリジナルと比べても、十全の力を発揮していない』
テガソードの声だった。
全員が自然と黙る。
庭の木々の揺れる音さえ、一瞬だけ遠くなった気がした。
『だが、思いによって、その力をオリジナルと近づく事が出来る』
『そういう意味では、ゼッツは夢を力に変えるライダー故だろう』
声が消えたあともしばらく、縁側にはその余韻だけが残っていた。
「なるほど。夢を力に変える、か」
陸王が先に呟く。
「オリジナルに届ききらない力でも、思いで補える……」
雪庭が言葉を継ぐ。
「理屈としては、綺麗に繋がるわね」
青木さんも頷いた。
芹亜が、少しだけ目を見開く。
「だから、あの時あんなふうに……」
昨日の病室の前で、マコの願いと、俺の中にあった“何とかしたい”って感覚が、ゼッツの力を押し上げた。そういうことなんだろう。
「要するに、願いが強けりゃ近づけるってことか」
俺がまとめると、竜儀がすかさず満足そうに頷いた。
「いやさか! まさに信念の顕現!」
「君の言い方だと、急に胡散臭くなるな」
陸王が苦笑する。
けど、意味は分かった。分かった以上、昨日の出来事はもう勢いだけの奇跡じゃない。ちゃんと理由のある、力の使われ方だった。
そこでマコが、少しだけ真面目な顔になった。
「それで……これ、持ってきたの」
そう言って取り出したのは、四つのライドウォッチだった。
朝の光を受けて、それぞれが違う色に鈍く光る。手のひらへ並べられたそれを見て、思わず目を細めた。
「これ、私のと含めて、これまで獲得したライドウォッチです」
「四つも……」
芹亜が目を丸くする。
「結構集めてたんだな」
陸王も素直に感心したようだった。
俺はその数より先に、別のことが気になった。
「……良いのか、それ」
ライドウォッチは、願いのために集めてきたものだ。マコにとっては、ただの戦利品じゃない。幼馴染を助けるために、ここまで積み上げてきたもんのはずだった。
竜儀が、珍しく静かな声で聞いた。
「……良いのですか?」
マコは一度だけ目を伏せた。
けれど、次に顔を上げた時にはもう迷っていなかった。
「もしかしたら、間に合わなかったかもしれない」
その声は落ち着いている。
「けれど、皆さんのおかげで助ける事が出来た。だから、これはせめてものお礼です」
誰もすぐには口を挟まなかった。
その重さが分かるからだ。お礼、なんて軽い言葉で流せるもんじゃない。願いのために握ってきたものを、自分の意志で手放す。それだけの覚悟が、その一言に入っていた。
「……そうか」
雪庭が静かに言う。
「ちゃんと決めてきたのね」
青木さんも柔らかく頷く。
竜儀はしばらく四つのライドウォッチを見つめてから、ゆっくり手を伸ばした。
「……分かりました、では」
受け取り方まで、妙に儀式めいている。
それから竜儀は中身を見渡し、迷いなく分け始めた。
「レンゲルは私が預かろう」
まず、緑のライドウォッチを自分の方へ置く。
「カリスは陸王」
「僕がカリスか」
陸王が受け取る。妙に似合いそうで少し腹が立つ。
そして、残る二つがこっちへ差し出された。
「ブレイドとギャレンは、吠」
「俺、二つもかよ」
思わずそんな声が出た。
「いやさか。導きに従ったまでだ」
「便利な言い方ね」
青木さんが穏やかに言う。
「でも、戦力が増えるのは確かだ」
雪庭が短くまとめる。
芹亜も、並んだライドウォッチを見ながら小さく頷いた。
「それぞれ、ちゃんと意味がある気がします」
俺は受け取った二つを見下ろす。新しい力。新しい厄介ごと。どっちにしろ、無関係じゃいられないってことだけはよく分かった。
マコはそこで、ふっと肩の力を抜いた。
昨日までの、張りつめて立っていた感じが少し薄い。全部終わったわけじゃない。幼馴染の病気だって、これで完全に消えたわけじゃないだろう。それでも、絶望だけだった場所に、ちゃんと別の色が差したんだと分かる顔だった。
「それじゃ、私はこれで!」
明るい声だった。
「ありがとうございます!」
そう言って、深く頭を下げる。その仕草は勢いよくて、でも雑じゃなかった。頭を上げた時の顔には、昨日より少しだけ素直な笑みがあった。
そのままマコは、くるりと身を翻して寺を後にする。
去っていく背中は、昨日ここへ来た時よりずっと軽い。
「……よかった」
芹亜がぽつりと零した。
「ちゃんと笑えるようになってたな」
陸王も言う。
「少なくとも、一つは救えたってことだろうね」
雪庭のその言葉に、誰も異論はなかった。
しばらく、みんなでマコの背中が見えなくなるまで見送る。
寺の空気は、朝と同じようでいて、どこか少しだけ違っていた。風が柔らかい。日差しが穏やかだとか、そういうことじゃない。昨日から持ち越していた張りつめたものが、ようやく少し解けたんだと思う。
俺は手の中のライドウォッチを見下ろしながら、小さく息を吐いた。
「……なんか、綺麗に収まっているけど、なんというか」
「色々と勢いがあったな」
陸王がすぐ隣で言う。
それがあまりにもその通りだったから、思わず鼻で笑った。
竜儀も静かに頷く。
「いやさか。導きとは、時に激流のようなもの」
「今のは、少しだけ分かるわ」
青木さんが穏やかに言う。
「少しだけ、ね」
雪庭が付け足すと、芹亜が小さく笑った。
「でも……悪くない激流でした」
その言葉に、誰もすぐ否定しなかった。
悪くない、ってのはたぶん本当だ。めちゃくちゃだった。勢いで押し切られたところもある。竜儀は相変わらずだし、俺は昨日の力をまだ完全には飲み込めていない。けど、それでも、一つ助かった願いがある。
それだけで、まあ、十分なのかもしれなかった。