ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

5 / 30
勧誘

 楓は、俺を見ているというより、刃物の癖でも測るみたいに観察していた。

 

 目つきは静かだ。けれど、静かなだけで甘くはない。俺が半歩でも変な動きをすれば、その瞬間に間合いへ入ってくる。そういう張り方をしている。森の中だっていうのに、こいつだけ空気が違った。

 

 それでも、不思議と嫌な感じばかりでもなかった。

 

 言い方は硬い。目も鋭い。なのに、追い詰めるためだけに立ってるんじゃないのが分かる。俺を敵か何かと決めつけて叩き伏せるなら、もっとやりようはあるはずだ。警戒はしている。だが、それでも話を切らない。そこに、わずかに優しさみたいなものが残っていた。

 

 後ろの雪庭は、もっと厄介だった。

 

 笑っているように見える。声も柔らかい。けれど、こっちの服の汚れや持ってる包みより、もっと別のものを見ている気がする。身なりだの態度だのじゃなく、この世界に馴染んでいないってこと、そのものを。

 

 MiucSとかいう、この世界じゃ当たり前のもんに俺がまるで触れてないことまで、たぶんもう気づいてる。

 

 こいつは、俺が金を持ってないとか戸籍がないとか、そういう表の事情より先に、常識の外に立ってる存在だと見ている。そういう目だった。

 

「遠野君、だったかな」

 

 雪庭が、木の幹に半ば身を預けるようにして言った。

 

「君、今の暮らしを続けるつもりはあるかい」

 

「あるように見えるかよ」

 

「見えないね」

 

 あっさり返されて、少し腹が立つ。

 

「けど、続けられないとも思ってる。数日なら凌げる。もう少しも、たぶん何とかなる。だが、その先は別だ」

 

「偉そうに言うな」

 

「観察したままを口にしてるだけだよ」

 

 その口調が、なおさら気に入らない。

 

 俺は包みを握り直した。中の実がかすかに潰れる。こんなもんで腹を誤魔化しながら、森の中で何日も保つわけがないのは、自分がいちばんよく分かっていた。

 

 楓が一歩だけ前へ出る。

 

「あなたは普通ではありません」

 

 断定だった。

 

「戦い慣れている。森にも慣れ始めている。けれど、この世界の人間の動きではない」

 

「……」

 

「私たちも、今は普通ではないものを追っています」

 

 そこで初めて、楓の声にわずかな熱が混じった。

 

「少し前から、これまでの霊的事案とは明らかに異なる痕跡が出ています。人が消えたわけでも、悪霊が現れたわけでもない。ただ、意味の分からない戦闘の跡だけが残る。熱、破壊痕、気配。どれも、今までと違う」

 

 ユニバースライダーのことだろう。

 

 さすがに、そこまではもう隠し通せないかもしれない。路地裏であれだけやり合って、何も残らない方が不自然だ。

 

 雪庭が続けた。

 

「こちらとしては、その未知の力に対抗できる手が欲しい。情報でも、人でも、どちらでもね」

 

「それで俺のところへ来たのか」

 

「そういうことになる」

 

 否定しなかった。

 

 妙な誠実さだと思う。もっと上手く誤魔化すこともできただろうに。

 

 楓が俺を見据える。

 

「あなたは身元不明です。ですが、それ以上に、何かを知っている顔をしている」

 

「顔で分かるのかよ」

 

「分かります」

 

 また即答だった。

 

「少なくとも、何も知らない遭難者の顔ではありません」

 

 言い返そうとして、やめた。たぶん今の俺は、かなり酷い顔をしている。森で拾った食い物を持っていても、ただ飢えた一般人には見えないだろう。俺自身、もう何日もそんな顔で生きていない。

 

「で」

 

 低く息を吐く。

 

「お前らは、俺をどうしたい」

 

「勧誘したい」

 

 楓の方が先に言った。まっすぐで、変に飾りがない。

 

「私たちの側へ来てください」

 

「楓」

 

 雪庭が名を呼ぶ。止めるのかと思ったが、その声色には少し困ったような笑いが混じっていただけだった。

 

「もう少し柔らかく言った方がいいんじゃないかな」

 

「回りくどくする必要はないでしょう」

 

 そう返してから、楓は一度だけ言葉を選ぶように沈黙した。

 

「……少なくとも、今のあなた一人では限界が来ます」

 

 そこは、乱暴なくせに妙に優しい言い方だった。

 

「私たちも、未知の相手に備える必要がある。利害は一致しているはずです」

 

 利害、か。

 

 その通りだと思った。

 

 このまま森と街の間を行ったり来たりしても、状況はじり貧だ。ユニバースライダーのことを調べるにも、飯を食うにも、寝るにも、何をするにも足場が足りない。現状を変えるなら、どこかに食い込む必要がある。

 

 問題は、その相手が信用できるかどうかだ。

 

 楓は真正面から来る。そこはまだ分かりやすい。だが雪庭は違う。あの柔らかい顔の奥に、別の目的を隠している。こいつは俺を拾いたいんじゃない。使えるかどうか見ている。それが分かる。

 

「……信用しろってのか」

 

 そう言うと、雪庭はすぐには答えなかった。

 

 森の奥で鳥が鳴く。風が梢を揺らす。しばらくしてから、ようやく口を開いた。

 

「今すぐ全部を信じろとは言わないよ」

 

 その言葉は、少し意外だった。

 

「こちらも君をまだ知らない。君も私たちを知らない。なら、最初から信用なんてものは薄くて当然だ」

 

「だったら」

 

「それでも、必要なら手を組む理由にはなる」

 

 静かな声だった。

 

「君には足場がいる。こちらには、未知に対抗できる手が欲しい。まずはそれで十分じゃないかな」

 

 俺は黙ったまま、二人を見る。

 

 楓は少しも視線を逸らさない。雪庭は穏やかなまま、急かしもしない。逃げようと思えば、今も逃げられるかもしれない。けれど、その先にあるのはまた同じ森と空腹だ。しかも今度は、こいつらに背を向けた分だけ、余計に面倒になる。

 

 答えは、最初から半分決まっていたのかもしれない。

 

「……話だけだ」

 

 喉の奥で言葉を転がしてから、ようやく吐く。

 

「今すぐ全部乗る気はねえ。けど、話くらいは聞いてやる」

 

 楓の肩から、ほんの少しだけ力が抜けたのが分かった。

 

「それで十分です」

 

 雪庭は笑う。

 

「うん。それでいい」

 

 気に入らないくらい、落ち着いた声だった。

 

 俺は包みを腰の辺りへ押し込みながら、二人へ向き直る。

 

「勘違いすんなよ。お前らを信用したわけじゃねえ」

 

「でしょうね」

 

 楓が言う。

 

「あなたは、そう簡単に人を信じる人には見えません」

 

「そりゃどうも」

 

「ですが」

 

 そこで少しだけ、楓の目が和らいだ。

 

「それでも来ると決めたなら、私は無駄にはしません」

 

 やっぱり、この女は不思議だった。

 

 冷たいわけじゃない。優しいわけでもない。ただ、必要な時に必要な分だけ、まっすぐ手を伸ばしてくる。そんな感じだった。

 

 雪庭が森の奥へ顎をしゃくる。

 

「じゃあ、行こうか。続きを話すには、ここは少し落ち着かなすぎる」

 

 俺は二人の背中を見て、小さく息を吐いた。

 

 現状を変えるためには必要だ。そう頭では分かっている。けれど、信用するにはまだ遠い。その距離を抱えたまま、俺は一歩だけ前へ出た。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。