ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
楓は、俺を見ているというより、刃物の癖でも測るみたいに観察していた。
目つきは静かだ。けれど、静かなだけで甘くはない。俺が半歩でも変な動きをすれば、その瞬間に間合いへ入ってくる。そういう張り方をしている。森の中だっていうのに、こいつだけ空気が違った。
それでも、不思議と嫌な感じばかりでもなかった。
言い方は硬い。目も鋭い。なのに、追い詰めるためだけに立ってるんじゃないのが分かる。俺を敵か何かと決めつけて叩き伏せるなら、もっとやりようはあるはずだ。警戒はしている。だが、それでも話を切らない。そこに、わずかに優しさみたいなものが残っていた。
後ろの雪庭は、もっと厄介だった。
笑っているように見える。声も柔らかい。けれど、こっちの服の汚れや持ってる包みより、もっと別のものを見ている気がする。身なりだの態度だのじゃなく、この世界に馴染んでいないってこと、そのものを。
MiucSとかいう、この世界じゃ当たり前のもんに俺がまるで触れてないことまで、たぶんもう気づいてる。
こいつは、俺が金を持ってないとか戸籍がないとか、そういう表の事情より先に、常識の外に立ってる存在だと見ている。そういう目だった。
「遠野君、だったかな」
雪庭が、木の幹に半ば身を預けるようにして言った。
「君、今の暮らしを続けるつもりはあるかい」
「あるように見えるかよ」
「見えないね」
あっさり返されて、少し腹が立つ。
「けど、続けられないとも思ってる。数日なら凌げる。もう少しも、たぶん何とかなる。だが、その先は別だ」
「偉そうに言うな」
「観察したままを口にしてるだけだよ」
その口調が、なおさら気に入らない。
俺は包みを握り直した。中の実がかすかに潰れる。こんなもんで腹を誤魔化しながら、森の中で何日も保つわけがないのは、自分がいちばんよく分かっていた。
楓が一歩だけ前へ出る。
「あなたは普通ではありません」
断定だった。
「戦い慣れている。森にも慣れ始めている。けれど、この世界の人間の動きではない」
「……」
「私たちも、今は普通ではないものを追っています」
そこで初めて、楓の声にわずかな熱が混じった。
「少し前から、これまでの霊的事案とは明らかに異なる痕跡が出ています。人が消えたわけでも、悪霊が現れたわけでもない。ただ、意味の分からない戦闘の跡だけが残る。熱、破壊痕、気配。どれも、今までと違う」
ユニバースライダーのことだろう。
さすがに、そこまではもう隠し通せないかもしれない。路地裏であれだけやり合って、何も残らない方が不自然だ。
雪庭が続けた。
「こちらとしては、その未知の力に対抗できる手が欲しい。情報でも、人でも、どちらでもね」
「それで俺のところへ来たのか」
「そういうことになる」
否定しなかった。
妙な誠実さだと思う。もっと上手く誤魔化すこともできただろうに。
楓が俺を見据える。
「あなたは身元不明です。ですが、それ以上に、何かを知っている顔をしている」
「顔で分かるのかよ」
「分かります」
また即答だった。
「少なくとも、何も知らない遭難者の顔ではありません」
言い返そうとして、やめた。たぶん今の俺は、かなり酷い顔をしている。森で拾った食い物を持っていても、ただ飢えた一般人には見えないだろう。俺自身、もう何日もそんな顔で生きていない。
「で」
低く息を吐く。
「お前らは、俺をどうしたい」
「勧誘したい」
楓の方が先に言った。まっすぐで、変に飾りがない。
「私たちの側へ来てください」
「楓」
雪庭が名を呼ぶ。止めるのかと思ったが、その声色には少し困ったような笑いが混じっていただけだった。
「もう少し柔らかく言った方がいいんじゃないかな」
「回りくどくする必要はないでしょう」
そう返してから、楓は一度だけ言葉を選ぶように沈黙した。
「……少なくとも、今のあなた一人では限界が来ます」
そこは、乱暴なくせに妙に優しい言い方だった。
「私たちも、未知の相手に備える必要がある。利害は一致しているはずです」
利害、か。
その通りだと思った。
このまま森と街の間を行ったり来たりしても、状況はじり貧だ。ユニバースライダーのことを調べるにも、飯を食うにも、寝るにも、何をするにも足場が足りない。現状を変えるなら、どこかに食い込む必要がある。
問題は、その相手が信用できるかどうかだ。
楓は真正面から来る。そこはまだ分かりやすい。だが雪庭は違う。あの柔らかい顔の奥に、別の目的を隠している。こいつは俺を拾いたいんじゃない。使えるかどうか見ている。それが分かる。
「……信用しろってのか」
そう言うと、雪庭はすぐには答えなかった。
森の奥で鳥が鳴く。風が梢を揺らす。しばらくしてから、ようやく口を開いた。
「今すぐ全部を信じろとは言わないよ」
その言葉は、少し意外だった。
「こちらも君をまだ知らない。君も私たちを知らない。なら、最初から信用なんてものは薄くて当然だ」
「だったら」
「それでも、必要なら手を組む理由にはなる」
静かな声だった。
「君には足場がいる。こちらには、未知に対抗できる手が欲しい。まずはそれで十分じゃないかな」
俺は黙ったまま、二人を見る。
楓は少しも視線を逸らさない。雪庭は穏やかなまま、急かしもしない。逃げようと思えば、今も逃げられるかもしれない。けれど、その先にあるのはまた同じ森と空腹だ。しかも今度は、こいつらに背を向けた分だけ、余計に面倒になる。
答えは、最初から半分決まっていたのかもしれない。
「……話だけだ」
喉の奥で言葉を転がしてから、ようやく吐く。
「今すぐ全部乗る気はねえ。けど、話くらいは聞いてやる」
楓の肩から、ほんの少しだけ力が抜けたのが分かった。
「それで十分です」
雪庭は笑う。
「うん。それでいい」
気に入らないくらい、落ち着いた声だった。
俺は包みを腰の辺りへ押し込みながら、二人へ向き直る。
「勘違いすんなよ。お前らを信用したわけじゃねえ」
「でしょうね」
楓が言う。
「あなたは、そう簡単に人を信じる人には見えません」
「そりゃどうも」
「ですが」
そこで少しだけ、楓の目が和らいだ。
「それでも来ると決めたなら、私は無駄にはしません」
やっぱり、この女は不思議だった。
冷たいわけじゃない。優しいわけでもない。ただ、必要な時に必要な分だけ、まっすぐ手を伸ばしてくる。そんな感じだった。
雪庭が森の奥へ顎をしゃくる。
「じゃあ、行こうか。続きを話すには、ここは少し落ち着かなすぎる」
俺は二人の背中を見て、小さく息を吐いた。
現状を変えるためには必要だ。そう頭では分かっている。けれど、信用するにはまだ遠い。その距離を抱えたまま、俺は一歩だけ前へ出た。