ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
彷霊界の空気は、相変わらず刃みたいだった。
風じゃない。もっと細くて、冷たくて、肌のすぐそばを見えない剣先が掠めていくみたいな嫌さがある。朱莉が「重かった」と言った意味が、ここへ足を踏み入れた瞬間から少しずつ分かり始めていた。
怨霊どもが道を塞いでいる。
その奥。
最初から変身したまま、斬月が立っていた。
白い装甲。手にした無双セイバー。地へ半ば打ち込まれたメロンディフェンダーが、少し離れた位置で不自然なくらい静かに立っている。待っていた、というより、最初からここがあいつの間合いだったみたいな立ち方だった。
「歓迎はされてないな」
横で陸王がレオンバスター50を構える。
「不浄の気配が濃い」
竜儀の声は低い。いつもの熱っぽさはあったが、戦いの前だけに出る鋭さがそこへ混じっていた。
芹亜が俺の少し後ろで息を呑む。
「……います」
「ああ」
短く返して、俺は前へ出た。
「前を開ける。二人は崩せ」
「了解」
「いやさか」
踏み込む。
先頭の怨霊へテガソードを叩き込む。裂ける。返した刃で次を払う。三体目が横から飛びかかってくるのを蹴りで弾いて、そのまま身体を沈める。頭上を掠めた腕をかわしざまに斬る。
数だけなら大したことはない。厄介なのは、こいつらがただ襲ってくるんじゃなくて、俺たちを奥へ行かせないためだけに並んでいることだった。
間合いを作るたび、別の怨霊が埋めに入る。
「鬱陶しい……!」
その横を、陸王の射撃が走った。
レオンバスター50の弾が中列を吹き飛ばす。俺がこじ開けた穴を、あいつが広げる。さらに竜儀が前へ出る。ゴジュウティラノの巨体が怨霊の壁へ正面からぶつかり、そのまま押し潰すように道を砕いていく。
普通の相手なら、これで崩れる。
だが、斬月は動かなかった。
いや、動かなかったように見えただけだ。
次の瞬間には、もう目の前へいた。
「っ!」
無双セイバーが閃く。
短い。ひどく短い一太刀だった。なのに、俺が踏み込もうとした線の真ん中だけを正確に断ち切ってくる。受ける。金属音が鳴る。腕に重さが食い込む。その間に、もう斬月は半歩ずれている。
そこへ、今度は陸王の弾が背後から斬月を狙った。
だが、あいつは振り返りもしない。
無双セイバーを返すだけで、弾道を斜めへ切り流す。火花が散る。ひとつ、ふたつ、みっつ。撃たれる位置を見てからじゃない。こっちが連携しようとする、その継ぎ目だけを狙って切っている。
「連携の継ぎ目だけ切ってくる……!」
陸王が舌打ちする。
「やりにくいどころじゃねえ!」
俺も吐き捨てた。
竜儀がティラノハンマー50を振り上げる。質量そのものを叩き込むような一撃だ。あれがまともに入れば、さすがに斬月でも――
そう思った瞬間、斬月はもうそこにいなかった。
重いハンマーが地を打つ。石が跳ねる。その横を、斬月は滑るように抜けていた。大きく飛ぶわけじゃない。ひと足が短い。無駄がない。だから、気づいた時にはもう懐へ入られている。
白い刃が下から閃く。
「ぬっ!」
竜儀が身体をひねる。まともには入らない。けれど、かわしたはずの軌道の端だけが鎧を掠める。でかい一撃に対して真正面から競らない。避けて、空いたところだけ斬る。完全に剣士のやり方だった。
「剣筋が洗練されすぎている……!」
竜儀の声に、驚きが滲む。
さらに厄介なのは盾だった。
斬月はメロンディフェンダーを手に持ち続けない。必要な瞬間だけ使う。
陸王が角度を変えて射撃を重ねた時だった。さっき地へ突き立てられていたメロンディフェンダーが、ちょうどその射線を切る位置にあった。盾へ当たった弾が散る。ほんの一瞬だけ視界が揺れる。その隙に、斬月はもう別の位置へいる。
「盾を置いた……!」
陸王が声を上げる。
「置き盾で射線切ってんのかよ……!」
「防御ですら、攻めの布石か」
竜儀が低く言った。
その通りだった。
守るために盾を使っているんじゃない。斬る邪魔になるものを、消すためにだけ置いている。
斬月が片手を返す。地へ刺さっていたメロンディフェンダーが跳ね上がり、そのまま円を描いて飛んだ。
「っ!」
陸王が後ろへ飛ぶ。
ブーメランみたいに回転した盾が、レオンバスター50の射線そのものを追い払うように迫る。撃たせないための牽制だ。陸王は身をかわしながら距離を取り直すしかない。
「気の利いたことしてくれる……!」
「お前が気持ちよく撃てる相手じゃねえってことだ!」
俺は言い返しながら、もう一度前へ出た。
斬月の正面へ踏み込む。テガソードを振るう。一撃、二撃、三撃。止まらず押し込む。止まれば、その瞬間にこっちの流れが切れると分かっていた。
だが、斬月は受け切る。
受けるというより、流す。押し返すというより、俺の刃が行きたい先だけをずらす。手数はこっちが多い。なのに、一度も“届いた”感触がない。
無双セイバーが短く鳴るたび、こっちの攻めの線が一本ずつ消されていく。
「ちっ……!」
焦れる。
強い相手は嫌いじゃない。けど、これはそういう単純さとも違う。こっちの持ち味を、一つずつ冷静に折りにきてる。
その間に、竜儀がまた圧をかける。ハンマーの重量で正面の空間ごと潰しにいく。陸王も位置を変えながら射線を重ねる。
三方向の圧。
普通なら、どこかで綻ぶ。
だが斬月は、それぞれ別の答えを返してくる。
俺には剣で。
陸王には盾と立ち位置で。
竜儀には身軽さと見切りで。
全部、噛み合っていた。
一度、大きく距離が空いた。
怨霊どもがまた間へ入り込んでくる。俺はそいつらを払いながら息を整える。肺が熱い。腕にはまだ、さっき受けた斬月の重さが残っていた。
「ただ斬月を使ってるだけじゃない」
陸王が低く言う。
その目は、さっきまでよりずっと冷静だった。嫌な相手ほど、あいつはよく見る。
「剣士の魂と鎧が噛み合っている」
竜儀も続ける。
「グレートゴースト側の剣と、斬月の型が合ってるってことか」
俺が言うと、後ろから芹亜の声が小さく届いた。
「たぶん……引っ張られてるんじゃなくて、使い切ってる」
その答えが、いちばん嫌だった。
ただ力を得ただけの暴走なら、どこかに綻びがある。けど、あれは違う。斬月の力が、向こうの剣と完璧に噛み合ってる。だから、ここまで厄介なんだ。
斬月がまた動く。
今度は真正面からだった。
来る。
分かっていても、速い。いや、速いというより、そこへ来るのが自然すぎる。無駄がないから、結果として一歩が異様に短い。
受ける。
衝撃が腕へ入る。
「……っ!」
重い。
朱莉が言っていた意味が、今は身体で分かる。ただ強いだけじゃない。剣へ、何かが乗っている。怒りとか未練とか、そういう言葉で片づけられない、もっと深い重さが。
押し込まれる。
「吠さん!」
芹亜の声が飛ぶ。
その瞬間、正則さんの顔が浮かんだ。
歌ってのは、上手い下手じゃない。生きてたって、思える時間だった。
あの静かな声。忘れたくないって言ってた目。家族を支える時の朱莉の顔。守りたい相手がいる時の顔なんて、見れば分かる。
そんなもんを、こんなふうに断ち切らせてたまるか。
「そんなもんで断ち切れると思うな!」
気づけば叫んでいた。
剣を押し返しながら、喉が裂けるみたいな声が出る。
「歌いたかった気持ちも、守りたいって気持ちも、そんな剣一本で終わらせてたまるか!」
空気が震えた。
斬月の向こうで、何かが一瞬だけ揺れた気がした。
同時に、腰の奥でテガソードが脈打つ。
「今のタイミングで……!?」
陸王が振り向く。
「いやさか……導き!」
竜儀の声が張る。
黄金の光が走った。空間が縦に裂けるように歪み、戦場の一角に門が現れる。眩しい。けど熱はない。ただ、ひどく強い存在感だけが、そこへ立ち上がった。
「誰か来る……!」
芹亜が息を呑む。
門の向こうから、軽い声が響いた。
「おぉ!皆!こんな所にいたって!?えぇ何、あのメロンの一体どういう事!?」
その声を聞いた瞬間、胸の奥で何かが繋がった。
正則さんの静かな目と、諦めたふりをしてまだ手放していない感じ。あの時少しだけ引っかかったものが、今ここではっきりした。
「……禽次郎!」
黄金の門の向こうから、猛原禽次郎が姿を見せる。
斬月は無言のまま、剣を構え直した。怨霊どもがざわめく。空気がまた次の段階へ入っていくのが分かる。
「まさか、ここで来るのかよ」
陸王が笑うように言う。
「いやさか。導きは繋がった」
竜儀の声は、今だけは少し誇らしげだった。
「……まだ終わってない」
芹亜が呟く。
俺は禽次郎の姿を見たまま、短く息を吐く。
「ああ。ここからだ」
黄金の門の光が、まだ少しだけ揺れていた。