ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
斬月の剣が返る。白い刃が、俺のブレイラウザーとウルフデカリバー50のあいだを縫うみたいに滑り込み、二刀の噛み合いを外しにくる。受ければ重い。流せば次が来る。こいつは最後まで、こっちの連携の継ぎ目だけを切りにくる。
だが、もう遅い。
「陸王!」
「任せて」
横へ跳んだカリスが、空気を裂いた。カリスアローが弓から刃へ切り替わる。低い位置からの斬撃が、地面へ突き立っていたメロンディフェンダーの縁をかすめた。盾がわずかに傾く。
そこへ、今度はレンゲルのラウザーが伸びた。
「いやさか――」
竜儀の声と共に、円刃めいた先端が盾へ絡む。力任せに引き抜くんじゃない。置き場所そのものをずらす。斬月が次に使おうとしていた線から、ほんのわずかに外す。
その一瞬で十分だった。
俺は踏み込む。
マッハの勢いを脚へ残したまま、ブレイラウザーを振り抜く。斬月は無双セイバーでそれを受ける。受けるしかない。さらにもう一振り、ウルフデカリバー50で食い込む。二刀の圧で、斬月の剣を正面へ釘付けにする。
「逃がすか!」
火花が散る。鍔迫り合い。腕が軋む。けれど、離さない。
その横から、カリスの風を帯びた一撃が走った。斬月の足さばきを読むみたいに、退く先だけを薙いでいく。さらにレンゲルの冷気が地を這い、足元を縛るように広がった。
斬月の視線が、初めてわずかにぶれた。
その瞬間、上から赤い銃声が落ちる。
ギャレンだ。
禽次郎の弾丸が、ずらされたメロンディフェンダーを正確に撃ち抜いた。盾が大きく跳ね、斜めへ弾かれ、そのまま地を滑って遠くへ転がっていく。
「これで、その盾はもう使えないな!」
禽次郎の声が戦場へ響く。
斬月の気配が変わった。無言のまま、それでも確かに分かった。守りの芯を失った時の剣士の、ほんの一拍の空白だった。
俺が押さえる。
陸王が退路を切る。
竜儀が前へ出る。
そして禽次郎だけが、逆に大きく引いた。
走る。
赤い装甲が、彷霊界の荒れた地面を一直線に駆ける。助走だ、と分かった時には、もうあいつの手はギャレンラウザーへカードを叩き込んでいた。
『ドロップ!ファイヤ!ジェミニ!バーニングディバイド!』
音声が、空気そのものを燃やすみたいに鳴り響く。
「房子ォォォォォォォォッ!!」
叫びと共に、禽次郎が跳んだ。
高い。信じられないくらい高く。赤い影が空の鈍い色へ食い込む。そのまま前方へ二度、深く回る。さらに半身をひねる。体操の演技みたいに綺麗な軌道なのに、まとっているのは殺しきるための炎だった。
途中で、影が二つに分かれる。
「二人に……!」
後ろで芹亜が息を呑む。
燃えながら落ちてくる二つのギャレン。左右から、片足ずつを振り下ろす。双つのオーバーヘッドキック。炎の尾が交差し、空中へ鋭い軌跡を残した。
斬月が迎撃しようとする。だが遅い。
俺が剣を押さえている。
陸王が横を塞いでいる。
竜儀が前へ出て、逃げ場そのものを消している。
「これで決める!」
次の瞬間、炎が落ちた。
左右から叩き込まれた蹴撃が、斬月の身体を正面から貫く。白い装甲が大きくのけぞり、火花と炎が一気に弾けた。衝撃が爆ぜる。音が遅れて追いつく。熱風が顔を叩いた。
吹き飛ぶ。
斬月の身体が、まるで糸の切れた人形みたいに大きく後ろへ跳ね、地面を何度も打って転がった。そのたびに白い装甲が明滅し、罅が走るみたいに光が漏れる。
「解けた……!」
思わず声が出る。
白い装甲が砕けるように剥がれ、まばゆい光の中で変身が解除される。だが、その中身を見極めるより先に、ひとつの物体が甲高い音を立てて地面へ跳ねた。
ライドウォッチ。
斬月の力を宿したそれが、転がり、転がり、ちょうど禽次郎の足元で止まる。
禽次郎が着地する。膝を折り、荒く息を吐きながら、それでも口元だけは少し笑っていた。
「お、ちゃんと落ちた」
「軽く言うなよ……」
俺が息を吐くと、陸王が肩を竦める。
「でも、決着としては分かりやすい」
「いやさか……」
竜儀が静かに頷いた。
「一つの導きが、ここで結実したか」
戦いの音が、ようやく遠のいていく。
怨霊どもも、さっきまでみたいな勢いを失っていた。張りつめていた彷霊界の空気が、ほんの少しだけほどける。俺はまだ剣を下ろさなかったが、それでも終わりの気配は分かった。
禽次郎が足元のライドウォッチを拾い上げる。
その時だった。
「あの……」
小さく、芹亜が声を出した。
今の今まで息を呑んでいたくせに、変なところでちゃんと気になるらしい。禽次郎が振り向く。
「ん?」
「さっき……」
芹亜は少し迷ってから、でもやっぱりそのまま口にした。
「必殺技の時に叫んでいた“房子”って……誰なんですか?」
一瞬、場が止まった。
俺は思わず禽次郎の方を見る。陸王も同じだった。竜儀は無言のまま、けれどやけに真面目な顔で禽次郎を見ている。
そして少し離れたところで、追いついてきた雪庭が肩を上げた。
「……確かに、勢いで流しかけたけれど」
苦笑しながらも、その目は普通に気になっている。
「そこは気になるね」
「僕も少し思ってた」
陸王があっさり乗る。
「今そこ拾うのかよ」
俺が言うと、芹亜はきょとんとしたまま首を傾げた。
「だって、すごく大事そうに叫んでたので……」
「いやさか」
竜儀まで静かに頷いた。
「確かに、尋ねる価値はあります」
お前もかよ。
視線が全部、禽次郎へ集まる。
禽次郎はライドウォッチを手にしたまま、ほんの一瞬だけ黙った。いつもの軽い笑みが消える。消えたのはほんの一拍だけだったが、それで十分だった。
やがて、またいつもの調子みたいに肩をすくめる。
「……ま、その話はまた今度な」
「誤魔化したな」
俺が即座に言うと、雪庭も小さく笑う。
「なおさら気になる言い方だ」
「房子さん……」
芹亜が、名前を確かめるみたいに小さく呟いた。
彷霊界の薄暗い空の下で、その名前だけが妙に引っかかった。
戦いは終わった。けれど、それで全部が片づいたわけじゃない。斬月のライドウォッチ。消えきらない剣の気配。まだ見えていない正体。そして、禽次郎が叫んだ“房子”という名前。
拾い上げられたライドウォッチが、禽次郎の手の中で鈍く光った。