ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦 作:ボルメテウスさん
森を抜ける風は湿っていた。
葉の裏に溜まった水気と、土の匂いと、遠くの水場の冷たさが混ざって、肺の奥へゆっくり沈んでいく。歩きにくい道じゃない。けれど、隣を歩く相手が相手だと、それだけで妙に気が張る。
「足元、気をつけてください」
前を行く楓が、振り返りもせずに言った。
「言われなくても見えてる」
「そうですか」
短い返事だった。余計な言葉を足す気はないらしい。
その少し後ろを歩く雪庭は、対照的に肩の力が抜けているように見える。見えるだけだ。実際には、こっちの呼吸まで数えていそうな目をしている。
「吠君は、もう少し人を頼ってもいいと思うんだけどね」
「頼れって言われて、はいそうですかってなるかよ」
「ならないから困ってる」
雪庭は苦笑した。
その笑い方すら、どこまで本気なのか分からない。
俺は鼻で息を吐いて、視線を前へ戻す。こいつらについて行くと決めたのは自分だ。けれど、信用したわけじゃない。話を聞く価値があると思っただけだ。そこを履き違えるほど甘くはない。
木々の隙間から、白い光がまだらに落ちてくる。楓の背中がそのたびに明るくなって、すぐに影へ戻る。隙のない歩き方だった。森に慣れてる。それも、ただ歩き慣れてるんじゃない。何かが出てもすぐ動ける歩幅だ。
その時だった。
風向きが、ほんの少しだけ変わる。
青い草の匂いの奥に、別のものが混じった。
「……っ」
足が止まる。
「どうしました」
楓が今度は振り返った。
答えるより先に、鼻の奥が熱くなる。前に手にした指輪。あの時、路地裏で嗅いだ、あの異質な匂い。金属とも火花とも違う、もっと深いところに刺さる匂いだった。
間違いない。
似てる。
「吠君?」
雪庭の声も遠くなる。
もう聞いていなかった。
身体が先に走る。
「ちょっと、吠さん!」
背中で楓の声が弾けた。けれど止まれない。枝を払い、斜面を蹴り、匂いのする方へ一直線に駆ける。木の幹が脇を流れていく。落ち葉を踏む音より、自分の鼓動の方がはっきりしていた。
近い。
もうすぐだ。
木立が切れた。
開けた場所に、一人の女が立っていた。
年は俺より少し上か。派手じゃない格好なのに、立ってるだけで妙に目を引く。普通の人間なら、こんな森の中でまず出さない空気をまとっていた。静かだ。けど、静かなだけじゃない。何かを終えたやつの匂いがする。
女が、突然飛び出してきた俺を見て目を見開く。
「え……?」
その一瞬で十分だった。
あいつだ。
俺は息を切ったまま、睨みつける。
「てめぇ、ユニバースライダーか」
空気が変わった。
女の顔から、驚きだけが消える。代わりに、鋭い警戒が差した。
「……その名前を、どこで」
言い終わるより先に、その手が腰へ伸びる。
見覚えのあるベルト。ジクウドライバー。右手には、あの時計型のアイテムが握られていた。
やっぱりだ。
遅れて追いついた楓と雪庭が、背後で足を止める気配がする。けれど今さら説明してる暇はない。
「楓、下がって」
雪庭の声が低くなる。
「ええ」
女は俺たちを順に見て、それから迷いなく時計型のアイテムをベルトの右側へ装填した。
『ライダータイム! 仮面ライダー鎧武!』
低い音声が森に響く。
続けて、鎧武の変身音が重なる。
橙の光が弾けた。
女の輪郭を包むように装甲が走り、甲冑めいた影が一気に組み上がる。肩、胸、腕、脚。果実の鎧みたいな異様なシルエットが、まばたきの間に立ち上がった。
仮面ライダー鎧武。
目の前に現れたその姿を見て、喉の奥が獣みたいに低く鳴る。
それと共に、鎧武は、ライドウォッチのスイッチを押す。
すると。
『大橙丸!』
それと共に、その手にはオレンジの断片に見える刀身の武器がある。
「先に名を知っているなら、見逃す理由はない」
その声は変身前より冷たかった。
背後で楓が息を呑む気配がする。雪庭は黙ったままだ。けれど、その沈黙がかえって張りつめていた。
俺は口の端を吊り上げる。
やっぱり、こうなる。
森の湿った空気が、一気に火花の匂いを孕んだ気がした。
「ならば、こっちもやるとするか!!」『ウォーオオッオー!オー!ゴジュウウルフ!ウォーオオッオー!オー!』
それと共に、俺もまた構える。