ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

6 / 30
戦の匂い

 森を抜ける風は湿っていた。

 

 葉の裏に溜まった水気と、土の匂いと、遠くの水場の冷たさが混ざって、肺の奥へゆっくり沈んでいく。歩きにくい道じゃない。けれど、隣を歩く相手が相手だと、それだけで妙に気が張る。

 

「足元、気をつけてください」

 

 前を行く楓が、振り返りもせずに言った。

 

「言われなくても見えてる」

 

「そうですか」

 

 短い返事だった。余計な言葉を足す気はないらしい。

 

 その少し後ろを歩く雪庭は、対照的に肩の力が抜けているように見える。見えるだけだ。実際には、こっちの呼吸まで数えていそうな目をしている。

 

「吠君は、もう少し人を頼ってもいいと思うんだけどね」

 

「頼れって言われて、はいそうですかってなるかよ」

 

「ならないから困ってる」

 

 雪庭は苦笑した。

 

 その笑い方すら、どこまで本気なのか分からない。

 

 俺は鼻で息を吐いて、視線を前へ戻す。こいつらについて行くと決めたのは自分だ。けれど、信用したわけじゃない。話を聞く価値があると思っただけだ。そこを履き違えるほど甘くはない。

 

 木々の隙間から、白い光がまだらに落ちてくる。楓の背中がそのたびに明るくなって、すぐに影へ戻る。隙のない歩き方だった。森に慣れてる。それも、ただ歩き慣れてるんじゃない。何かが出てもすぐ動ける歩幅だ。

 

 その時だった。

 

 風向きが、ほんの少しだけ変わる。

 

 青い草の匂いの奥に、別のものが混じった。

 

「……っ」

 

 足が止まる。

 

「どうしました」

 

 楓が今度は振り返った。

 

 答えるより先に、鼻の奥が熱くなる。前に手にした指輪。あの時、路地裏で嗅いだ、あの異質な匂い。金属とも火花とも違う、もっと深いところに刺さる匂いだった。

 

 間違いない。

 

 似てる。

 

「吠君?」

 

 雪庭の声も遠くなる。

 

 もう聞いていなかった。

 

 身体が先に走る。

 

「ちょっと、吠さん!」

 

 背中で楓の声が弾けた。けれど止まれない。枝を払い、斜面を蹴り、匂いのする方へ一直線に駆ける。木の幹が脇を流れていく。落ち葉を踏む音より、自分の鼓動の方がはっきりしていた。

 

 近い。

 

 もうすぐだ。

 

 木立が切れた。

 

 開けた場所に、一人の女が立っていた。

 

 年は俺より少し上か。派手じゃない格好なのに、立ってるだけで妙に目を引く。普通の人間なら、こんな森の中でまず出さない空気をまとっていた。静かだ。けど、静かなだけじゃない。何かを終えたやつの匂いがする。

 

 女が、突然飛び出してきた俺を見て目を見開く。

 

「え……?」

 

 その一瞬で十分だった。

 

 あいつだ。

 

 俺は息を切ったまま、睨みつける。

 

「てめぇ、ユニバースライダーか」

 

 空気が変わった。

 

 女の顔から、驚きだけが消える。代わりに、鋭い警戒が差した。

 

「……その名前を、どこで」

 

 言い終わるより先に、その手が腰へ伸びる。

 

 見覚えのあるベルト。ジクウドライバー。右手には、あの時計型のアイテムが握られていた。

 

 やっぱりだ。

 

 遅れて追いついた楓と雪庭が、背後で足を止める気配がする。けれど今さら説明してる暇はない。

 

「楓、下がって」

 

 雪庭の声が低くなる。

 

「ええ」

 

 女は俺たちを順に見て、それから迷いなく時計型のアイテムをベルトの右側へ装填した。

 

『ライダータイム! 仮面ライダー鎧武!』

 

 低い音声が森に響く。

 

 続けて、鎧武の変身音が重なる。

 

 橙の光が弾けた。

 

 女の輪郭を包むように装甲が走り、甲冑めいた影が一気に組み上がる。肩、胸、腕、脚。果実の鎧みたいな異様なシルエットが、まばたきの間に立ち上がった。

 

 仮面ライダー鎧武。

 

 目の前に現れたその姿を見て、喉の奥が獣みたいに低く鳴る。

 

 それと共に、鎧武は、ライドウォッチのスイッチを押す。

 

 すると。

 

 『大橙丸!』

 

 それと共に、その手にはオレンジの断片に見える刀身の武器がある。

 

「先に名を知っているなら、見逃す理由はない」

 

 その声は変身前より冷たかった。

 

 背後で楓が息を呑む気配がする。雪庭は黙ったままだ。けれど、その沈黙がかえって張りつめていた。

 

 俺は口の端を吊り上げる。

 

 やっぱり、こうなる。

 

 森の湿った空気が、一気に火花の匂いを孕んだ気がした。

 

 「ならば、こっちもやるとするか!!」『ウォーオオッオー!オー!ゴジュウウルフ!ウォーオオッオー!オー!』

 

それと共に、俺もまた構える。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。