ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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向かう先は

 銃声の余韻が、森の奥で何度も跳ね返った。

 

 ギーツのマグナムシューター40Xから放たれた弾丸は、斬月の装甲へ真正面から叩き込まれている。普通なら避ける。受けるにしても、角度をずらして衝撃を逃がす。けれど禽次郎は、足元の土を抉られながらも、その場から一歩も引かなかった。

 

 ゴジュウイーグルの胸部アーマーだけが、斬月の武者鎧の下でわずかに残っている。鳥の意匠を宿した胸元に、斬月の緑の装甲が重なり、腰には本来の斬月と同じ戦極ドライバーが巻かれていた。さっきまで空を翔けていた戦士が、今は地面に根を張るみたいに立っている。

 

 葉香は撃ち続けた。

 

 森に溶け込むための擬装が白い装甲の上で揺れ、苔や幹の模様に似た薄い影が、ギーツの輪郭をぼかしている。木陰へ身体を滑らせ、次の射線へ移り、また撃つ。逃げるための動きだけは、本当に無駄がない。

 

「避けなよ。撃ってるんだけど」

 

「避けたら、お前さんの言葉まで避けることになる」

 

 禽次郎はそう言いながら、左腕へ構えたメロンディフェンダーを前へ出した。

 

 弾丸が盾へ当たり、緑の表面に光が散る。電磁の膜が一瞬だけ波紋のように震え、そこへ続けて撃ち込まれた弾を、禽次郎は無双セイバーで弾き上げた。金属音が葉擦れに混じり、切り払われた弾が斜め上へ逸れて枝を折る。

 

 葉香の姿はまた消えた。

 

 けれど今度は、俺にも分かった。完全に見失ったわけじゃない。擬装の端が、呼吸に合わせるようにわずかに揺れている。あいつは森の景色に溶けているが、実戦の圧を受けるたび、その作り物の輪郭が崩れる。

 

「あいつ、本当に受け止める気かよ」

 

 俺が呟くと、西園寺は葉香の消えた木陰を見つめたまま、低く答えた。

 

「攻撃ではなく、対話のための防御……ということでしょうか。普通なら、あれだけ撃たれれば反撃します」

 

「普通じゃねえんだよ、あいつは」

 

 言ってから、俺は斬月の背中を見た。

 

 禽次郎は前に出る。速くはない。けれど、止まらない。一歩ずつ、銃弾を盾で受け、剣で逸らし、葉香の逃げた方向へ歩いていく。その姿は、敵を追い詰める戦士というより、泣きながら逃げる子供を見失わないように歩く大人に近かった。

 

「しつこい。何でそこまで来るの」

 

 葉香の声が、右奥の木々から飛んできた。

 

「子供も孫も見てきたからな。逃げる背中を、放っておくのが苦手なんだ」

 

「私、あんたの子供でも孫でもない」

 

「だからこそ、遠慮なく向き合える」

 

「意味分かんない。ほんと、そういうのが面倒なんだって」

 

 銃声が重なる。今度の射撃は、さっきより早い。だが、そのぶん狙いは少し荒くなっていた。幹に弾が刺さり、土が跳ね、禽次郎の肩を掠めた一発が装甲の表面で火花を散らす。

 

 それでも禽次郎は止まらない。

 

 その時だった。

 

 斬月の胸元に残ったゴジュウイーグルのアーマーが、淡い光を帯びた。続いて、禽次郎の手元にあるライダーリングが緑の光を放つ。森の暗がりの中で、その光だけが妙にはっきりしていた。

 

「……なんだ?」

 

 俺が身を乗り出すより先に、戦極ドライバーが低く反応した。

 

 禽次郎は光るリングを見下ろし、それから息を吐く。驚きはあったはずだが、迷いはなかった。葉香を正面から受け止めると決めた男の顔で、彼は光の中から現れたロックシードへ手を伸ばす。

 

「そこまでして、私の何を聞きたいわけ」

 

 葉香の声が、少しだけ揺れていた。

 

「お前さんが、本当は何を諦めたのかだよ」

 

「……うるさい」

 

「うるさくても構わん。年寄りは、少しくらいうるさいものだ」

 

 禽次郎はウォーターメロンロックシードを掴み、戦極ドライバーへ装填した。ベルトの操作が行われるたび、斬月の鎧に重い緑の光が走る。森の上から巨大な影が落ちてくるように、果実を思わせる大型装甲が展開し、斬月の身体へ覆い被さっていった。

 

『ウォーターメロンアームズ! 乱れ玉 ババババン!』

 

 音声と共に、装甲が噛み合う。

 

 地面が沈んだ。斬月の姿は、さらに巨大で重いものへ変わっていた。ゴジュウイーグルの胸部アーマーは内側に残ったまま、その上から要塞のような重装甲が重なり、腕には巨大なウォーターメロンガトリングが構えられている。盾としても砲としても使えるその武装は、ただ持っているだけで周囲の空気を押し潰すような圧があった。

 

 葉香が一歩退く。

 

「そんな重そうな姿で、私を捕まえられると思ってるの?」

 

「捕まえるだけなら、もっと楽なやり方がある」

 

「じゃあ何する気?」

 

 禽次郎は、ウォーターメロンガトリングの砲口を葉香へ向けなかった。

 

 代わりに、彼女が身を隠している周囲の木々へゆっくりと照準をずらす。葉香はその意図にすぐ気づかなかったらしい。白い狐の面が、わずかに傾く。

 

「隠れる場所を、少し減らす」

 

「は?」

 

「お前さんを撃つ気はない。だが、本音まで隠す場所は残さんよ」

 

 次の瞬間、砲身が回転を始めた。

 

 低い唸りが森の音を塗り潰し、ウォーターメロンガトリングから光弾が連射される。弾は葉香へ向かわない。彼女の周囲にある太い幹、張り出した枝、擬装の影を支えていた木々へ正確に撃ち込まれていく。

 

 大木の幹が砕けた。

 

 枝が折れ、葉が嵐みたいに舞い上がる。倒木が転がり、湿った土が爆ぜ、森の中にあった死角が次々と消えていった。葉香が作った苔のような擬装は、支える景色そのものを奪われ、薄い膜のように剥がれていく。

 

「……っ、ふざけないで!」

 

 初めて、葉香の声に明確な焦りが混じった。

 

 ギーツは木陰から飛び出し、マグナムシューター40Xを構える。だが、隠れる場所を探す視線が先に動いていた。右へ逃げようとして、そこにあった倒木が吹き飛ぶ。左の幹へ身を寄せようとして、そこへ光弾が叩き込まれる。正面から撃たれているわけではないのに、逃げ道だけが削られていく。

 

「あいつ、葉香を狙ってない。森だけを撃ってる」

 

 俺は思わず言った。

 

 西園寺も、散っていく葉と砕ける木々の向こうを見ている。

 

「逃げ道ではなく、言い訳を削っているように見えますね」

 

 その言葉は、妙にしっくりきた。

 

 禽次郎は葉香を倒そうとしていない。ウォーターメロンガトリングの火力なら、ギーツ本人を狙えば一気に押し潰せるはずだ。それなのに、あいつは一発も葉香へ直撃させない。撃っているのは、葉香が隠れるための場所だけだった。

 

 隠れて撃つ。見つからない位置から相手を動かす。葉香にとって、森は安全地帯だったのだろう。ゲームの中で覚えた勝ち方を、そのまま持ち込める場所だったのだろう。

 

 その安全地帯を、禽次郎は真正面から壊していた。

 

「隠れるなとは言わん」

 

 ガトリングの轟音の合間に、禽次郎の声が通る。

 

「逃げるなとも言わん。だがな、逃げ続けるためだけに作った場所なら、僕は壊すぞ」

 

「何で……何でそこまで!」

 

「お前さんが、まだ諦めきれていない顔をしているからだ」

 

 葉香の銃口が揺れた。

 

 その指が、また動く。引き金へかけた指ではなく、反対の指が、何かを押さえるように震えた。鍵盤を叩く癖。自分でも止められない、昔の名残。

 

 その一瞬を、禽次郎は見ていたはずだ。

 

 けれど、何も言わなかった。今ここで踏み込みすぎれば、葉香はまた奥へ逃げる。それが分かっているからか、彼はガトリングを下ろさず、ただ森を切り開き続けた。

 

 光弾が最後の太い幹を砕いた時、森の一角がぽっかり開けた。

 

 さっきまで薄暗かった場所に光が落ちる。葉香の白い装甲が、隠れるものを失ってはっきり見えた。ギーツの狐面はまだ強がるように禽次郎を見ていたが、その足はほんの少し後ろへ下がっている。

 

「……最悪。ほんと、最悪」

 

 葉香は低く呟くと、装甲の周囲へ無理やり擬装を広げた。だが、支える木々を失った創造は不安定で、煙幕のように薄く揺れるだけだった。それでも彼女はその霞に身を沈め、森のさらに奥へ飛び込んでいく。

 

「待て!」

 

 俺は反射的に追おうとしたが、禽次郎が片手を上げて止めた。

 

 ウォーターメロンアームズの重装甲が、わずかに軋む。強力な形態だが、負担も大きいのだろう。禽次郎の肩が少しだけ上下していた。

 

「追わなくていいのかよ」

 

「今日は、あれでいい」

 

 禽次郎はそう言って、葉香が消えた先を見る。

 

「あの子は今、初めて隠れ場所を失った。次は、隠していたものが少し見える」

 

 森の中には、砕けた木々と舞い落ちる葉が残っていた。

 

 完全に勝ったわけじゃない。葉香は逃げたし、本音もまだ聞けていない。それでも、さっきまで見えなかったものが少しだけ見えた気がした。働きたくないという言葉の奥にあった、鍵盤を叩く指。逃げ場所を失った瞬間に揺れた声。

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