ナンバーワン戦隊ゴジュウジャーVSゴーストコンサート : missing Songs ユニバースライダー大戦   作:ボルメテウスさん

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 神社の境内は、数日前に森で起きた戦いが嘘みたいに静かだった。

 

 倒された木々の後始末も少しずつ進み、今は掃き掃除の音と、風に揺れる葉の音が混じっている。俺は箒を動かしながら、あの白い狐の姿を思い出していた。働きたくないと言いながら、隠れる場所を選び、弾を撃ち、最後まで逃げようとした七斑葉香。あいつが何を抱えていたのかはまだ全部分からないが、禽次郎の言葉を聞いた時の顔だけは、妙に頭に残っている。

 

「おぉ、七っち! 数日ぶりじゃないか」

 

「……どうも」

 

 神社の掃除をしていた時に聞こえた会話に、俺達はふと顔を上げた。

 

 鳥居の近くに立っていたのは、数日前に禽次郎と戦っていた元ユニバースライダー、七斑葉香だった。長い髪は相変わらず下ろしたままで、立ち方にも気怠さが残っている。少し前に見たやさぐれた様子から、すぐに何もかも変わっている訳じゃないようだが、少なくとも今日は逃げるために来た顔ではなかった。

 

「いやぁ、あれから姿が見えなかったから少しだけ心配していたぞ」

 

「お爺ちゃんなの、まぁ、別に良いけど」

 

「そこ、受け入れるんだな」

 

 俺が言うと、葉香は面倒そうにこっちを見た。

 

「説明されるのも面倒だから。卵とか若返りとか、あれ以上掘ると長くなりそうだし」

 

「正解だ。長くなる」

 

 禽次郎が笑うと、葉香は軽くため息を吐いた。前ならそのまま踵を返していたかもしれないが、今日は帰らない。何かを言いに来たのだと分かる程度には、足が境内に残っていた。

 

「仕事、決まった。バイトだけど」

 

「おぉ! 本当か!」

 

 禽次郎の声が、掃除中の境内に大きく響いた。驚いた鳥が一羽、近くの枝から飛び立つ。葉香はその反応が大きすぎたのか、少しだけ肩をすくめた。

 

「あんたの言う通り、自分が出来る事から始めたから」

 

 その言葉を聞いて、俺は箒を持つ手を止めた。

 

 あの戦いの後、禽次郎は葉香に、人生は何が役に立つか分からないと言った。働きたくないと言っていても、ここまで自分を追い詰めたのは何かに熱中していたからだろう、と。葉香はゲームのことを少しだけ認め、禽次郎はそこから繋がる何かを見つけるのも一つだと促した。

 

 あの時の葉香は、納得したようには見えなかった。けれど、完全に拒んだようにも見えなかった。

 

「それで、どんな仕事なんだ?」

 

 禽次郎が聞くと、葉香は視線を少し横へ逃がした。

 

「音楽関係の店。楽器とか、譜面とか、そういうのを扱ってるところ。別に大したことはしてないけど、品出しとか、受付とか、客に聞かれたら案内するとか」

 

「音楽関係か」

 

 俺が呟くと、葉香はこっちを見ないまま言った。

 

「昔、ピアノやってたから。今は弾いてない。ただ、知識がゼロよりはましってだけ」

 

 その言い方は投げやりだったが、完全に捨てたものを口にする時の冷たさとは少し違っていた。まだ痛いから乱暴に扱っている、そんな感じがする。

 

「バイト先の人には、経験あるなら助かるって言われた。そんな立派な経験じゃないけど、鍵盤の種類とか、初心者が何を聞きたいかとか、その辺は分かるから」

 

「ちゃんと役に立っとるじゃないか」

 

「たまたま。あと、接客は面倒」

 

「そこは変わらねえのかよ」

 

「変わらない。人と話すの疲れるし」

 

 葉香はそこまで言ってから、少しだけ言い淀んだ。

 

「でも、オンラインゲームで知らない人と喋るのには慣れてたから、なんとかはなってる。ボイスチャットとか、チャットで役割分担とか、そういうの。店でも、客が何を探してるか聞いて、分かる範囲で返すだけなら、ゲームのパーティー募集よりはまだ簡単な時もある」

 

 それを聞いた禽次郎は、目を細めて頷いた。

 

「ほう。ゲームも、ピアノも、ちゃんと繋がった訳だ」

 

「大げさに言わないで。まだバイトだし、続くかも分からない」

 

「続くかどうかは、続けてみないと分からんよ」

 

「そういう正論、だるい」

 

「正論ではなく、年寄りの実感だな」

 

 葉香は露骨に嫌そうな顔をしたが、前みたいに言葉を切って逃げることはなかった。気怠さは残っている。面倒くさいという態度もそのままだ。けれど、数日前に森で銃を構えていた時より、立っている場所が少しだけ違うように見えた。

 

「別に、感謝とかじゃないから」

 

 葉香は小さく言った。

 

「うむ。そういうことにしておこう」

 

「そういうことにしておくって何」

 

「お前さんがわざわざ報告に来たという事実だけで、僕は十分嬉しいということだ」

 

「ほんと、そういうのが面倒」

 

 文句を言いながらも、葉香はすぐには否定しなかった。膝の横で指が少し動く。鍵盤を叩くような癖は、まだ残っている。その指が今は銃を握っていないことに、俺は少しだけ息を吐いた。

 

「……じゃ、報告したから帰る」

 

「それだけ言いに来たのか」

 

 俺が聞くと、葉香は当然みたいな顔をする。

 

「そう。長居すると、また説教されそうだし」

 

「説教ではなく、応援だぞ」

 

「それが一番面倒」

 

 禽次郎の言葉に、葉香は背を向けた。

 

 足取りは相変わらず重そうだ。働くことが好きになった訳でも、未来が急に明るく見えた訳でもないのだろう。けれど、鳥居へ向かう背中は、前に来た時より少しだけ真っ直ぐだった。

 

「葉香」

 

 禽次郎が呼ぶと、彼女は振り返らずに止まった。

 

「一歩進めば十分だ。若い者は、それを積み重ねていけばいい」

 

「……はいはい」

 

 葉香は気のない返事をして、今度こそ歩き出した。

 

 鳥居の向こうへ消えていく背中を見送りながら、俺は箒を持ち直す。あいつがこれからどうなるのかは分からない。バイトを続けるかもしれないし、また面倒だと言って投げ出すかもしれない。けれど、少なくとも今日は、自分が進んだことを報告するためにここへ来た。

 

 それだけで、前とは違う。

 

「嬉しそうだな、禽次郎」

 

「そりゃあ嬉しいさ。若い子が自分で一歩進んだんだぞ」

 

「一歩でそんな喜ぶか?」

 

「一歩を笑う者は、道を知らん者だよ、吠君」

 

 禽次郎はそう言って、また箒を動かし始めた。

 その横顔は若い姿のままだったが、目だけは、長い時間を歩いてきた人間のものだった。

 

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